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マシューと《七つの秘宝》  作者: ブラック・ペッパー
第4章 隠された自由を求めて
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第33話 翼を授けよう

 読んでくださりありがとうございます。こじれていた関係ですが、無事に修復出来たようですね。


 頭を上げたオースティンは信じられないと言いたげな表情である。そしてその横にいるアレックスも同じ表情である。ニール暗殺事件でこじれてしまった両里の関係だが、その関係を修復するのは思っているよりもずっと簡単なことだったのだ。


「……さて、勇者候補たちよ。あなたたちがここに来たのは大空の翼が欲しい故だな?」


 アミナブルはマシューをまっすぐ見てそう言った。大空の翼。それは《自由》の象徴であるラグドールの盾を完成させるのに必要なものである。そのことを思い出したマシューはもちろん首を縦に動かしたのだ。


「まあ、そうだろうな。……本来大空の翼は勇者候補が相応しい存在であるかを我々を見極めるためにあるものだ。故にそれを差し上げる前にとある試練を課しているのだ。……が、今回は試練を特に課さない」


「……?」


 試練がある。そんなアミナブルの言葉にマシューは当然と考えどんな試練が課されるのかと身構えたが、どうやらアミナブルは特に試練を行わないようである。その理由がなぜなのかをマシューはもちろんレイモンドたちも分からなかった。


「さて、君たち勇者候補に是非知ってもらいたいことがある。それは我がアクィラの新しい王子のことだ。……と言っても君たちの中にはもう知っているものもいるんだがな」


 アミナブルの声に呼応するかのようにマシューたちの後ろの扉が開いた。そして小さな茶色の鳥が一羽マシューたちめがけて飛んで来たのである。恐らくこの鳥がアミナブルの王子なのだろう。しかし目の前の鳥は両手の手のひらに収まりそうなほど小さかった。そしてその鳥を見てマシューは少し引っかかるものがあったのである。


「紹介しよう。彼はアクィラの新しい王子ブレイブだ」


「はじめまして。あなたがルシャブランの王様ですね」


 ブレイブと紹介されたその小さな鳥はオースティンの目の前に降り立つと丁寧に頭を下げた。その時ブレイブの首元をじっと見ていたレイモンドが思わず声を漏らした。何かに気付いたのだろうか。心なしかブレイブが嬉しそうにしているようにマシューには思われた。


「……もしや、夜凪海岸で……」


「ええ、そうです。あの時助けていただいたものです」


 そう言ってブレイブは嬉しそうに笑った。夜凪海岸と聞いてマシューもようやく思い出したのだ。確かに夜凪海岸でマシューとレイモンドは一羽の小さな茶色い鳥を見つけていた。その鳥は蹄鉄の鍵が首にハマってしまって抜けられず海岸でもがいており、そこへ偶然やって来たマシューたちがその鳥を助けたのだ。


「ブラウンスパローだとばかり思っていたが、アクィラの王子だとは……」


「我らアクィラの民は最初はブラウンスパローと見間違えるほど小さな鳥なのだ。それが成長して滑空が自在に出来るようになってはじめて一人前の犬鷲となれるのだ。……その日ブレイブは飛行の練習をしていてな。何かの拍子に首に金属がハマってしまって抜けられなくなり群れから離れてしまったのだ。その時ブレイブを助けたのが、そこにいるあなただな?」


「……まあ、そうですね」


 アミナブルにまっすぐ見つめられ照れくさそうにレイモンドはそう答えた。もちろんレイモンドはアクィラの王子とは知らずにブレイブを助けている。それはその時のレイモンドの関心は魔法の練習にあり、わざわざブラウンスパローを討伐しなくても良いと思った故である。つまり言ってしまえば単なる偶然である。


 マシューが《幸運》の象徴である蹄鉄の鎧を手に入れた後ならば、そんな偶然も有り得るかもしれない。だが、ブレイブをレイモンドが助けたのは嵐馬平原すら行っていない頃である。単なる偶然ではあるが、大きな運命の流れに入っているかのような感覚をレイモンドは感じていた。


「あなたは勇者候補ではないが、勇者候補と共に行動する存在ではある。あなたと共に行動する勇者候補もまた良き人であることは我々にもよく伝わって来る。故に今回は特に試練は行わない。大空の翼を使い《自由》の象徴を是非手に入れたまえ」


 そう言うとアミナブルは懐から水色に輝く羽根を取り出した。これがアミナブルの言う大空の翼なのだろう。その羽根は強い生命力のようなものを手のひらを伝ってマシューへ伝えていた。


「さて、私たちもあなた方に知ってもらいたいことがある。……私は今この瞬間を持ってここにいるアレックスにルシャブランの王座を譲ろうと思っておるのじゃ」


 突然のオースティンの言葉に部屋の中にいる全員が漏れなく驚きの表情でオースティンを見た。目の前の老猫は真剣な表情であり、とても嘘を言っているようには見えない。マシューたちはアレックスの覚悟は聞いており、アレックスは自分の覚悟をオースティンが受け入れたことは知っている。だがこのタイミングで譲られるとは思っていなかったのだ。


「……王様、それは本当ですか?」


「もちろんじゃよ。今の私はもう王様ではない。かつて王だった老いぼれじゃよ。……アレックス、そなたはこれから王としてルシャブランを良きものに導いていくのじゃ」


「……はい!」


 こうしてアクィラとの関係を修復したオースティンは王としての最後の役目を終え、ここアクィラの城で王座をアレックスに譲ったのである。その顔は解き放たれたかのようにどこか晴れ晴れとしていた。



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