第12話 格の違い
読んでくださりありがとうございます。次はマシューの番ですね。
そう言ってニコラはマシューの顔を見た。先程浮かべていた渋い表情はどこへやら、マシューはレイモンドの結果が出た瞬間からずっと機械から目を離せないでいた。そしてニコラの声が聞こえていないのだろう。一向にその場から動こうとはしなかった。
「マシュー! ……マシュー‼︎」
「⁉︎ ……どうしたそんなに大きな声を出して」
「どうしたじゃねぇよ。ほら次はお前の番だぞ」
レイモンドにそう言われてマシューは我に返ったかのように周りを見渡した。部屋の中にいる全員がマシューを見ている。自分の番になったことを全く気づけなかったことにそこでようやく気づいたマシューは気まずい表情を浮かべ機械の前に足を進めた。
「……それではマシューさんの魔力適性検査を開始します」
レイモンドと同じように右手の人差し指に細い管が繋げられ機械の電源が入れられた。先程よりやや長い10秒ほど時間が経ちマシューの目の前にはやはり白い立方体が現れた。
レイモンドと変わった点は大きく2つ。1つははめ込まれた水晶が赤色に輝いていること。そしてもう1つは現れた立方体のサイズである。人間の顔くらいのサイズの立方体がマシューの目の前に浮かんでいたのだ。
「なるほど。魔力量は平均以上。そして魔力適性は火属性になるかな」
やはりニコラは冷静に結果を分析してみせた。少なくとも魔力量によればレイモンドよりもマシューの方が魔力量が多いようである。まだ何の魔法も使えないが使えるようになればマシューはいち早く戦闘に組み込めるように出来そうである。結果が相当嬉しかったのかマシューは誰が見ても笑顔と表現するだろうと思えるほど緩んだ表情を浮かべていた。
「なるほどな。……レイモンド、どうやら魔力量に関して言えば俺は君よりも優れているらしいぞ」
「魔力適性検査の前に不満そうな顔だったのに結果が良かったらこれだもんな。ニコラ、魔力量は鍛錬で上げられるんだよね? なら俺がマシューの魔力量を上回ることもあり得るよね?」
「もちろん。僕の最初の魔力適性検査の結果はレイモンドと同じくらいだったからね。その当時それこそマシューくらいの魔力量の人を羨んだものだ。でも今ではそんなこと全く気にしていない。鍛錬次第でいくらでも魔力量が増やせることを知っているからね」
そう言うニコラの表情は穏やかなものであった。決して嘘などついていない。それが2人ともに伝わって来たのである。
「ニコラ、……ちょっと頼みがあるんだけど」
「何だい?」
「今のニコラの魔力適性検査を見たいんだ。気にならないくらいの魔力量がどれほどなのか知ってみたいんだ」
「……なるほど、僕がレイモンドと同じくらいの魔力量からどこまで増やしたのか見たい訳か。……まあ、口で言うよりは見せた方が分かりやすいのは確かだね。……この部屋ならいけるかな。受けても構わないかい?」
「もちろんです。早速準備させていただきます」
どうやら見せてくれるようである。ニコラは若いながら深緑の騎士団グリフォーンの騎士団長である。そんな彼の魔力量を見れるのは相当貴重なことである。2人とも興味津々の眼差しで結果が出るのを待っていた。
機械の電源が入れられてからおよそ1分後、ようやくニコラの魔力適性検査の結果が出た。ニコラは満足そうに腕を組んで2人を見ていた。そしてマシューとレイモンドはあまりの驚きに言葉を出せずにいたのだ。
目の前には広い部屋を埋め尽くすかのように天井から床まで目一杯広がった巨大な白い立方体が浮かんでいたのである。その立方体を考えればレイモンドはもちろん、マシューの魔力量がいかにちっぽけであるか明確に2人の目にありありと示していた。
「……どうかな?満足してくれたかい?」
「……すごい努力をして来たんですね」
思わず敬語が出てしまっているマシューにニコラは微笑みながらとある本のようなものを手渡した。見たことの無い本のため何のために手渡されたのかすぐには分からなかった。1番上の本の表紙には初級火属性魔法と記されていた。
「……初級火属性魔法?」
「今渡したそれは読めば魔法が使えるようになるとても良いものだよ。読んでも無くなるようなものじゃ無いから気軽に読むと良い。……昔読んだ本を取っておいて良かったよ。君たちの適性別に4冊手持ちの本から選んでおいたから是非読むと良いよ」
慌ててマシューは他の3冊の表紙も確認した。手元には初級火属性魔法、初級水属性魔法と書かれた本が1つずつと初級補助魔法と書かれた本が2冊ある。表紙から考えるに4冊のうち後の2冊はレイモンドのためのもののようだ。
マシューは振り返ると初級水属性魔法と初級補助魔法の本をレイモンドに手渡して、まず初級火属性魔法の本を読んでみることにした。最初の1ページを開けてみるとそこにはこんな文章が書かれていたのである。
『ここに初級火属性魔法を記す。適性あるものは好きなページを開くが良い。開いたページに記した初級火属性魔法を一度だけ授けよう。全ては神の仰せのままに……』