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マシューと《七つの秘宝》  作者: ブラック・ペッパー
第5章 希望を巡る謀略
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第32話 予期せぬ邂逅

 読んでくださりありがとうございます。マシューたちに聖騎士たちが迫っているようです。


 レイモンドのその言葉に3人は思わず顔を見合わせていた。見張り総出で自分たちを探しているとはどういうことなのだろうか。確かに今マシューたちは傭兵の役割を放棄して撤退しようとしているが、だとしてもそれは見張り総出で自分たちを探す理由にはならない。


「……その話の根拠は?」


「ここの建物の階段を上る道中で聖騎士たちの話を盗み聞いたのさ。……聞こえて来たのは確か、裏切り者の傭兵を見張りが探している……だったか。傭兵は他にもいるがあまりにタイミングがちょうどすぎる。……それに見張りと言えばあいつらだろ?」


 マシューはそれを聞いて思わず表情を歪めた。見張りと言えばジャックとか言う聖騎士である。3年前に見たマシューたちにとって因縁の聖騎士だが、何故か彼は彼にとって初対面であるはずのマシューたちに執拗に絡んでいたのだ。彼ならばマシューたちを裏切り者と言っていても何ら不思議では無い。


「……だとすると早く移動した方が良さそうだな。流石に建物の中は入り口が限定されすぎる。ここにいることがバレる前に移動しておかないと」


「いや、むしろ建物の中にいることを逆手に取ることが出来るさ。……これを使えばな」


 そう言うとレイモンドはニヤリと笑って収納袋から魔水晶を取り出したのだ。どうやらうってつけの魔法があるようだ。


「実はアンガスから《希望》の象徴の他にも色々と貰っていてね。そのうちのひとつであるこの魔水晶を使えば【移動アポート】が発動出来る。これで人1人を任意の場所に移動させることが出来るのさ。入り口以外から出れば聖騎士たちの目を欺けるんじゃないか?」


「なるほど、……ちなみにそれは移動に何か制限はあるのかい?」


「移動させる場所に行ったことがあって視界に入る場所に限定される。そして当然だが移動させるものも視界に入れる必要がある。条件は少し厳しいがここの窓から顔をのぞかせればギリギリだがゲートタウンの入り口が見える。だからそこまでは【移動アポート】の効果範囲内だ」


「……それじゃあ!」


「あぁ、……そこまで撤退出来ればもう撤退完了と言って良いだろう」


 そう言ってレイモンドは静かに窓を開けた。窓から顔を出す必要があるもののこれでギリギリゲートタウンの入り口は視界に入る。【移動アポート】は一瞬で発動可能であり移動場所は発動させた者にしか分からない。仮に窓から顔を出すレイモンドを見つけたとしてもこの部屋にたどり着く頃には全員の【移動アポート】が済んでおり、撤退が無事に完了していると言う訳だ。


 完璧な算段であり、非の打ちどころが無い案である。早く移動する必要性があった4人はすぐに【移動アポート】の下準備を始めた。手元にある【移動アポート】の魔水晶は1つのみ。段取りを間違えればせっかくの撤退案が台無しになってしまう。4人は慎重に順番を決めた。


「……よし、その順番で良さそうだな」


「あぁ、時間も無い。すぐに始めるぞ」


 そう言ってレイモンドは窓から顔を出してゲートタウンの入り口を視界に捉えた。これで効果の発動条件は満たしている。後は魔水晶に魔力を込めるだけである。


「……それじゃあ始めるぜ。【移動アポート】」


 レイモンドが魔水晶に魔力を込めるとレイモンドは忽然と姿を消したのである。エレナが窓から顔を出してゲートタウンの入り口を見るとそこにはこちらを向いて手を振るレイモンドの姿があったのだ。うまくいったようだ。


 そこから先の段取りは簡単である。順番に窓から顔を出してレイモンドが魔水晶に魔力を込めるだけである。計4回の発動で無事に4人ともゲートタウンの入り口まで撤退が出来たのである。先程までいた建物が遠くに見えている。これほどの距離を移動すれば恐らく見張りの聖騎士もマシューたちを見失うだろう。まさか既に全員見張り場所まで撤退しているとは思わないだろう。


 かなりの長距離の移動で精神的に疲れが出てきたのだろう。レイモンドは魔水晶を横に置きだらしなくその場に座り込んでしまっていた。程度は分からないがそれなりに魔力を消費したに違いない。


「こんなことならエルヴィスにやって貰えばよかったよ。案外魔力を消費するもんなんだな」


「意外と距離が離れていたからね。……まあ、魔力回復薬マナポーションでも飲んでちょっと休んでいなよ」


 そう言ってエルヴィスは収納袋に手を突っ込んで魔力回復薬マナポーションを取り出してレイモンドに手渡した。レイモンドはそれを受け取ると一気に飲み干し、ふぅと一息ついたのである。ここまで来れば撤退は完了だろう。余裕が生まれたのかレイモンドは微笑みすら浮かべていた。


 しかし4人は早く撤退しなければと言う思いからかあることをすっかり忘れていた。帝都からここゲートタウンまでは一本道であり、その道を通らなければゲートタウンの出入りは出来ない。そして今日通るはずの人物がまだその道を通ってはいなかったのだ。


 魔力が程よく回復してレイモンドはその場からさっさと撤退するために立ちあがろうとした。その瞬間レイモンドの耳は金属同士が擦れ合う音を捉えた。例えるならばその音は甲冑をその身につけた騎士が歩いている時特有の音である。それはゲートタウンの中からではなくゲートタウンの外、紅玉の森方面から聞こえて来たのだ。


 聞こえてくる音に4人はそれぞれで武器を構えた。この道からやって来る甲冑を身につけている者は限られている。その人物は相当な実力者であるはずであり、武器を構えない理由は微塵も無かった。


 静かな森で金属同士が擦れ合うその音はゆっくりとこちらに近づいて来た。そして一瞬その音が止んだ。レイモンドが右眉をピクリと上げた次の瞬間けたましい音が辺りに響いた。……何があったのだろう。


「……案外勇者候補でも撤退するのは遅いらしい」


「……こいつは予想外だ」


 時間が経てば暗闇にも目が慣れてくる。マシューたちの目の前にはどうやら甲冑を身につけた人物が2人いるようだ。1人はフルフェイスの兜を被っており誰であるかは判別出来ない。そしてもう1人は見覚えのある威厳ある髭を顎にたくわえていた。


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