第2話 時すでに遅し
読んでくださりありがとうございます。マシューとレイモンドは2人でロナルドを追いかけるようです。
レイモンドはワクワクした表情である。完全に調べる気満々である。あまり外に出ない方が良いのではとマシューは思ったが、ロナルドが何をしに出かけたのかは確かに気になるのだ。レイモンドの表情に釣られるようなかたちで好奇心が上回った。
「行こうか、多分行き先は俺の家だと思うんだ」
「へぇ、そりゃなんでだ? 何かあったのか?」
「なんか変な服の大人たちが俺の家にたっくさん入っていったんだ。だから多分行き先は俺の家だよ」
「だったらすぐに行かないとな! ふふっ、それじゃあ早速行こうぜ! ……あ、そうだ。ちょっと待っててよ」
レイモンドは何かに気付いた顔をして家の奥に入って行った。奥からレイモンドと誰かと話す声がする。聞こえて来る声をマシューは知っている。あの声は多分レイモンドのおかあさんだろう。
やがてレイモンドが帰って来た。帰って来たレイモンドは背中に大きな盾を背負っていた。青銅で出来たその盾はとても大きく小さく体を丸めればちょうどマシューとレイモンドの2人が隠れられそうである。
「……どうしたのその盾」
「へへっ、良いだろ? 今年の誕生日にじいちゃんが買ってくれたのさ。これがあれば何かあっても安心だろ? それじゃあ早速行こうぜ!」
「そうだね、行こうか」
こうしてマシューとレイモンドの2人は家を出た。いつもと同じ道なのだがなぜか今日は少し違う感じがする。なにせ分からないことを調べに行くのだ。少しばかりの恐怖心とまるで探検しに行くような気持ちが入り混じったそんな不思議な気持ちを抱えながら、2人は元気よくマシューの家を目指した。
もうすぐマシューの家の玄関が見える。そんな場所まで2人が来たその時、家の中から誰かが叫んだような声が聞こえてきた。何を言っているか聞き取りづらいが声の主は恐らくケヴィンである。一体何が起こったのだろうか。
「……なぁ、マシュー。さっきの声ってマシューのお父さんだよな?」
「うん、……多分。何があったんだろう」
「気になるよな。……ちょっと中をのぞいてみ……!」
レイモンドは言い終わらないうちに手にした盾を放り投げるとマシューを近くの草むらに引きずり込んだ。いきなり引きずり込まれたマシューは当然のように抗議しようとレイモンドの顔を見た。ロナルドと同じような鋭い目つきをレイモンドは浮かべていた。マシューはなにがなんだかさっぱり分からなかった。
「いきなりどうし……」
マシューの当然の抗議は最後まで言えなかった。レイモンドによって口が塞がれたからである。レイモンドはまだ鋭い目つきのままである。
「悪い、ちょっと静かにしてくれ」
「……うん、分かったよ。何か変なものでも……」
マシューが小声でそこまで言った時、レイモンドが見たものであろうものがマシューにも見えた。自分の家から見慣れぬ男たちが出てきたのだ。綺麗だった鎧は少し汚れているように見える。注意深く見るとどうやら何か赤いもので汚れているようだ。血のように見えるその汚れに2人は言葉を失ってしまった。
出てきた男たちは3人。入って行った人数と同じである。何か訳の分からない言葉が飛び交っていたがマシューにはたった一言「地図」という単語だけ聞き取れた。そして彼らはどうやら目的を果たしたようでその場を立ち去りそうだ。
だがその途中1人が道端に転がっていた何かを拾い上げた。マシューは思わずレイモンドの顔を見た。レイモンドはマシューを見る余裕は無い。その顔は血の気が引き青くなっていた。2人のいる場所から少しばかり近くなっていた分話し声は鮮明に聞こえて来た。
「……なんでこんな場所にこんな盾があるんだ?」
「さっき何かが転がるような音がしていた。多分それがどこかから転がって来たんだろう」
「この青銅の盾がか? こんなものが壁かどこかに立てかけてあるなんてことあるのか?」
「ふんっ、そんなに気になるなら拾っておけ。気になるんならな」
「馬鹿言え。こんな盾誰が気になるかよ。こんな盾は……こうしてやるよっ!」
1人の男が手にした盾を宙に放ってから蹴っ飛ばした。空中で真っ二つに割れた青銅の盾は近くの畑に突き刺さった。それを見て得意気になっているのか盾を蹴っ飛ばした男は胸を張っていた。
「そんな盾くらい壊せなくてどうする。目的は果たせたんだ。早く帰るぞ」
「おう。良い気分転換になった。盾の持ち主には礼を言わねぇとな」
そんな会話が聴こえて来る中でマシューとレイモンドの2人はじっと草むらに隠れていた。すっかり声が聞こえなくなってから数分が経過した。もう大丈夫だろう。2人ともほぼ同時に解き放たれたかのように1つ息を吐いた。
「……もう行ったかな」
「……多分な。本当に危なかった。見えてたかマシュー。あの鎧、……血で汚れていたぜ」
「うん、見えてたよ」
「じいちゃんが中にいるかもしれないんだよな。それにマシューの父ちゃんも。……ちょっと怖いけど見に行くか?」
「……うん」
2人は辺りをうかがいながらゆっくりとマシューの家の中を覗き込んだ。そして2人は同時に言葉を失った。血が辺りに飛び散っている。そして壁際に寄りかかるようにして1人が、寝具の側に横たわるようにしてもう1人が血まみれで倒れていたのだ。
そこから先の記憶は曖昧である。多分レイモンドのおかあさんを呼びに行ったんだったか、たまたま近くにいた近所のおじさんを呼んだんだったか。とにかく大人に助けを求めたのだ。自分の家を近所の大人たちが出ては入ってを繰り返しているのをマシューはぼうっと眺めていた。
そして3年の月日が流れた。