第23話 実物は思っているよりも……
読んでくださりありがとうございます。《自由》の象徴はどんな見た目をしているんでしょうか。
そう言ってエルヴィスは部屋の奥へと歩いて行った。確かにマシューはまだ《自由》の象徴の名前しか知らず実物を見ていない。息をひとつ吐いてマシューはエルヴィスの後を追いかけた。その間マシューはどことない高揚感を感じていた。
「……あれ? どうしたのエルヴィス。何かあったの?」
「もう警護は終わりみたいでさ。マシューがそれを知らせに来てくれたのさ。普通に僕だけ呼びに来ても良いんだけど、ほらマシューにも《自由》の象徴を見てもらいたいじゃない?」
「なるほどね。確かに私も見てもらいたいかもね」
エルヴィスのその説明にエレナは納得したように頷いていた。どうやら2人ともマシューに《自由》の象徴を見てもらいたくなったようだがどうも単純に見てもらいたい訳では無さそうである。どこか含みのある言い方に首を少し傾げながらマシューは《自由》の象徴を目で探し始めた。……だがそれらしきものはマシューの目には入らなかった。
「……ええと、……どこにあるんだ?」
「あぁ、言わなきゃ分からないよな。これだよこれ」
そう言うエルヴィスの指の先には盾らしきものは見えない。そこにあるのはただの壁である。……だがよく見るとその壁には出っ張りのようなものがあるようだ。もしその出っ張りが取り出せるなら盾として使えるかもしれない。
「……これか? そもそもこれ取り外せるのか?」
「実際にやってみたわけでは無いが、多分取り外すことは出来ると思う。……ほらここを見ると壁から取り外せそうな見た目に見えるだろう?」
エルヴィスが指を差しているのは出っ張り部分の上側である。確かに上から覗き込むと少しだけその出っ張りが壁から浮き上がっているのが見える。それを見る限り何らかの方向に力をかければ取り外せそうには思われた。……もっともどう力をかければ良いか見当もつかないのだが。
「……取り外すのは難しそうだな。何かコツみたいなものが必要だろう。……しかし実際に取り外せたとして、今まで見てきた象徴とはちょっと見た目が違うような気がする。何でだろうな」
マシューは《自由》の象徴であるラグドールの盾を見下ろしたままそう呟いた。確かに今まで見てきた象徴はどれも見た瞬間にそれと分かるようなものばかりであった。その点からすればこのラグドールの盾は少し違うように見える。……何と言うかどこか足りないように見えるのだ。
「……ともするとこれは《自由》の象徴では無いんじゃないかまで考えたよ。でもこの部屋のどこにもこれ以外の盾らしきものは置かれていない。ラグドールの盾と言う名前で盾じゃないのなら他の可能性もあるけど、……さすがにそれは無いだろうからさ」
「……それじゃあこれがラグドールの盾になるんだな」
改めてマシューは目の前のラグドールの盾を見下ろした。そしてマシューは目の前に映るものを《自由》の象徴だと思い込もうとしたのだ。そう言うものだと思い込めば象徴であるかどうかの疑いなど持たないだろう。そう考えたのだ。
だが、どれだけ思い込もうとしても目の前に映るものが《自由》の象徴とは思えなかった。代わりにマシューはアレックスの部屋へ戻る決心をしたのである。そもそも今は《自由》の象徴を見にきた訳ではなく、警護しているエルヴィスとエレナを呼びにきただけである。
「よし、アレックスの部屋へ戻ろうか」
「そうだね。戻ろうか。……そういえば部屋から入る時は気にしなくても良いとして、出る時はどうやって出たら良いんだ? この部屋の入り口は隠しておかないといけないだろう?」
「大丈夫。部屋から出るのは簡単だよ」
マシューは部屋の扉を分からないようにして外に出る方法が思い浮かんでいない。部屋の中から扉を閉めることは扉を押せば事足りるので特に気にすることは無いのだが、外から閉めるとなると難易度が変わってくる。故に相当頭を使わないと難しいのではとマシューは考えていたのだがエルヴィスは特に気にしていないようである。
「この部屋を作った人も部屋から出ることは難しいと考えていたんだと思う。だからこういう方法を取った。……こうすれば出るのは簡単だよ」
エルヴィスは扉の前まで歩くとまだ部屋の外に出てもいないのに扉を閉めてしまったのである。確かに部屋の中から扉を閉めるのは簡単であることはマシューにも分かるのだが閉めてしまっては3人とも外に出れなくなってしまう。
……と考えていたのだが、なるほどこれなら簡単に外に出られそうだ。目の前の扉には魔水晶が埋め込まれていた。こうした場面でよく使われる魔法は限られている。恐らくこの魔水晶で発動可能となる魔法は【転移】であろう。
「……なるほど、考えられているな」
「僕も最初にこれに気付いた時は感動したよ。……こんなことを思いつける人が存在するんだってね。さ、早くアレックスの部屋へ戻ろう」
3人はギリギリまで扉に近づくと埋め込まれた魔水晶に触れた。【転移】が発動した時の感覚を感じた次の瞬間3人は宝物庫の外へ転移していたのである。やはり【転移】はかなり便利な魔法だと改めてマシューは実感したのだ。
だがそれを考えていたのはどうやらマシューだけのようである。特に何事もなく転移出来たはずなのだが転移してからエルヴィスはじっと何かを考え込んでいたのだ。