第37話 《自由》の象徴の完成
読んでくださりありがとうございます。ついにラグドールの盾が完成します。
「さて、本題へ移ろう。君たちも見たと思うが、これが《自由》の象徴のラグドールの盾だ。……まだ未完成だがね」
「大空の翼を使う……でしたね」
「……しかし、大空の翼を使えば完成するって言うけど、そもそもどうやって使えば良いんだ?」
「もちろんかざして使うんだ。……さあ、早速やってみよう」
どうやら完成させるのに特別な動きは必要ないようだ。言われるがままマシューは収納袋から大空の翼を取り出して目の前にあるラグドールの盾にかざしたのである。かざし始めておよそ5秒が経った次の瞬間、いきなり目の前のラグドールの盾が大きく割れたのである。
マシューは割れてしまったラグドールの盾を恐る恐る掴んだ。割れた場所はひっつけることも出来るが綺麗に取り外すことも出来るようだ。まさか完成したラグドールの盾が割れたこの白い塊な訳は無い。ならば完成したラグドールの盾はこの中にあるのだろう。ゆっくりとマシューは割れてしまったラグドールの盾の表面を取り外した。完全に取り外し終えたその盾は《自由》の象徴に相応しい風格を纏っていた。
「……これが、《自由》の象徴か」
「本当の意味で実物を見るのは初めてだろう? 私も初めて見たよ。なるほど、確かに凄そうだ」
マシューの手にあるラグドールの盾は全体的に白い素材で出来ているが縁は銀であしらわれ、中央には小さな水晶が取り付けられていた。この水晶がどんな力を持っているのかはマシューには分からなかった。
「……言わなくても分かるとは思うが、ラグドールの盾を完成させたのは他ならぬマシューのためだ。遠慮なく持って行ってくれたまえ」
「……遠慮なく持っていきますね」
マシューは頷きアレックスにそう返事して収納袋に丁寧に仕舞い込んだ。マシューの返事に満足したように数度頷くとアレックスは豪華な椅子へ戻り再びどっかりと座った。そしてなぜか不敵な笑みを浮かべていたのだ。
「……ちなみに、そのラグドールの盾を始めとしたいわゆる《七つの秘宝》と呼ばれているものには不思議な性質があってな。持ち主が命を落とせば元の保管場所へ戻る性質があるのだよ。ラグドールの盾の元の保管場所はもちろんここルシャブランだ。……二度と戻ってこないよう祈っているよ」
「ふふ……。無駄な祈りにならないよう精一杯頑張りますよ」
「そうしてくれ。……ところでマシューたちはすぐにここを出るのか? 私としてはまだ滞在してくれても何ら構わないのだが」
「残念ではありますが、これからすぐに帝都へ帰ろうかと思っています」
マシューが帝都へ帰ろうとしているのはレイモンドしか知らない。聞いていないと言いたげな視線を後ろに感じたがマシューはそれを気にしていない。アレックスは最初こそ残念そうな表情をしていたがすぐに切り替えて表情を引き締めていた。マシューは勇者候補であり、いつまでも留まる理由は無いのだ。
「それならば仕方ない。……そなたたちの無事をここから祈っているよ」
マシューはアレックスに礼を言ってから部屋を出たのである。そしてそのタイミングでエルヴィスがマシューに声をかけて来たのだ。恐らくずっと聞きたかったのだろう。
「これから帝都に帰るのかい?」
「そうだよ。まだ帝都でやり残したことがあるからね」
「……うーん、まあそれもそうか」
エルヴィスはなぜか少し不安そうな表情を浮かべていたのだ。その理由がなぜなのかマシューには分からなかった。いったい何が不安なのだろうか。
「エルヴィスも地図を見たことがあるだろう? あの地図によれば帝都にひとつ象徴があるはずなんだ。それを手に入れるために帝都に帰るんだよ」
「そうだよね。マシューとレイモンドは象徴を集めているんだもんな」
「……?」
エルヴィスのその口振りから何となくマシューは、自分たちが象徴を手に入れようとしていることに少し不安に感じているのではないかと思ったのだ。
だがそれは黄金の林檎を手に入れようとしてエルヴィスたちと共に行動するようになってからずっとあったことである。エルヴィスは今更何に不安を感じているのだろうか。
「とりあえず帝都に帰るためにもまずは夜霧の森の泉を目指そうか」
「良いね。通る地点にはところどころ印をつけているはずだから迷うことも無いだろう。後はモンスターに出来るだけ遭わないようにすれば帝都まで楽に帰ることが出来るはずだ」
こうして4人は帝都へ帰るためにルシャブランを出発したのである。ルシャブランへ向かう時に一定の距離で目印を付けておいたおかげで、4人は迷うことなく夜霧の森の泉へとたどり着いたのである。そしてその間幸運にも一切のモンスターと遭遇していないのだ。
「……意外と楽にたどり着いたな。モンスターとも戦闘にならなかったし。……これはただの偶然か?」