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マシューと《七つの秘宝》  作者: ブラック・ペッパー
第6章 その正義は誰がために
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第1話 そのために転移された

 読んでくださりありがとうございます。これより第6章の開始です。


 マシューたちは道と呼べるか少し怪しい険しい道を進み紅玉の祠へとたどり着いていた。約束通りであればここにアンガスがいるはずである。だが、アンガスが足止めしていたはずのガブリエルと戦ったこともあり、マシューたちはここにアンガスがいることは半分諦めていたのだ。


「……アンガスの姿は無いか」


「……残念だが、そうみたいだな」


 辺りを見渡せどアンガスらしき姿は見えない。マシューとレイモンドはほぼ同時に肩を落とした。その時、マシューは何か人の声らしきものを聞き取ったのである。その声はかすかに聞こえ、マシューたちを呼んでいるようだ。


「……声が聞こえる?」


「僕も聞こえた。……ポール?」


「行ってみよう」


 かすかな声故に確信は持てないが何となくその声の主はポールのように思われた。彼ならばアンガスのことも今どういう状況なのかもよく知っているに違いない。マシューたちは耳を澄まし聞こえて来るかすかな声のする場所をたどった。


「……ここか?」


 かすかな声をたどった4人は紅玉の祠の大樹の近くで足を止めた。ポールらしき声が聞こえるのはこの近くのようだがどこからかは判別出来なかった。


「(マシュー! ……ここから入ってくれ!)」


「‼︎ 聞こえた。……確かに聞こえたぞ。……ここから入る?」


 マシューは聞こえて来た声がポールのものであることとこの近くにポールがいることを確信し注意深く大樹をじっと眺めた。


 するとどうだろう。大樹の根元の皮が引き剥がせそうに少し浮いていたのだ。その場所に指を入れてマシューはすっと後ろに引いた。それだけで隠されていた扉が開いたのである。その扉の奥は階段になっており下へ潜ることが出来るようだ。4人は恐る恐るその中へ入り大樹の根の下に潜ったのである。


「ふむ、彼の声はお主に届いたようじゃの。喜ばしいことじゃ」


 4人が階段を降りると広い空間に出たのだ。そこには4人がよく知る人物が2人いたのである。1人はマシューたちにこの場所を気付かせたポールであり、もう1人はソフィアである。相変わらず彼はパイプタバコをゆっくりと楽しんでいた。


「ここはどこなんです?」


 マシューはソフィアの顔を見るなりすぐにそう尋ねた。聞きたいことは山のようにある。そしてマシューはこれからどうするべきかで頭でいっぱいであり、最初に尋ねたそれが本当に今必要な話なのかすら怪しいのだ。


 そんなマシューの表情をまっすぐ見てソフィアは優しく微笑むとゆっくりと煙を吐き出した。唐突に時間の流れがゆっくりになった。そんな気持ちをマシューは感じていた。


「……ここは紅玉の祠と試練の台座のちょうど間にある空間。名前は特に無いのだが、ここに来るものは皆感謝していることから俗に感謝の洞穴とも呼ばれておるの。……さて、私がかつてお主に言った話は覚えておるかの。象徴を手にするものは色々なことが起こる運命を持って生まれてくるという話じゃ」


「……はい」


「今お主はその運命の分岐点におる。……じゃが、状況判断が出来ぬままに正しい選択をするのは難しい。幸いお主にはここに今お主が置かれておる状況をよく知るものがおる。そのものの話を聞き、ゆっくりと選択を考えるのじゃ。お主が正しい選択をしたならば必ずお主のこれまでの人生の選択がお主に力を与えてくれるじゃろう」


 そう言うソフィアの目は優しく張りつめていた緊張が解けるようであった。そしてソフィアの言葉は優しくマシューへ響いた。少しずつ頭の中が整理されていく。今自分がやるべきことは何なのだろうか。今ならばマシューはそれに的確な答えが出せた。今マシューがしなければならないことは状況を正確に把握することである。そうしなければ正しい選択など決して出来ないのだ。


「ポール。……今の状況を詳しく教えてくれるかい?」


「もちろん。そのために私はこの場所に転移されたのだからな。……さ、楽に座ってくれたまえ」


 ポールは優しく微笑み4人に座るよう促した。どうやらこれから伝えられる話はかなり複雑なようである。4人はその全てを理解しようと覚悟を決めてその場に座ったのである。


「……まずどこから話そうか。……そうだな、まずは私自身の話から始めようか」


「ポール自身?」


「君たちは恐らく私のことをポールと言う名の聖騎士だと思っているだろう。それは多分半分合っていて多分半分間違っているんだ」


「……?」


「新米の冒険者パウロでもあり、聖騎士のポールでもある。どちらも私自身であり私自身ではない。名前を持たず主君の与えられた使命をただ全うするためだけの名も無き存在。それが私なんだ」


 マシューはそのことを理解しようと必死に頭を回転させた。だが目の前のポールが言っている意味が一切分からなかった。いったいどういう意味なのだろう。


「……なるほど。昔聞いた覚えがある。神聖の騎士団にはその理念を果たすためだけに名前も待たずただ与えられた役割をこなすだけの専門家がいると。……つまりポールがその専門家という意味だな?」


「ご名答。……と言いたいところだが少し外れている。厳密に言えば私は神聖の騎士団に所属している訳ではない。私にとっての主君はアンガス様1人だけだ」


 エルヴィスとポールの会話を聞きながらマシューは段々と理解を進めていった。要するに目の前にいるポールはアンガスのみを主君とし、名前を持たず与えられた役割をこなす専門家であるということなのだろう。


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