第24話 その宣誓はよく通る声で
読んでくださりありがとうございます。傭兵はマシューたちだけではないのです。
確かによく見てみると多数の白と銀の鎧に紛れて黒一色だったり赤が混じっているような鎧が見られる。つまり彼らがマシューたちと同じく今回傭兵として参加する者たちなのだろう。ほんの少しの人数だが傭兵仲間が居るというのは心強いものである。
「……会ったことも無い人だけど、傭兵というだけでなんだか親近感が湧いてくるな。……あ、そうだポール。聞きたいことがあったんだ」
「聞きたいこと?」
「あぁ。確かポールは昨日今回の警護は5人1組だと言っていただろう? 俺たちと共に行動する人は誰なんだ?」
「あれ? まだ言っていなかったかい? 今回君たちと一緒に行動するのはアンガス様だよ。言うまでもなく実力者だから君たち安心してくれて構わないさ」
そう言うとポールはなぜか得意げに胸を張った。どうやら自分の上官であるアンガスを相当誇りに思っているらしい。だがマシューたちはそれに対してうまく答えることが出来なかった。
ポールは知らない話ではあるが、4人はアンガスから役割を与えられていた。それはやって来る騎士マークを無力化し撃退することであり、それをアンガス自身がするのではなくマシューたちに頼んだことからアンガスはマシューたちとは別行動だと思っていたのだ。
それ故に4人は行動を共にするのはアンガスでは無いのではないかと思っていたのである。だが実際はアンガスが一緒に行動するようで、4人からすれば肩透かしもいいところである。
「……? なんだ? アンガス様は不服かい?」
「いや、予想が外れて混乱しているだけだ。アンガスが仲間になってくれるならこれほど心強いものは無い」
アンガスと聞いたマシューたちの反応が思ったよりも悪かったためにポールは怪訝な表情である。もっともらしい理由で誤魔化したがマシューのその表情はやや固い。これ以上掘り下げられると言ってはいけないことまで口に出してしまいそうになるのだ。恐らくポールには言っても大丈夫だとは思うが、これほど人がいれば他に誰が聞いているか分からないのだ。
「……まあ、良いか。お、そろそろ集合時間になるな。君たちは私の後ろに並んでいてくれ。それで問題は無いはずだ」
幸運にもポールは話を掘り下げる気は無いようだ。そのことに安堵したマシューはポールの言う通りにポールのすぐ後ろに列を組んで並んだ。そしてそのタイミングで集合時間となったらしい。少し騒がしかった騎士たちが一斉に静まり返ると姿勢よく前を向き始めた。彼らの目の前には演説台が設置されており、一際輝く白と銀の鎧に身を包み威厳ある髭を顎にたくわえた男がゆっくりとその演説台の上にのぼったのである。
「……神聖の騎士団が聖騎士の諸君に告ぐ。今この場に集まってもらったのは他でも無い。我が騎士団が所有する《希望》の象徴、虹色の紋章の警護の開始を宣誓するためである」
男のその声はよく通り、かなり後ろの方に並んでいるマシューたちにもしっかりとその声が届いていた。そして我が騎士団と言う言葉から考えるにこの人物こそがエルヴィスの実の父であり、神聖の騎士団ユニコーンの騎士団長ガブリエル・クラークなのだろう。
「……私がこの《希望》の象徴を神聖の騎士団で警護させている理由は無論この世界を守るために他ならない。……だが! だが! そんな《希望》の象徴を我がものにしようとする輩がいるのだ! 私はそんな輩に屈することはしない。……絶対にだ。……私と君たちの手で! 象徴を我がものにせんとする輩から! 《希望》の象徴を! 守り抜こうではないか‼︎」
割れんばかりの歓声が広場中にこだました。ガブリエルの力強いよく通るその声で鼓舞されたのだろう。広場を埋め尽くすほどの人数の聖騎士たちが一斉に歓声を上げたのだ。その光景は異様なものであり、目に映るその光景をガブリエルは満足そうに頷きながら眺めていた。
「皆のその気概を持ってすれば《希望》の象徴を守り抜くことは容易い。君たちの良い働きを心から期待するとしよう」
そう言うとガブリエルは演説台から降りた。歓声こそ収まっていたものの異様なまでの熱気と気迫はまだ広場中を支配していた。これが神聖の騎士団ユニコーンの気迫なのだろう。何の覚悟も無く立っていれば気絶してしまうのではと思えるほどの圧を放っていた。
そんな中今度はガブリエルでは無い聖騎士が演説台にのぼったのである。マシューからは少し遠くやや見えづらいが演説台にのぼったのが誰なのかはすぐに分かった。そう、演説台にのぼった聖騎士はマシューたちのよく知るアンガスだったのである。
「……これより《希望》の象徴の警護を開始する。指示を出す故に今回参加を要請した傭兵諸君は残り、聖騎士諸君は指示した通りに配置についてくれたまえ。……それでは解散」
アンガスより開始が宣告されると瞬く間に聖騎士は全員移動したのである。そして広場にはマシューたちを含めた十数人の人間だけがぽつんと残った。全く気付かなかったがいつの間にかポールの姿も消えていたのだ。先程あれほどの熱気と気迫が放たれていたのが嘘のことのように広場は静まり返っていた。