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マシューと《七つの秘宝》  作者: ブラック・ペッパー
第5章 希望を巡る謀略
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第3話 例え危険と知っていようとも

 読んでくださりありがとうございます。マシューはパウロの話に乗るつもりのようです。

 マシューが出した結論はパウロの話に乗ると言うものである。それはすなわち傭兵として新興都市での《希望》の象徴の警護に参加すると言うことであり、何も考えずに賛同するようなことでは無い。それ故にしばらく部屋には沈黙が流れたのだ。


「……まあ、そうだろうとは思ってたよ」


 ゆっくりとそう呟いたのはエルヴィスである。彼の表情には諦めのような決意が滲んでいた。


「へぇ? それはまたどうしてだ?」


「何となくかな。……昨日話を聞いた時から覚悟は決めなければとは思っていたさ」


 覚悟。エルヴィスは自分の今の感情をそんな言葉で表したのだ。恐らくこの部屋にいる4人の中で一番パウロの話に乗りたくないのはエルヴィスであろう。今彼は神聖の騎士団に未練も何も無いのだ。しかしパウロの話に乗って傭兵となる場合、彼からすれば一度追放された場所に傭兵として再び参加することになるのだ。やりづらさは殊更だろう。


「……ひとつ条件を付けさせてくれ。無駄だとは思うが神聖の騎士団の傭兵となるにあたって……顔は隠しておきたい。だから、……フルフェイスの兜をずっと被ったままでいるということで話を合わせてくれないか?」


 エルヴィスの付けた条件はエルヴィスの顔を神聖の騎士団に見せないで良いようにエルヴィスはフルフェイスの兜を常に被っているという話で合わせて欲しいというものである。もちろんその条件を断る理由は無いためマシューとレイモンドは即座に頷いて応えたのだ。


「なるほど、エルヴィスだってことをバレたくないって訳だな。……ちなみにそれはなんで無駄だと?」


「神聖の騎士団の下っ端くらいなら僕を知らない人が多いのかもしれないけど、立場が上がるにつれて僕を良く知る人が増えてくる。そうなればフルフェイスを被っていたって僕だと分かってしまうから無駄ってことさ」


「……それほど上の立場の人は来ないかもしれないぜ?」


「いや、間違いなく来るだろう。そもそも重要な象徴の警護に傭兵を起用すること自体神聖の騎士団からすればリスクのあることだ。何かが起こっても良いようそれなりの立場の人が指揮をとるんじゃないかな? ま、さすがに騎士団長は来ないと思うけどね」


 その言葉にレイモンドは納得したように何度も頷いた。ルシャブランで騎士隊副隊長の裏切りがあったように象徴を警護している間何が起こるかは予想出来ないのだ。不測の事態に備えてそれなりの立場の人間が控えていることは充分考えられるだろう。


「……みんなはミゲルを覚えているかい?」


 マシューは唐突にそう問いかけた。レイモンドとエルヴィスは覚えていると言うように頷き、エレナは首を傾げた。エレナが首を傾げたのは仕方のないことである。そもそもエレナはミゲルを知らないのだ。


「ミゲル?」


「あぁ、そうか。エレナはそもそも知らない話だったな」


「……良かった。全然知らないから焦ったよ。……ん? エルヴィスは知っているの?」


「僕は知ってるよ。エレナと同じようにコカトリスによって石化されてしまった少年。その少年の名前がミゲルなんだよ。僕とマシューとレイモンドでエレナの時と同じようにして石化から直してあげたんだ」


「へぇ、そんなことが。……それで? その少年がどうしたの?」


「ミゲルは俺たちよりも年下でね、冒険者になるにはちょっと早かった。それじゃあなんでミゲルはコカトリスなんかと戦ったのか。……それはミゲルが神聖の騎士団の傭兵として参加していたからなんだよ」


 マシューのその説明を聞いたエレナはようやく腑に落ちたような表情を浮かべたのだ。ミゲルという顔も知らない人間の話をする意味がエレナには分からなかったが、傭兵に関係するならばミゲルの話が出てくる理由も良く分かる。


「なるほど、傭兵か。それでミゲルの話をしたんだね。……ええと、つまりマシューは傭兵になりたかったの?」


「そう言うことさ。俺が冒険者となりこうして《七つの秘宝》を集めているのは、俺の父さんが何をしようとしていたのか、何故殺されなければならなかったかが知りたかったからなんだ。例え傭兵としてだとしても、神聖の騎士団に近づけるのなら何だって良い。……神聖の騎士団は俺の父さんを殺した騎士たちがいた騎士団だからね」


 そこまで言ってマシューは口をつぐんだ。住んでいた田舎町を出発した時、マシューはあの時見た騎士が過ぎるために騎士すべてが悪人のように思っていたのだ。それ故に初めて出会った騎士であるニコラに対して最初かなり警戒していたのだ。


 しかし、ニコラはあの時見た騎士と同じ騎士とは思えないほど優しく尊敬すべき存在だったのだ。それがマシューにとっての騎士が揺らいだ瞬間である。しかしニコラは深緑の騎士団であり、神聖の騎士団では無かった。それでマシューは神聖の騎士団こそ憎むべき悪人だと思い始めたのだ。


 だがそれも違ったのである。副隊長であるアンガス、書庫で出会ったエリック、そして目の前にいるエルヴィス。今まで出会った神聖の騎士団に関係する人全てが到底悪人とは思えない人だったのだ。故にマシューは神聖の騎士団も実は憎むべき存在では無いのではと思い始めているのだ。


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