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マシューと《七つの秘宝》  作者: ブラック・ペッパー
第5章 希望を巡る謀略
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第27話 何も起こらない

 読んでくださりありがとうございます。警護はそのほとんどが暇な時間です。


 警護とは非常の事が起こらないように、警戒して守ることである。言い換えれば非常の事が起こらない限り、警戒すること以外する事が何も無いという意味である。マシューたちはただいつ来るか分からない騎士をじっと何もせず待ち構えていたのだ。


「……暇だね」


「……そうだね。暇だ」


 これから先何が起こるのかはさっぱり分からない。それ故に集中して警護に努めるべきである。それは分かっているのだが、目の前の景色はとても非常事態が起こるようなものには見えなかった。ただ何も無い景色を見るだけの時間が続くためにマシューたちは暇を感じていたのだ。


 テントの中ではずっとレイモンドが気持ち良さそうに眠っている。起こしてもいいのだが、起こしたところでやることは無い故にずっと寝かせているのだ、だがいい加減暇を持て余し眠気が近づいて来ている。そろそろ起こした方が良いのかもしれない。


「……例えばの話をしていいかい?」


「何だい?」


「……聞いた話では、帝都から新興都市までは一本道なんだそうだ。つまり象徴を取り返さんとやって来る人間は全て同じ道を通ることになる。……つまり、何かあった時には今俺たちが見ている景色のどこかしらで何らかのリアクションがあるはずなんだ。なんだか騒がしいみたい……とかね」


「なるほど、確かにそうかもしれない」


 エルヴィスはそう言いながら目の前の景色を眺めていた。目の前に広がっているのはだだっ広い広場と殺風景なゲートタウンの建物だけ。どこからどう見ても何かあったようには見えない。ため息をつきながらエルヴィスはマシューの方へ視線を向けて何かを発見したような表情をした。その視線の方へマシューも顔を向けると微笑みながらこちらへ歩いて来る人が見えたのだ。


「暇そうだね」


「あぁ、暇だよ。手続きってのは終わったのかい?」


「いや、中々終わらないんだ。休憩がてら君たちがどうしているか気になってね」


 そう言うアンガスの表情はどこか疲れていた。まるで全身の神経を使って走り回ったかのようである。やはり神聖の騎士団の副団長ともなるとその仕事はかなり大変のようだ。


「……それじゃあまたすぐに新興都市へ行くのかい?」


「そうなるね。……今度戻ってこられるのは夜遅くかもしれない。少なくとも夕方いっぱいはやる事が山積みなんでね」


 太陽は傾いてはいるものの、夜にはまだ遠い時間帯である。その間ずっと何かの作業をしているかと思うとアンガスがどこか疲れた表情をしているのも不思議ではない。


「……あ、そうだ。アンガス」


「ん? 何だい?」


「ゲートタウンでは食料の支給があったよね。あれって警護が始まってからも支給はされるのかい?」


「あぁ、もちろん支給されるよ。そうじゃないと食料が足らなくなって警護どころじゃあ無くなるからね」


「ありがとう。ちょっと気になっていたんだ。夕方になったら起きてくるだろうし、起きて来たら食料を取りに行ってもらうことにするよ」


「ふふ。彼はまだ寝ているのかい。余程疲れていたんだな」


 レイモンドがまだ寝ていることを知ったアンガスは微笑みを浮かべていた。そんなアンガスを照らす日の光は少し赤みがかっている。そろそろレイモンドを起こした方が良いのかもしれない。


「……もうすぐ日が落ちるな。そろそろ起こした方が良いだろう」


「そうだな。もう夕方近い時間だ。私もそろそろ新興都市へ戻るとするよ」


 そう言うとアンガスはまた新興都市へ向けて歩き始めた。その後ろ姿を少しの間だけ見送ったマシューは気持ち良さそうに寝息を立てているレイモンドを起こすためにテントの入り口を静かに開けたのである。


「……おはよう」


 目が覚めたレイモンドの最初の言葉はそれであった。実際は4時間弱は寝ているのだが、レイモンドはまるで1時間程度しか寝ていないような表情である。どうやらテントで仮眠を取ったとしてもそれほど体力は回復しないようだ。


「……何か疲れているように見えるけど、気のせいかい?」


「……失敗したよ。テントの床が柔らかいから寝袋を使わずに寝ても問題無いと調子に乗るべきじゃあ無かった。自分でも結構寝られたと思ったが思ったより体力は回復しなかったよ」


 どうやらレイモンドはテントの床にそのまま寝転がって寝ていたようだ。覗き込むと確かに置かれた寝袋は使われた形跡が見えない。


「なるほど、寝袋は使った方が良いと。……当たり前だろ?」


「だけど思ったよりテントの床って柔らかいんだぜ? お前も寝てみれば分かるさ」


 レイモンドは少し必死になっているようだ。だがいくら弁解してもレイモンドの気持ちは分からないだろう。なぜならこの後寝る人は皆ちゃんと寝袋を使うからである。


「それで? 夜の警護は大丈夫そうか?」


「ちょっと疲れてはいるけど、大丈夫だ。それに見た感じ今まで何も起こって無いんだろ? 多分今夜も何も起こらないんじゃないかな」


 やけに自信ありげにレイモンドはそう言った。それが無警戒だと断定しきれないほどこれまでの警護は何も起こっていない。起こった出来事と言えば一度アンガスがここに戻ってきたくらいである。あとはただ何も無い暇な時間が流れていただけだ。



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