第13話 アンガスのもとへ
読んでくださりありがとうございます。偽名は慣れないですね。
「……そんなに写真は珍しいものでも無いだろう?」
「あんたからすればそうかもしれないが、俺やマシ……マッシュからすりゃ珍しいもんだ。なにせ住んでた田舎には無いものだからな」
何事も無かったようにしているがレイモンドの背中はかなりの量の冷や汗をかいていた。何気ないやり取りで4人に使われた偽名を確認したと言うのに思い切り言いそうだったからである。
「……まあ、良い。通行証をもらったら次は上官のところへ行くぞ」
そう言ってポールは建物から外へ出て行った。どうやらこの建物にもう用事は無いらしい。4人も顔を見合わせてから後を追って足早に建物から出たのである。
建物を出て辺りを見渡すと少し先の建物の前にポールが立っているのが見えた。どうやらアンガスはその建物の中にいるらしい。駆け寄るとポールは渋い表情を浮かべてレイモンドを見下ろしていた。どうやらポールは気付いているようだ。
「(……何か申し開きはあるか?)」
「(……無いです)」
「(……流れの中で言ってしまう気持ちはよく分かる。今後はそんなことをしないよう極力名前を呼ばないようにするんだな)」
ポールの言うことは至極真っ当である。直前に確認したとはいえやはり呼び慣れた名前は口をついて出てしまうものだ。このままだと無意識に普段通り呼んでしまうことが普通に有り得てしまう。ポールの言うように名前を呼ばないようにすることが一番の対策になるだろう。思い返せばポールはこの場所に着いてから一度もマシューたちを名前で呼んでいないのだ。
「さて、上官であるアンガス様はこの建物の中におられる。決して失礼のないように」
ポールの案内でマシューたちは建物の中を歩いて進んでいた。先程登録をした建物はただ広いだけの一部屋があったのだが、この建物はそうではないようだ。入り組んだ廊下と階段をいくつか経た後、ポールはようやくとある扉の前で立ち止まった。ここがアンガスのいる部屋のようだ。
「……ふむ、なんとか間に合ったな」
部屋に入って来たマシューたちを見るなりアンガスはそう言った。いったい間に合ったとはどういう意味なのだろうか。
「……間に合ったとは?」
「……それに答える前にまず扉を閉めてもらえるかな?」
後ろを振り返ると扉が全開で開かれていた。今からどんな話がアンガスからあるのかは分からないがどうやら無闇に扉を開けたまま話せる内容ではないようだ。急いで一番後ろにいたエレナが扉を閉めた。
「悪いな。魔法の効果は理解しているが念には念を押したいものでね。……【遮音】」
エレナが扉を閉めたのを確認したアンガスは腕を組んだまま【遮音】を発動させたのだ。魔法の効果は効果範囲外に音が聞こえなくなるものである。やはりアンガスは今からする話を他の誰にも聞かれたく無いようだ。
「【遮音】?」
「今からする話はあまり人には聞かれたくない話になる。そう言う時この魔法はうってつけなのさ。……ポール、一応効果チェックだ。あそこの角で待機し、話し声が聞こえればすぐに手を挙げろ。聞こえないならば聞こえるまでその場で待機だ」
「かしこまりました」
言われるがままポールは部屋の角へ歩くとこちらを振り返って動かなくなった。それを見ていたアンガスはポールの名前を叫んだ。しかしポールはその場で立ったままである。どうやらその場所は効果の範囲外のようだ。
「よし、これで準備は整ったな。それでは君たちに話をするとしよう。……その前に君たちから聞きたいことはあるか?」
「……それじゃあまず、間に合ったなというのはどういう意味で?」
「それはそのままの意味だ。《希望》の象徴の警護が開始されるのはもう次の日に迫っていたからね」
「……ここは新興都市では無いとポールは言っていたが、だとしたらここはどこなんだ?」
「ここは新興都市を守る砦であり、神聖の騎士団ユニコーンの活動拠点のひとつとなっている。新興都市の前に作られていることから通称ゲートタウンと呼ばれてはいるが、誰もその名前を使ってはいないな」
マシューたちにとって聞きたいことは山ほどある。そのためアンガスに矢継ぎ早に質問をぶつけたのだ。そしてどうやらアンガスはそれら全てに答えてくれるようだ。そこでエルヴィスは最初に浮かんだ疑問をいったん置いて、ずっと感じていた疑問をぶつけてみることにしたのである。
「あなたも知っていると思いますが、僕はかつてここの騎士団長の息子だった人間なんです」
「もちろんそれは知っている。それがどうかしたのか?」
「……僕は騎士団長から追放された身。そんな僕は本来この場所に来るべき人間ではない。……この場所に来たならば騒ぎになる可能性だってあるんです」
「……そうだな。間違いなく騒ぎになるだろう。君が騎士団から追放された人物だと気付かれたならね」
「……だが、騒ぎにはならなかった。登録の際顔を確認されたにも関わらず……。……それには何か理由があるんですか?」
「もちろんその理由はある。残念ながら詳しくは教えられないがね。……ただ当事者である君は詳しく知りたいと思っているだろう。だから……そうだな。ヒントを出そうか」
「……ヒント?」