第21話 食料事情
読んでくださりありがとうございます。ケヴィンの謎は深まるばかりです。
「だよね。……となると特に理由は無いのかもしれない。5年前でないといけない理由は無いけど5年前以外でないといけない理由も無いんだ」
エルヴィスのその言葉にマシューは頷いた。窓の外から夕陽が差し込んできていた。そろそろ夕方のようだ。
「……これ以上考えても仕方がない。夕方になったことだし支給されるらしい食料を取りに行こう」
これ以上考えても仕方がない。それがマシューの出した結論である。4人は携帯食料を貰うために部屋を出て一階に行くために近くの階段を降りて行った。一階部分は食料を貰うために聖騎士たちでかなり混雑していた。
「……これはまたすごい人だな」
「あぁ、これじゃあどこで支給されているのか分かりにくい。……もう少し待ってからにするか?」
あまりの混雑にマシューたちは一旦部屋に戻るかどうかを話していたのだが、そんなマシューたちに近づく人物がいたのである。
「まだ帰ってなかったのかよ。 腰抜けに何が出来る?」
乱暴なその口調とこちらを見下すような態度。兜を被っていたとしても目の前の人物が誰なのかマシューたちにもすぐ分かった。いったい彼は何をしにここまで来たのだろうか。
「……何の用だ?」
「お前に俺様から忠告をしてやろうと思ってな。……明日来るっていう騎士は凄腕の実力者。何でもかつての勇者の仲間だった人物だったそうだ。お前らみたいな腰抜けにゃ到て……痛っ⁈」
ジャックはこちらを煽るようにニヤニヤしながらこちらにそう捲し立ててきた。そしてその言葉の途中で何故か痛がると恨めしげに後ろを振り返った。ジャックのすぐ後ろには拳を見せてジャックを見下ろす人物が立っていた。確か名前はジェイルだっただろうか。
「……何をしている?」
「何って忠告だ。別に喧嘩を売ってる訳じゃねぇよ」
「明らかに喧嘩腰に見えたが?」
「……すまねぇ」
どうやら力関係としてはジェイルの方が上のようだ。さっきまでこちらを煽っていたとは思えないほどジャックは大人しくなっていた。
「すまないな。私の仲間が無礼なことをした」
「いや、特に気にしていない」
「そうか。なら良いんだ。……ここに来たということは君たちも食料をもらいに来たんだな。だがこの混雑では中々取りにいけない……か。まあそれも仕方あるまい。我々は慣れているが初めてやって来る傭兵なら少し気後れしてしまうのも仕方のないことだよ」
そう言うジェイルの表情からこちらを煽る意図は感じられない。恐らく本心で言っているのだろう。だが例え煽っているつもりではなくてもその言葉はマシューたちのかんに障るのだ。
「……心配なら必要無い。ほらみんな行くよ」
マシューのその言葉に3人も無言で頷いて応えた。どうやら大なり小なり皆気分を悪くしていたようだ。聖騎士でごった返す中をかき分けて全員は食料を支給して貰うために前に進んだのである。
「……なるほど、どうやらただの腰抜けでは無いらしいな」
「……っち」
2人は面白そうにマシューたちの様子を見ていた。そしてマシューたちがちゃんと食料が支給される場所までたどり着いたのをしっかりと見届けるとジャックは舌打ちを残しその場を去った。そのため4人が元の場所まで戻って来た時にはもう既に姿は無かったのである。
「……なんだいないじゃないか」
「まあ、支給された食料は手に入ったことだし気にせず部屋に戻ろう」
マシューは既にジャックたちのことはどうでも良くなっているようだ。レイモンドは少しだけ不満そうな表情を浮かべたがすぐに切り替えてマシューの後に続いた。一階部分はまだ聖騎士たちで溢れかえっていた。
無事に支給される食料が確保出来たマシューたちは元いた部屋へ戻って来た。手に持っている袋の中には水の入った瓶と乾パンと干し肉がいくつか入っている。それが今回支給された携帯食料である。
「……思ったより量は無いな」
「そうだね。……まあ、豪華な食事が手配されるとは思ってないし、こんなものなんじゃない? ちなみに今俺たちが持っている食べ物は他に何があるんだ?」
マシューの収納袋の中にはひとつだけりんごが入っているだけであとは何も入っていない。レイモンドも同様であり、エレナは水を持って来ているだけで食料を何も持っていなかった。そしてエルヴィスは水とりんごに加えていくつかの干し肉も持って来ていたようだ。これなら支給された食料と合わせるとかなりの量になりそうである。
「これなら当分は何とかなりそうだね。ただ恐らく一日で終わるような話では無さそうだしこの追加の食べ物はあくまで念のためのもので出来る限り支給された食料を使って過ごしていこう」
「そうだな。それが良さそうだ」
マシューの提案に皆同意するように何度も頷いた。ただやはり支給された食料では少し物足りず結局りんご一つを消費してマシューたちはこの日の食事を済ませたのであった。そして少しの不安を感じながら傭兵としてのマシューたちの一日が終わったのである。
マシューたちがそろそろ眠りに就こうとしていたその頃。データベースを閲覧するために端末を操作している者がいた。彼の持つ端末は特別製でそれを使えばデータベースにすべてのアクセス権限を持つことが出来るのだ。彼は《希望》の象徴の警護が始まる前日にその端末を使ってデータベースを確認するようだ。
「……ふむ。やはり情報が書き換えられているか。やはりこの一件何か裏があるとは思っていた」