第26話 どちらが正しい?
読んでくださりありがとうございます。ルシャブランの王オースティンはなぜアクィラを敵対勢力としたのでしょうか。
「……つまり王様が今まで協調関係にあったアクィラに対して率先して敵対するようになったと。……それはまたなぜです?」
「……私の父ニールの話はジジイから聞いたか?」
「……敵対勢力によって暗殺されてしまったと」
「それがまず間違いだ。アクィラはむしろ父が王になることを望んでさえいたさ。それなのにどうして暗殺なんて考える? 暗殺したのはアクィラなんかじゃない。疑わしきは身内だよ」
確かに思い返してみればオースティンはマシューたちにアレックスの警護を頼んできたが、その理由はアレックスがアクィラから命を狙われている故であった。しかし実際アレックスの命を狙っていたのはウォルトンでありアクィラではない。そしてウォルトンは騎士隊の副隊長、すなわち身内である。
「……王様は気付かれておられなかったようだが、当時騎士隊は分裂していたのだ。王子であるニール様を王としようとするものと今の王様のままで良いと考えているものとにね」
そう言うビアンカの表情は苦々しいものである。今まで聞いた話からアレックスの父ニールが王子となったのは今から7年前。それからいつ暗殺されたのかは分からないがかなり昔のことであるのは間違い無さそうである。その当時アレックスやビアンカがどこで何をしていたのかは分からない。ただひとつ分かるのは先程話に出て来た身内の正体である。
「……つまりニールは今の王様のままを望む騎士隊によって暗殺されたと」
「そう言うことになる。そして彼らは王様にその責任を追求されぬようその罪をあろうことか何の関係もないアクィラになすりつけたのだ。……それを主張したのは今は亡き騎士隊元隊長。王様からの信頼は厚くそのことに誰も異を唱えられなかった。そして王様の中でアクィラが協調関係から許してはならない敵対関係へその時変わったのだよ」
「……それは確かな話ですか?」
話を聞きながらじっと考え込むマシューの後ろからその声は響いた。声を発したのはエルヴィスである。どうやらエルヴィスはアレックスの話にどこか疑いを持っているようだ。そしてマシューが考え込んでいたのも恐らく同じ理由である。アレックスの話に偽りは無さそうだが完全に信じるにはまだ足りないのだ。
「話を聞く限りでは正しそうには聞こえますがどこか他人事のようにも聞こえます。……もしやアレックスやビアンカは当時まだ生まれていない、もしくは生まれて間もないのでは?」
「……確かに父が暗殺されたのは私がまだ幼い猫だった頃、実際にこの目で見た話ではない。なにせずいぶんと前の話だからな」
そのアレックスの言葉でようやくマシューは事態を理解したのだ。マシューもまたエルヴィスと同じ部分が気になっていたのである。マシューの耳にはアレックスの話がどこか他人事のように聞こえさらにどこかトゲを感じるのだ。
ここから考えるにアレックスに正しい話としてこの話を伝えたのは恐らくニールを王にしようとしていた騎士隊の分裂したもうひとつの勢力だろう。そして彼らはニールの代わりにアレックスに王になってもらおうとこの話を伝えたに違いない。
つまりニールの暗殺に関して本当の意味で正しいのはニールが暗殺されたということだけで後はどちらかの勢力に都合の良い情報で固めてあるのだ。それ故にどちらの話もある程度正しく聞こえるのである。
「……なるほど、よく分かった」
「……何が分かったんだい?」
マシューの呟きに困惑の反応を示したのはエルヴィスである。エルヴィスはマシューが何を分かったのか分かっていない。そしてそれはアレックスやビアンカも同じである。気付けばマシューには複数の困惑の視線が集まっていた。
「つまり俺たちは俺たちなりに根拠を持って判断すれば良いと言うことさ。今アレックスから聞いた話は正しそうに聞こえるが、以前王様から聞いた話とはまるで違う話。ここから考えられるのはどちらかが間違っているということだ」
「……つまり王子の方が間違っていると?」
「そうは言っていないよ。そもそも俺たちはウォルトンによってアレックスの暗殺の犯人に仕立て上げられそうになっていたんだ。かつてと同じように俺たちに罪をなすりつけようとしたと考えればその話も納得がいく」
マシューのその言葉にビアンカは安心した表情を浮かべていた。要するにマシューは自分たちでどちらが正しいか判断すると言った上でアレックスの話に納得しているのだ。アレックスの話が正しいと思っているビアンカにとっては嬉しい話なのである。そしてそれはもちろんアレックスも同じである。
「納得してもらえたなら私は嬉しい。……それでは話を戻そうか。王様がアクィラを敵対勢力としたその日からルシャブランとアクィラの関係は断たれてしまった。それにより《自由》の象徴もその日から未完成で不完全なまま保存されることになった」
アレックスはルシャブランとアクィラの敵対関係についての話からラグドールの盾の話へ戻したのである。困惑する話ばかりですっかり頭から消えていたが、アレックスの話ではルシャブランで保存されているラグドールの盾が未完成でありアクィラとの協力が必要であることをマシューたちは思い出したのである。
そして今改めてアレックスの話を聞くとあることに気付くのだ。それに気付いたマシューたちは気が付いた順番で険しい表情を浮かべたのである。そして最初にそれに気が付いたマシューがアレックスに疑問をぶつけたのだ。
「……ええと、つまり完成させるにはアクィラとの関係をもう一度繋ぐ必要があると言う意味ですか?」