第20話 アクセス権限が不足しています
読んでくださりありがとうございます。マシューたちはケヴィンのデータを見るようですが……。
「あぁ、俺の父さんのデータを探してくれ」
「了解」
エルヴィスは再び展開されたデータベースを操作し始めた。操作している画面が少し先程と変わって見えるのは恐らくエルヴィスが故人のデータを探しているからなのだろう。操作し始めて1分程経ったくらいだろうか。ようやくエルヴィスは目的の情報を見つけたようだ。少し首を傾げながら顔を上げたのだ。
「……多分この人だよね?」
表示されている顔写真は若い頃のマシューの父ケヴィンのものであり、見たかったデータで間違い無さそうである。しかしマシューとレイモンドは書かれている情報を見て首を傾げたのだ。
「……これマシューの親父だよな?」
「……だと思うけど。5年前に死んだ? 俺の父さんは3年前まで生きていたはずだよ? それに年齢以外の情報が全て非公開なのはなぜ?」
マシューたちの目の前に映るデータには顔写真と享年だけが表示されており、他のすべてのデータが非公開として鍵がかけられていたのだ。いったいどういうことなのだろうか。
「……エルヴィス。こんな感じで非公開となっている情報もあるのか?」
「いや、僕もこれは見たことが無い。職員のアクセス権限で見られない情報なんて無いはずなんだが……」
そう言いながらエルヴィスはデータベースの操作を始めた。それは非公開の状態を公開の状態にするための操作だったのだが、公開される代わりにメッセージが表示されたのだ。
「……『アクセス権限が不足しています』⁈ なんだこれ?」
「……一応聞くが、こんな表示が出たことは?」
「もちろん一度もないよ。……これはいったい?」
4人は全員首を傾げたのである。マシューたちがリスクを冒してまで見ようとしたケヴィンのデータは、そのほとんどの情報が非公開である上に貴重な公開されている情報は間違っているという不可思議な状態であった。マシューは非公開だらけのそのデータをしばらく見つめ、やがて口を開いた。
「……ひとまずデータベースを閉じよう。情報が得られない以上長く見る必要は無い」
「そうだな」
エルヴィスはデータベースからログアウトし機械の電源を落とすと丁寧に収納袋に仕舞った。その間もずっと全員が今見た光景を考えていた。あれはいったい何だったのだろうか。
「……ひとつ考えられるのは、父さんの情報は何者かによって書き換えられていた可能性が高い。公開されているほぼ唯一の情報である享年の数値が違うのは多分そういうことなのだろう」
「……何のために? 書き換えるくらいなら全て非公開にした方が早いぜ?」
「……確かにな。……書き換えようとした時には既に非公開だったのだろうか」
「マシューのお父さんは聖騎士によって殺されたんだろう? もしかするとそれを隠すために聖騎士が情報を書き換えたのかもしれないな。……まあ、それでも非公開にする理由にはならないけどね」
いくら考えても出てくる疑問に対して適切な答えは出てこなかった。4人は考え込むあまり黙り込んでしまったのである。そうしてしばらくの間【遮音】が必要無い沈黙の時間が流れた。
「……どうして5年前に変えたんだろう?」
「……?」
沈黙を破って口を開いたのはエレナである。彼女は書き換えられた数字に違和感を覚えたようだ。だがその理由が他の3人には分からず3人の視線がエレナの顔に自然と集まった。彼女が感じた違和感とは何なのだろうか。
「エルヴィスが言うようにマシューのお父さんが聖騎士に殺されたことを隠したいんだったら別に4年前で良いんじゃないの? だって実際は3年前なんでしょう?」
確かにエレナの言う通りである。実際にマシューの父ケヴィンが殺されたあの出来事は3年前のことであるが、データベース上の享年は5年前となっていた。この数字が何者かによって書き換えられていたとして、別に4年前と書き換えても隠すという点に関して言えば問題無いのだ。つまりエレナは5年前という数字に何か意味があるのではと言いたいのである。
「……5年前って言うと時の勇者が行方不明になった年だな。確かマシューのお父さんは象徴を集めていたんだったっけ?」
「……多分。家で見つかった手紙に書いてあったのが事実なら……だけど」
「……さすがに時の勇者様本人って言うのは」
「無い。絶対に無い。……俺は時の勇者をそれほど詳しく知らないからエルヴィスが前にしてくれた話で考えるけど、元々は賢者と言われる程優秀な魔法使いだったんだろう? 俺の父さんは病弱で家からもあまり出なかった人だよ。だからそんな魔法使いなはずは無いよ」