第34話 アクィラ飛行部隊
読んでくださりありがとうございます。こうしてアレックスがルシャブランの王になりました。
「新しい王の誕生に立ち会えるのは光栄ですな。……さて、私としては皆にアクィラの地でゆっくり休んでもらいたいところだが、勇者候補としては早く完成した状態のラグドールの盾を見たいだろう」
そう言いながらアミナブルはマシューの顔を見ていた。マシューとしては別にアクィラに一日泊まっても何の問題も無いのだが、完成したラグドールの盾を見たいと言う思いもマシューにはあった。少し悩んでからマシューは結論を出したのである。
「……そうですね、やはり完成した《自由》の象徴を見てみたいです」
「やはりそうだろう。ならば早くルシャブランへと戻るが良い」
「……と言うことはあの道をまた歩くのか……」
マシューの後ろからそんな呟きが聞こえてきた。呟いたのはレイモンドである。レイモンドはルシャブランからアクィラまでの険しい道のりをオースティンを背負いながら歩いて渡っていたのだ。マシューはアレックスを背負っていたがどうやらオースティンの方が少し重かったらしい。
それならば帰りは自分がオースティンを背負えば良い。そう思ってマシューが口を開こうとしたその時前にいるアミナブルが笑い始めたのだ。
「確かにあそこは通るものを苦しめようとわざと険しく作った道。勇者候補の仲間とは言え重労働には変わりないか。安心してくれたまえ。ここは犬鷲の里アクィラ。せっかく元の関係に戻ったんだ。是非あれを使ってくれたまえ。……ブレイブ、案内して差し上げなさい」
「……案内?」
「そうです、案内です。私についてきて下さい」
そう言うと忙しなく羽ばたきながらブレイブは部屋を出て行ったのである。アミナブルの口振りから考えるに恐らく行きに使った険しい道ではなくアクィラの民にしか知り得ない秘密の道があるのだろう。いったいどんな道だろうかと想像を膨らませながらマシューたちはブレイブの後を追いかけたのである。
「……なるほど、これは帰りは楽そうだな」
ブレイブの後を追いかけた4人がたどり着いたのは外へ出られるようになっている比較的大きな倉庫のような部屋である。そこには人1人が楽々乗れそうなゴンドラが数台置かれていた。そしてその横には屈強な体格の犬鷲が数羽控えていたのだ。
「この場所は飛行場と呼ばれていまして、アクィラにいらしたお客様をここにいるアクィラ飛行部隊が地上へお連れする場所なんです」
ブレイブがそう言うとアクィラ飛行部隊と呼ばれた犬鷲たちが得意気に胸を張ったのだ。どうやらかなり誉れある仕事のようである。
「つまり俺たちはこいつに乗っていればここにいるアクィラ飛行部隊がルシャブランまで送ってくれるって訳だな」
「左様でございます。……ゴンドラは4台以上ございますので全員お乗りいただけます。それはそれとして、……実はこんなものがあるのです」
そう言ってアクィラ飛行部隊と呼ばれた犬鷲たちの1羽が部屋の奥へ行き何かを咥えて戻ってきた。見た目は木で出来た三角形の大きめの枠である。そして一番上の頂点には握りやすそうな出っ張りがついていた。3人はそれを見ても何のことか分からず険しい表情だったが、マシューは一目でそれが何か分かった。なるほど、どうやら試されているらしい。
「……それもゴンドラの一種だと?」
「え⁈ このただの木の枠が? マシューそれは冗談が過ぎるぜ。いくらなんでもそれは……」
「さすがは勇者候補でおられるお方ですね。一目でこれが何のためのものかを理解なさるとは」
レイモンドは口を開けたままそう話す犬鷲とマシューを代わる代わる見ている。よほど信じられないのだろうがこの枠もまたゴンドラの一種。ただ床が無くて木の枠に掴まるだけというおよそ安全性なるものが欠片も保証されていないだけである。
「勇者とは読んで字の如く勇気ある者を意味します。勇者候補であるあなた様ならゴンドラではなくこんな木の枠でもルシャブランへたどり着けるでしょう」
「面白い。それじゃあ俺はこれを使ってルシャブランに帰るとするよ。エルヴィス、悪いがアレックスを背負っていてもらえるか?」
マシューは背負っていたアレックスを下ろしてエルヴィスに手渡した。手渡されながらアレックスは心配そうにマシューを見つめている。そしてエルヴィスもまた心配そうな表情である。
「……本当にそれを使うのか?」
「もちろん。……別に使わないといけない訳じゃないんだけど、見たら使ってみたくなってね。大丈夫、事故にはならないさ」
そう言っている間に準備が出来たらしい。マシューは差し出された木の枠をしっかりと掴んだ。そしてそれを見てアクィラ飛行部隊が頂点にある出っ張りを足で掴みその場から思い切り外へ飛び出した。