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マシューと《七つの秘宝》  作者: ブラック・ペッパー
第5章 希望を巡る謀略
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第26話 アンガスは仕事が山積み

 読んでくださりありがとうございます。アンガスは忙しいのです。


「……全然疲れてなさそうに見えるが疲れてないのか?」


「……うーん、多少は疲れているかな?」


「多少かよ。俺はもう疲れたわ。今ここで寝てしまいたいくらいだ」


 そう言いながらレイモンドは既にテントの近くで足を投げ出して座っていた。その光景はいつだったかの光景と同じように見える。もっともその時は足を投げ出すようにして座り込んでいたのはレイモンドではなくマシューの方ではあるのだが。


「夜に寝る時間が少なくていいなら今寝ちゃっても良いんじゃない? ねぇアンガス?」


「……そうだな。君が夜の警護をしてくれるのなら今寝てもらって何ら問題無い」


「本当か⁉︎ だったら今寝ることにするよ。今寝ておかないととてもじゃないが夜なんて起きてられないや」


 マシューたちは夜に交代して警護をする経験は全く無い。そのためどれくらい辛いものなのか想像もつかないのだ。だがレイモンドは迷いなく今この瞬間の睡眠時間が確保したいようだ。先程設営の終わったテントの中へいそいそと入って行ったのである。


「……ふふ、余程疲れたらしいね。……あぁ、そうだ。君たちにひとつ伝えるのを忘れていたよ」


「何だ?」


「私は警護に加えて他にもやることが山積みなんだ。だから警護の途中で度々ここを離れなくてはいけない時が度々ある。せめてタイミングが分かれば良いんだが、これから先起こることを全て想定するのは不可能なんだよ。だから警護の際の役割分担から私は省いておいて欲しいんだ」


 アンガスは申し訳無さそうにそう言った。それは要するに今回の警護においてアンガスは5人1組を作るためにマシューたちに補充された聖騎士だが常に一緒にいる訳では無いと言うことである。結局のところ警護は4人で役割を分担することになるのだ。


「……それじゃあもし誰かがここへやって来たとして、その時アンガスはいないかもしれないってことか?」


「……残念ながらその可能性は大いにある」


「まあ、アンガスは副団長。警護だけしていれば良いって訳じゃないもんな」


「理解してもらって助かる。……早速で申し訳無いが少しここを離れる。新興都市で手続きが色々残っていてな」


 そう言うとアンガスは目の前に見える新興都市へ向かって歩いて行ったのだ。その姿をマシューたちはテントの近くからじっと眺めていた。アンガスは新興都市の門衛と何やら会話をした後に中へとゆっくり進んでいった。


「……【遮音インスレイト】を頼めるか?」


「もちろんさ。……【遮音インスレイト】」


 突然のマシューからの頼みにエルヴィスは何の迷いもなく【遮音インスレイト】を発動させた。……しかしマシューはどうしてそれを頼んだのだろうか。


「……あの門の中に新興都市があって、……《希望》の象徴があるんだよね」


 マシューたち以外の音が聞こえず、マシューたちの声が誰にも聞こえない静かなその空間でマシューは絞り出すようにそう呟いたのだ。新興都市がすぐ近くに見えるという高揚ともどかしさがその言葉には混じっていた。


「あぁ、そう言うことか。そんな話をするなら【遮音インスレイト】は必要だな。警護に来てるはずの傭兵の言う話じゃあないからね」


「周囲に人の影は見えないが、発動させておく必要はあるだろうな。どこに誰が潜んでいるか分からないしね。……しかし新興都市は目の前だって言うのに、門衛がいるから俺たちは近づくことすら出来ないのか。ここまで近くにいるんなら入ってみたかったよ」


「本当だよ。……新興都市に行けば父さんのことが何か分かったかもしれないのにな。……そういえば、エルヴィスは今警護している《希望》の象徴がどんなものなのかは知っているのか?」


 マシューのそう言ってエルヴィスの方を見た。レイモンドも関心があるのだろう。テントの中からエルヴィスへ視線を向けている。2人の顔を交互に見たエルヴィスはやがてゆっくりと口を開いたのだ。


「……《希望》の象徴である虹色の紋章というのは、希望の結晶とも言われるトルマリンが装飾されているペンダントのことさ。それを着けるだけで人は明るい希望を持てるようになる不思議なペンダントだよ」


「へぇ、ペンダントなのか。それじゃあ結構小さなものなんだな」


「僕は一度だけ見せてもらったことがある。ペンダント自体はいたって普通のものなんだが、装飾されているトルマリンは鮮やかな青緑色に輝いていてそれはそれは綺麗なものだったよ」


 そう言うエルヴィスはどこか懐かしそうである。そしてその話を聞いたマシューは再び新興都市へ続く門へ視線を向けていた。恐らくこの傭兵としての時間がマシューたちが最も《希望》の象徴へ近づける時間であり、そして怪しい動きをするべきで無いことから最も遠い時間なのだ。目の前に見えているのに遠ざかって見える象徴にマシューはもどかしさを感じていた。


「まあ、この警護で僕たちは《希望》の象徴を見ることは出来ないだろう。アンガスからの頼みを果たすためにも僕たちは警護に集中するしか無いんだからね」


「……そうだよね」


「俺たちが《希望》の象徴を手に入れるタイミングはアンガスが本来あるべき場所へ戻した後だな。正当な方法で試練を破って手に入れようぜ」


 レイモンドのその言葉は力強くマシューにはとても心強く聞こえたのだ。……だがマシューは本当にそれで良いのだろうかという疑念もまた同時に抱いていたのだ。


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