第2話 バーナードは吸い過ぎ
読んでくださりありがとうございます。バーナードは相変わらずです。
そう言ってバーナードはエルヴィスとエレナににこやかな表情で片手を差し出した。エルヴィスはバーナードのその手に握手で応えながら傍らに置かれた魔水晶に視線を向けていた。その魔水晶は小さなものだが、もちろんちゃんと魔法が発動出来る。効果は恐らく【消臭】では無いだろうか。
「魔水晶ですね。何か魔法をお使いに?」
「これか? これは昨日雑貨屋で買ったのさ。これを使えば【消臭】が発動出来るんだとよ。だからこうしてこっそりたばこを吸っていても大丈夫っていう訳さ。……おっと、もちろんポーラには内緒だぜ?」
エルヴィスの見立て通り魔水晶の効果は【消臭】のようだ。得意気にバーナードは話しているがいったい何本のたばこを吸ったのだろうか。やはり先程ほのかにたばこのにおいが漂っているとマシューが思ったのは間違いでは無いらしい。
「……まあ、言いはしませんよ」
「それは助かる。あんたらが来たってことは朝食を食べに来たんだろ? ならぼちぼち取りに行こうかな」
そう言ってバーナードは立ち上がってゆっくりと扉へ歩いて行った。そして扉のすぐ前に来た時にちょうどのタイミングで扉が開いたのである。もちろん開けたのはポーラである。
「びっくりした! あんたなんでこんなところにいるのさ」
「なんでってそれはもうそろそろ取りに行ったら良いタイミングかなと」
「ふぅん。……朝食を運んでくれるのは嬉しいけど、あんたがたばこを吸ったことは許されないわよ?」
バーナードは虚をつかれたような表情である。なにせ【消臭】の効果でバレてないと自信満々であった故になぜバレたのか理解が追いつかなかったからである。だがバレないと思ってバーナードが調子に乗ってたばこを吸いすぎた故に【消臭】の効果を上回っており、当然ポーラにはバレてしまうのだ。
「今日の朝食はりんごのケーキでございます。それではどうぞゆっくりとお召し上がり下さい」
そう言ってポーラは去って行った。バーナードは先程から動けずに固まっている。たばこがバレて怒られているバーナードは最早いつもの光景であり、マシューとレイモンドは全く気にすることなくりんごのケーキを食べ始めた。それを見てエルヴィスとエレナも恐る恐る食べ始めた。
「……おかしい。なんでバレたんだ?」
「……それは吸いすぎだからですよ。【消臭】は効果が発揮されれば全ての臭いが無くなるという魔法じゃありません。精々気にならなくなる程度ですよ」
「たばこのにおい、……してたか?」
「……少し鼻につく程度には」
エルヴィスのその言葉にバーナードはがっくりと肩を落とした。相変わらずの光景であり、恐らくこの光景はバーナードが禁煙するまでずっと見れるのだろう。そんなことを考えるとマシューは自然と笑みがこぼれた。それで気分が軽くなったマシューはずっと悩んでいたことにひとつの結論を出したのだ。あとはそれを3人に伝えるだけである。
「マシューたちの言う通り、ここの食事は美味しいな。昼食も食べたいくらいだ」
「お、嬉しいことを言ってくれるね。ポーラに伝えておくよ。……それで? 実際昼食は必要なのかい? 必要ならそれもポーラに伝えるんだが」
「……なるほど。それはまだ未定としておいて下さい。まだ予定は決まっていませんので」
「いや、予定はもう決めたよ」
そう言ってマシューは立ち上がった。マシューは今後どうするかについて決断を下したのだ。それ故に予定はもう決まっており、昼食を緋熊亭で食べるのかどうかも決まっているのだ。
「申し訳無いけど、これからまた帝都を出るんだ。だから当分食事の用意は必要ないとポーラには伝えておいてよ」
「分かった。伝えておくよ。……頑張れよ」
「ありがとう。……俺たちは先に部屋に戻っているよ。食べ終わったら俺とレイモンドが泊まってる部屋まで来てくれ。そこで今後について伝えるよ」
「おっと、ちょっと待ってくれ。今食べ終わるから」
エルヴィスはりんごのケーキをゆっくりと味わって食べており、食べるペースが一番遅かったのである。食べ終わるまで待っているのもと思ったマシューはその間に部屋に戻ろうとしたのだ。だがそれでエルヴィスを焦らせてしまったようでエルヴィスはまだ4分の1ほど残っていたケーキを慌てて全て頬張ったのである。
「別にそれほど急がなくて良かったのに……」
「いや、……個人的にマシューの決断が気になっていてな。早く聞きたかったのさ」
そう答えるエルヴィスはもうすでにケーキを飲み込んでいた。別に急がなくても良かったが早くなるに越したことは無い。後片付けをバーナードにお願いして4人は食堂を出てマシューたちの部屋に向かったのだ。
「……へぇ、こんな部屋に泊まっているんだ。……良いね」
「良いだろ? ニコラが勧めてくれた宿屋なんだが今のところ何の不満も無い」
見るとレイモンドが得意げな表情を浮かべていた。その気持ちはマシューにも理解出来る。実際自分は今多分レイモンドと同じような表情をしているだろう。いつまでもその気分にひたっていてもいいのだが、話を進めた方が良いのも間違いないのだ。
「さて、早速本題に移ろうか。……パウロの持ちかけて来た話はかなり危険な話だが、同時にチャンスでもある。だから俺はあの話に乗ろうと思うんだ」