第4話 考えることは山ほど
読んでくださりありがとうございます。マシューは少し迷っているようです。
だからこそ危険と承知の上で傭兵として参加する意味があるのだ。神聖の騎士団の各個人と関わっていても何も分からないどころかマシューは自分で見たことに疑いすら抱いている。ならばいっそ神聖の騎士団に飛び込んでみるのも一つの手であろう。
「……僕はマシューの覚悟はよく知っているつもりだ。そしてそれに応えてあげたい気持ちもある。だからこそフルフェイスの兜を使ってまで新興都市へ行こうとしているのさ」
「……ありがとう」
「どういたしまして。……あぁ、それとね。僕はまだあの人物を本当の意味で信用はしていないんだ」
マシューとレイモンドはエルヴィスの話を聞きながら何度も頷き続けていた。が、信用していないとの言葉に思わず顔の動きが止まったのだ。エルヴィスの言うあの人物が誰なのか2人とも分からなかったのである。
「あの人物?」
「パウロとかいう騎士のことだよ。傭兵の話自体が罠である可能性は考えておいた方が良い」
「あぁ、そう言うことか。確かに俺もパウロの話が全て嘘の可能性は考えているよ。……まあ、嘘かどうかの判断は出来ないけどね」
エルヴィスが信用していない人物はパウロのことのようだ。確かに彼はそもそもの身分をまだ日が浅い冒険者だと偽っていたという過去があるのだ。それは恐らく何か明確な意図があるのだろうが、その意図が分からないマシューたちにとってはただ自分を偽る人だとしか思えないのだ。
従ってマシューは今回の話も全て偽りである可能性は捨てていない。だがそれは可能性を捨てていないだけであって、偽りだと見抜くことが出来る訳ではない。話に乗る以上は偽りでないことを祈るしか出来ないのだ。
「……パウロの話がどこまで本当かの判断は出来ないけど、新興都市に行くかどうかなら僕は判断出来るよ」
「ええと、……つまりパウロの話が全くの嘘で俺たちを全然違う場所に誘い込もうとしている場合の判断が出来るってこと?」
「そういうことだね。……多分あんまり意味が無いかな」
そう言うエルヴィスは少し申し訳無さそうな表情である。エルヴィスとしてはどんな偽りでも見抜きたかったのだろう。だがエルヴィス以外の面々は何一つ判断基準が無いために判断基準が少しでもあると言うのはありがたいことなのである。
「意味が無いなんてことないさ。むしろかなりありがたいことだよ。それにエルヴィスがいることでパウロもそう簡単には偽れないんじゃないかな? なにせどこまでエルヴィスが知っているかがパウロには分からないんだからさ」
「……なるほど、俺たちにとってパウロの話が本当かどうかの判断が難しいように、パウロにとって俺たちはどこまで偽れるかの判断が難しいってことだな」
「そういうことだよ。……まあ、これはあくまでパウロが何かしらの嘘をついて俺たちを騙そうとしているという前提での話であって、全て本当の話だった場合は、素直にパウロに謝罪しないとな。疑ってすみませんでしたってね」
マシューのその言葉に3人とも笑って頷いたのである。最初のイメージが悪いせいか全員パウロが嘘を言っている前提で話を進めてしまっているのだ。もちろん疑いを持って行動することは大事なことだが、嘘ではなかった場合のことも考えておく必要はあるのだ。
「……ええと、パウロが指定してきた時間帯は確か昼前だったか?」
そう言ってレイモンドは部屋の窓から外を見やった。午前中の爽やかな景色と忙しそうに動き回る人々がそこには映っている。まだ昼には少し早い時間帯である。
「……そうだな。だったらエルヴィスの兜を買いにライアンの武器屋に行こうか。気に入ったものが見つかったくらいで昼前になるんじゃないかな」
マシューのその言葉に3人とも頷いて立ち上がった。こうして4人は新興都市へ行くためにライアンの武器屋を目指したのである。目的はあくまでもエルヴィスのフルフェイスの兜を買うことであるが、同時に新しい武器を買うのも良いかもしれない。そんなことを考えながらマシューはライアンの武器屋に向けて足を進めていたのだ。
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武器屋
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武器屋に到着した4人は早速扉を開けて、まずライアンの姿を探したのである。ライアンはどこからともなく現れるので探すともなると大変である。
だがいくら探しても見覚えの無い店員の姿があるだけでライアンの姿は見当たらなかった。そして武器を探しているわけでは無い4人が気になったのかその店員が4人に近づいて来たのである。
「……あの、何かお探しですか?」
「ええと、兜を買いに……。ええと、ライアンはどこに?」
特に隠すようなことでも無い故にマシューは正直にそう言ったのである。そのおかげでその店員はようやく納得したようだ。恐らく彼にはマシューたちが目の前にある武器を探しているようには見えなかったのだろう。
「親父なら今いないんですよ。親父は今武器の調達に遠出していまして、帰ってくるまでの間だけ私が店番をしているんです」