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マシューと《七つの秘宝》  作者: ブラック・ペッパー
第4章 隠された自由を求めて
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第19話 計画失敗……

 読んでくださりありがとうございます。侵入してきたのはビアンカのようです。


 それはわずか数分前のことである。換気の名目で開けられた小さな窓から少し離れた場所でマシューはひとりアレックスの警護にあたっていた。そして通気ダクトから何かが落ちて来たことに気が付いたのである。落ちて来た球体のように見えるそれは床で弾み強烈なにおいを発し始めた。


 その強烈なにおいをマシューが感じ取ったその瞬間マシューは酷い眠気に襲われた。このにおいをマシューは知っている。仮眠室でかいだ香水のにおいと同じなのだ。確かあの香水はビアンカが用意したものである。


 かいだ覚えのあるものよりもずっと濃いにおいがマシューを襲う。なんとか襲いかかる眠気に抵抗しようとしたマシューだがあえなくその場に倒れこんでしまったのだ。そしてその数秒後通気ダクトよりビアンカが降り立ったのだ。


 ビアンカはアレックスの部屋に降り立つとすぐに換気の名目で開けられていた小さな窓を閉じた。この行動は外から見ているであろうウォルトンへの合図であると共に、外気でせっかくふりまいた香水の原液が薄まってしまわないようにするためである。この計画においてマシューはしばらく寝ていてもらわなければ困るのだ。


「……やはり君か。私を殺しに来るのは君だと思っていたよ」


「……申し訳ありません」


「……このにおい、対人間専用に調合された睡眠薬だな? しかもご丁寧に原液ときた。この濃さならマシューはひとたまりもなく眠ってしまうだろう」


「ええ、それが目的ですから」


「……この睡眠薬は人間に対して強烈な眠気を誘発するが一定時間で完全に効果を失う代物だ。つまりいつかは必ずマシューが目覚めることになる。……私を殺した後、君も自殺するつもりだな?」


「…………」


 アレックスは静かにそう断定した。ビアンカはそれに答えようともしない。否定も肯定もしないその姿にアレックスは深いため息をついた。その姿は自分がこれから殺されると分かっているものの姿ではない。ビアンカはそのことに少し違和感を覚えた。


「……私は君を理解しているつもりだ。私をなぜ殺そうとしているのかも、君がその後なぜ自殺するのかも」


「……理解? しているはずがありません。それに今更理解は要らないのですよ。あなたは私に殺されるのですから」


 そう言ってビアンカは持っている刃物の先をアレックスに向けた。この刃物がアレックスを貫けばアレックスは死ぬだろう。本当ならばこんなことをするべきでは無いことは分かっている。


 だがビアンカはそれでもゆっくりとアレックスへ近づいた。もう誰にも止められないのだ。ビアンカ本人は気が付いていなかったが、ビアンカは一筋の涙をこぼしていた。そのしずくは刃物に伝って床へ落ちた。それとほぼ同時にアレックスはゆっくりと口を開いたのだ。


「……残念だが、君に私は殺せやしないさ」


 ビアンカはその言葉の意味がすぐには分からなかった。考えるために動きを一瞬止めたビアンカは自分のすぐ隣にあるはずも無い気配があることに気が付いた。その気配は素早い動きでビアンカから刃物を奪い取り、アレックスが座る豪華な椅子の横に立ち驚きを隠せないビアンカを見下ろしていたのだ。


「……なぜ? なぜ起きて?」


「それより俺はあんたがなぜこんなことをしているのか教えてもらいたいものだがね。……まぁ、大体は知っているけどさ」


 マシューはあまりの驚きで固まってしまっているビアンカをよそに小さな窓に近づいて思い切りそれを開けた。まだ香水のにおいが感じられるがこうして換気をすることで外気によって上手く薄めることが出来るだろう。口の中がかなり苦いがまだ強くにおいが残っている以上それは仕方がないことである。


「……君が使った対人間専用の睡眠薬。あれは人間にしか効果のない特注のもの。……君やこの計画を進めたものはどうやら知らなかったようだが、私の父ニールが開発したものだ。同行していた不眠症の勇者に上手く睡眠をとってもらうためにね」


「……つまり王子はこの睡眠薬の効果を知っていると?」


「もちろん。そしてこの睡眠薬を中和する薬の存在もね。……マシューたち4人には既に手渡してある。君たちがいつそれを使って眠らせようとしても良いようにな」


 それを聞いたビアンカの顔は恐ろしい速さで青ざめたのである。それは計画が破綻したことを知ったことによるものとは思えない程の急速な変化である。その表情はまるで何か大切なものを失ったかのような表情にマシューには見えた。


「……だめだ。……それだけはだめだ」


 ビアンカは我を失ったかのように取り乱し始めた。それはまるで何かに怯えているようにも見える。こうなれば何を言っても通じなさそうである。もしこの状態のビアンカに言葉を通じさせるものがいたとして、この場にいないのだからそんなことを考えるのは無駄である。


「……さて、どうしたものか。……まだ少し時間がかかるか?」


 取り乱すビアンカを見ながらアレックスはそう呟いていた。どうやらアレックスは誰かが来るのを待っているようである。


 そしてその数秒後部屋の扉が荒々しく開けられた。しかし入って来たのはアレックスの待つものではなかった。息を切らして入って来たのは騎士隊副隊長であるウォルトンである。


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