第13話 初めての魔法習得
読んでくださりありがとうございます。魔法を習得するようです。
どうやらこの本を読んで習得出来る魔法はたった1つのようだ。そしてどこでも良いから見開き1ページを読めばそれで習得出来るらしい。そこそこ厚みのある本のため全て読むことを覚悟したマシューには拍子抜けである。
とは言え開けたページ次第で習得出来る魔法が変わるのならページ選びは慎重になるべきである。一つ息を吐いてマシューは初級火属性魔法の本の中間部分を大きく開いた。
開いたページにはたった2文字、【火球】と記されていた。マシューがそれを視認した瞬間文字が浮かび上がったかと思うと頭に吸い寄せられるかのように入り込んだ。
不思議な感覚をマシューは感じた。今までどうして使うことが出来なかったのか不思議なほど自分に【火球】が馴染んでいるのだ。習得すると言うより使い方を思い出すと言った方が感覚としては近い。
「どうやら習得出来たようだね。既に読んだその本は僕に返してくれるかな」
「あ、……どうぞ」
「ありがとう。……あぁ、これはまだ読んでないだろう? 返すのは読んでからで良いよ」
初級火属性魔法の本を返したつもりが補助魔法の本も同時に返していたらしい。返した本がまた手元に帰って来たことにやや気まずさを感じながらマシューは最初の1ページを開いた。初級火属性魔法と同じ文章がそこには記されている。どうやらどの本も同じように魔法が習得出来るようだ。
先程は中間部分を開いたが今度は前半部分を開けたくなったマシューは本の重みで開いてしまわないよう注意しながらかなり前半部分のページを開いてみせた。そこには【速度強化】と記されており、先程同様マシューがその字を見た瞬間に浮かび上がり頭に吸い込まれていった。
「マシューはどんな魔法が使えるようになったんだ?」
再び巻き起こる不思議な感覚に浸っていたマシューにそうやって話しかける者がいた。振り返るとワクワクが隠しきれていない表情のレイモンドがそこにいたのである。
手元には既に1冊も残っていない。もう既に2冊とも読んでニコラに返したのだろう。マシューは慌てて補助魔法の本をニコラに返すとレイモンドへ振り返った。
「どうやら習得出来る魔法は開けたページによるみたいだからきっと俺たちでも結果は変わるよな。……俺は【火球】が使えるようになったよ」
「……へぇ、俺は【水球】だったな」
全然違う魔法を習得したに違いないと思っていたがどうやら2人が習得した属性魔法は属性以外違うところの無い似たスキルのようである。単なる偶然か、それとも良くあることなのか、魔法の習得自体初めての2人には分かるはずも無かった。自然と2人ともニコラの顔を見ていた。その様子を見てニコラは吹き出しそうになっていた。
「君たちなんで僕を見るんだ。しかも同時に」
「いや、似たような魔法を習得したのが偶然かそうじゃ無いか分からなくて……。詳しい人に聞こうと……」
「あぁ、なるほどそう言うことか。数はそれほど多くは無いけどそれでも2人が習得したのが似てるスキルって言うのは面白いね。中々無いことだとは思うよ。でも多分偶然じゃないかな? 君たちさっき補助魔法も習得しただろう? それも似たスキルなら必然かも知れないけど一度なら偶然ってことで良いと思うよ」
そもそもどれほどの種類があるのか知らなかったがそれほど数は無いようだ。2人が習得した魔法が似ているのが偶然か否かは補助魔法にかかっていると言う訳だ。
「……俺が習得したのは、【速度強化】だ」
「……へぇ、俺は【身体強化】だったな」
「【速度強化】と【身体強化】か。……ふむ、似ているね。凄いな君たちは。さすがに完全に一致はしなかったが魔法の系統としてはほぼ同じと言って良い」
ニコラは驚きと感心が入り混じった表情を浮かべていた。どうやらニコラは魔法の名前と効果を大体把握しているようである。
「実際どんな魔法なのかも知ってるのか?」
「あぁ、知っているよ。どちらも魔法を発動させた者の身体能力を向上させる魔法だな。【速度強化】は足の動きを速くし、【身体強化】は体全体を力強くすることが出来る。効果時間の制約こそあるが場面を選ばず戦局を有利に変えてくれる汎用性の高い補助魔法だよ」
「そうなのか。……ちなみにさっきの属性魔法の方はどうなんだ? それにどうやって発動させれば良いんだ?」
「そうだね、そっちの方も説明しておこうか。と言っても君たちが習得した属性魔法は特に説明は必要無い簡単なものだよ。どちらも魔力を手に留めて放つだけだからね。発動させるために必要なこととしてはどの魔法も基本は集中することだね。感覚としては体のどこかに点を1つ想像してそこに意識を集中させる感じかな。それで大体の魔法は発動できるようになるはずだよ。今あまり分からなくても実践していけばどんどん分かっていくからね」
ニコラのその簡単な説明で2人とも自分たちが今習得した魔法とその出し方を大体把握した。後は実践していきながら細かいところを突き詰めていけば良いだろう。
「それではこれで魔力適性検査を終了いたします。次が最後の説明事項になります。まずはこちらをお受け取りくださいませ」
そう言って受付の女性は何かを2人に手渡した。ギルドカードは既に貰っているので何が渡されるか予想がつかなかったが受け取った後も渡されたものが何かいまいち分からなかった。魔力適性検査の流れで習得した魔法のことで頭がいっぱいだからだろうか。手のひらの上にある革袋を前に2人とも首を傾げた。