第11話 その騎士に見覚えあり
読んでくださりありがとうございます。現れた騎士をどうやらマシューとレイモンドは知っているようです。
「ジャックか。何か伝達でもあるのか?」
ジャックと呼ばれたその男は綺麗な白と銀の鎧に身を包んでいた。ポールから特に説明は無いが、この男は聖騎士であると考えて間違いないだろう。ジャックは品定めをするかのように4人を見て右の眉を下げた。やはりこの人物は嫌な人物のようだ。
「いや、確認だ。ポールが傭兵を何人か連れてくると聞いてな。……しかしそんな腰抜け共で大丈夫なのか?」
「腰抜け?」
「腰抜けだろう。一番前にいるやつなんて俺の顔を見てすぐに顔を強張らせやがった。見たことねぇ顔だから初対面のはずだ。特に怨みを買った覚えもねぇし、だったらただの腰抜けだろう」
「そんなことは無いと思うがね」
「気楽で良いもんだぜ。俺にビビっているんなら団長を見たら卒倒しちまうんじゃねぇの? ……なぁ? 聞こえるように言ってんだが言い返しもしねぇのか? そんな弱っちいんなら今すぐ帰った方が身のためだぜ?」
マシューが何も言わないのを良いことにジャックは好き勝手にこちらを煽って来た。だが煽る意味は皆無である。つまり目の前の男は何の意味も無くただただマシューたちに悪口を放っているのだ。嫌な人物であることはあの時から薄々分かっていたが、実際に目の前で見てマシューはこの人物が取るに足らない存在であることが分かった。
そうなればマシューは最早この目の前の人物に対して興味は大して無い。マシューは少し考えた結果、無視して大丈夫だという結論を出した。こんな人物に貴重な時間を使う必要は無いのだ。
「新興都市はまだ先なんだね?」
「……ん? あぁ、まだ先だ」
「なら早く行こう」
「……? おい! まさかこの俺を無視しようってのか?」
無視されていることに気が付いたジャックは苛立ちを隠せない表情である。だがマシューは完全に無視を決め込んでおり全く反応を示さなかった。そしてポールはポールでマシューの言葉に従って案内を続けるようで、何事も無かったように前に歩き始めた。
少し歩き始めると目の前の建物からまた1人騎士がやって来たのである。この騎士もマシューとレイモンドには見覚えがあった。彼は苛立っているジャックとそれに反応を示さないポール、そして見慣れぬ4人の人物を見て困惑の表情を浮かべていた。
「……なんだか騒がしいと思ったが、何かあったのか?」
「それは私がジェイルに聞きたい。傭兵となる人たちを連れて来たのは良いんだが、ジャックが会うなりいきなりこんな調子だ。何かあったのか?」
「あぁ、ジャックなら団長に酒とたばこを取り上げられて苛立ってんだよ。帰って早々災難だったな」
ジェイルと呼ばれたその騎士は苛立ちのあまり顔が赤くなり始めているジャックを見て薄ら笑いを浮かべていた。これと言って何をするわけでも無いようなのでマシューの無視で大丈夫との判断は正しかったようだ。
「君たちが傭兵となる人たちか。私の名前はジェイル。恐らく班は違うだろうがよろしく頼む」
そう言ってジェイルは一番前にいるマシューに握手しようと手を前に出した。その間もずっと彼は薄ら笑いを浮かべていた。
「こちらこそよろしく」
マシューは穏やかな笑みを浮かべてジェイルの手を取った。その笑みが作り笑いであることをレイモンドは分かっていた。作り笑いを浮かべたものと薄ら笑いを浮かべたものの握手は少しばかり異様な空気を生み出していた。
「……あぁ、そうだ、ポール。君に伝達事項がある」
「何かあったのか?」
「今回の警護は4人でひとつの班を作る手はずだったが、5人に変更になった」
「それは知っている。だから傭兵を4人連れて来たんだ。あとは私が彼らの班に入ればそれで5人になる」
「いや、残念ながらそれが出来ないんだ。欠員が出た関係で君は別の班に参加となる」
「……なんだって? それじゃあ代わりに誰が参加を? まさか傭兵だけの班は作らないはずだ」
「当たり前だ。出来る限り元の班を崩さずに構成し直したいとの意向でな。一番自由に動かせる騎士が代わりに彼らの班に参加する。……ふふ、君たちも良かったな。今回の警護は楽に終わるだろう。なにせ1人で警護出来るほどの実力者が一緒に警護してくれるんだからな」
ジェイルは相変わらず薄ら笑いを浮かべながらそう言ったのだ。それを聞いたマシューは作り笑い……ではなく、少し険しい表情を浮かべていた。警護の詳しい内容を知らないために判断しにくいが1人で警護出来るほどの実力者と言えば、その候補はマシューの頭の中には2人しかいないのだ。
「まあ、気楽にやってくれればそれで良いさ。君たちの登録はまだなんだろう? 早くやって来ると良い」
「あぁ、そのつもりだよ」
「さて、私はそろそろ真っ赤になってそうなアイツを宥めてくるよ」
そう言うとジェイルはまた薄ら笑いを浮かべてジャックの近くに歩いて行った。だがそんなことはマシューにとってどうでもいいことである。それよりもジェイルが言った登録と言う言葉が引っかかった。いったい登録とはどういう意味なのだろうか。