第36話 マシューはずっと考えていた
読んでくださりありがとうございます。無事にルシャブラン城に帰ってきました。
ルシャブラン城へと帰ってきた4人はオースティンの頼みで再び城へとやって来たシャーロットの手料理を心行くまで堪能したのである。そしてオースティンの計らいで4人はその後ルシャブラン城にある大部屋に仮眠室のベッドを移動させた簡単な寝室で眠ることになった。
前回の失敗からエレナは3人と少し離れた場所にベッドを配置したのだが、相変わらず寝相が悪くレイモンドは睡眠中に思い切り蹴飛ばされてしまったのだ。当然ベッドの上にはエレナの脚が乗せられている。これでは寝ることが出来ない。月明かりに照らされながらレイモンドは深くため息を吐いたのである。
「…………ん?」
ふとレイモンドは隣のベッドに目を向けた。そこにはマシューが寝ているはずだが、その姿が見えない。辺りを見渡すとマシューが大部屋のベランダで涼んでいるのが分かった。眠れないのだろうか。
「……どうした?」
「ん? あぁ、レイモンドか。君こそどうしたんだ? 俺が知る限り君はぐっすり寝ていたはずだけど」
「相変わらずエレナの寝相が酷くてね。思い切り蹴飛ばされて起きちまったんだよ」
マシューは一瞬首を傾げてから大部屋を覗き込み吹き出すように笑ったのである。どうやらエレナの寝相の悪さは想像も出来ないレベルのようだ。
「……なるほど、あれじゃあぐっすり寝れないな」
「まあ、待っていればそのうち戻るだろうよ。そうなったらまた寝ればいいさ。……それで? マシューはどうしたんだ?」
「……実はね、俺はずっと考えていたんだよ。このまま《七つの秘宝》を集めて、勇者候補になるべきか……についてね」
「ほう」
「レイモンドも知っていると思うけど、俺はただ父さんが何をしようとしていたのか、なぜ殺されなければならないのか、……それが知りたくて《七つの秘宝》を集めている。だから正直突然自分が勇者候補だなんて言われて戸惑っている自分がいるんだよ」
そんなことを言うマシューの顔は悩んでいる人の表情には見えない。むしろその表情は結論が出て吹っ切れたような人の表情である。思い返せば、修羅の国でマルクと戦った時マシューは何かに対して迷っていたのである。どうやらあの時からマシューはこれについて悩んでいたらしい。
「……それでね。俺は一度全く何も考えずに、ただ《七つの秘宝》を集めてみようと思ったのさ。そうすれば勇者候補だとか、父さんのこととかを全部抜きにしてただ《七つの秘宝》だけに集中できると思ったんだ」
「なるほど。……その結果を聞いても良いか?」
「ふふ、結果が気になるかい? 何も考えずただ《七つの秘宝》を集めてみても、以前との違いは見出せなかった。むしろ《七つの秘宝》が手に入ることによる嬉しさが増えたくらいだ。……結局俺はいつの間にか《七つの秘宝》というものに魅せられているのかもしれないな」
そう言ってマシューはにっこりと笑ったのだ。先程マシューの表情が吹っ切れたもののように感じたのはこれが理由だろう。マシューはいつの間にか自分が、ただ《七つの秘宝》を追い求めていることを自覚したのだ。
「それじゃあ、これから先も《七つの秘宝》を探すってことで良いんだな」
「もちろん。いくつか集まってはいるけどまだ父さんのことは全然分からない。こうなったら全部集めるつもりさ」
「全部集められると良いな。……次はどこへ行くんだ?」
「……地図を見る限りでは少なくとも帝都にひとつ《七つの秘宝》があるみたいなんだよね。他の場所はまだ見当もつかないし、ひとまずは帝都に帰るで良いんじゃないかな?」
「そう言えばまだ帝都で手に入れてなかったな。それじゃあ帝都へ帰るか」
「それじゃあ決まりで良いかな。ラグドールの盾を手に入れたら帝都に帰ろう。……お、どうやらベッドが空いたみたいだな」
振り返ると今エレナは行儀良くベッドで眠っているようだ。これならまたベッドで眠りにつけそうだ。
「全くやれやれだぜ」
「良かったね、これでもう一度寝れそうだよ。俺もそろそろ寝ることにしようかな」
「あぁ。おやすみ、マシュー」
「おやすみ、レイモンド」
2人は微笑みながらベランダから大部屋へ戻りベッドの中に潜り込んだのである。大分眠気は来ていたようですぐに隣から静かな寝息が聞こえて来た。それを聞いたレイモンドは思わず口角を上げ、そして間もなく自分も眠りについたのである。
明くる朝、マシューたちはアレックスによって呼び出されていた。もちろん理由はラグドールの盾の完成のためである。豪華な扉をノックしてアレックスの部屋へ入ると、相変わらずアレックスは豪華な椅子にどっかりと座っていた。そしてラグドールの盾が既に部屋の中央に配置されていたのである。
「おはよう諸君」
「王様おはようございます」
アレックスの挨拶にマシューはニヤリと笑ってそう返したのである。つい昨日まで王子だったアレックスはもう王様なのである。ならばアレックスとも、王子とも呼ばずに王様と呼ぶのが自然だろう。アレックスはそれを聞いて苦笑いを浮かべていた。
「なんだかむず痒いな。……まだ全然慣れてないんだ。何せ結構長い間王子と呼ばれ続けていたからな」
アレックスは苦笑いを浮かべながら豪華な椅子から降りてゆっくりとラグドールの盾に近づいた。部屋の中央に置かれたそれはまさしくマシューたちが見たラグドールの盾そのものである。説明を聞いて目で見てなおそれが《七つの秘宝》であるとはマシューには思えなかった。何せ見た目はただの白い塊なのである。