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マシューと《七つの秘宝》  作者: ブラック・ペッパー
第4章 隠された自由を求めて
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第13話 ルシャブランの食事情

 読んでくださりありがとうございます。ルシャブランでのお昼ご飯と言うと何が食べられるんでしょうか。楽しみですね。

 

 マシューはこれから食事をゆっくりとることが難しくなりそうだと考えていた。それ故にお昼ご飯はしっかり楽しもうと意気込んでいたのである。だがマシューの言葉を聞いたビアンカは少しばかり申し訳なさそうな表情を浮かべたのだ。


「……なるほど、お昼ご飯か」


「……どうしてちょっと申し訳なさそうな顔をしているんだい?」


「……残念ながらルシャブランに人間が好んで食べるような食事を提供する場所は無いんだ。もちろん果物や野菜だったら多少は手に入るんだが、……そなたの言うお昼ご飯とはつまり料理のことだろう?」


 マシューはそれを聞き険しい表情を浮かべビアンカに詳しく説明を頼んだ。そして頭を抱えたのである。それは言われてみれば当然のことであった。そもそもここは数多くの猫が棲む猫の里であり人間は本来ひとりもいないのだ。それ故に人間特有の食文化は根付いていないのだ。


 もちろんマシューの収納袋の中には多少の食糧はある。これを食べれば今日一日過ごすことは出来そうである。しかしアレックスは警護がいつ終わるか分からないと言っておりマシューとしては収納袋の中の食糧に手をつけるのは出来るだけ避けたかった。


「……そなたたち人間が普段食べるものが何なのかの想像はつかないが、もしかすると私の祖母なら知っているかもしれないな」


「え⁈ それは本当かい?」


「あくまで可能性があるかもと言うだけだ。それじゃあ私の家に案内しよう。……あまり期待はしないでくれよ」


 マシューとしては食事をゆっくりとることが目的でありその可能性があるのなら是非とも頼みたいところである。マシューを自分の家に案内するためビアンカはどこかへ歩き始めた。ビアンカの家はどんなところなのだろうかと考えながら歩いていたマシューはとある一軒の家が気になったのである。


 その家は見た目こそいたって普通の家なのだが、その周囲を武装した猫が警護していたのである。何か物騒なその雰囲気に困惑しながらもマシューはビアンカの後を追ってゆっくりと歩いた。そして次の瞬間マシューはもっと困惑した表情を浮かべたのだ。ビアンカがまさにその家の前で立ち止まったからである。


「……ここかい?」


「あぁ、ここだよ。さ、中へ入ろう」


 そう言うとビアンカは警護している猫に頭を下げてから家の中へ入った。自分の家に入るのになぜか遠慮すら感じるその様子にマシューは今日一番の困惑を感じたのである。


「……おや、ビアンカ。今帰ったのかい」


 家の中に入ると老猫の声が聞こえて来た。ビアンカの後に続いて扉をくぐると中の部屋で椅子に座って1匹の老猫がのんびりくつろいでいたのだ。恐らくこの老猫が先程の声の主であり、ビアンカの祖母なのだろう。


「ちょっとご飯を食べにね。……紹介しよう、私の祖母のシャーロットだ」


「人間がこの里に来るのは珍しい。ちょいと狭いがまあゆっくりしていってくれ」


 シャーロットはそう言って椅子に座ったままにっこりと笑ったのである。ここでようやくマシューは警戒を解いたのだ。理由もなくビアンカがマシューを騙すことは無いだろうとは思っていたが案内された家が武装した猫によって警護された場所だったために少しばかり警戒をしていたのだ。


 だが案内されたのはビアンカの家で間違い無さそうであり目の前にいるのはビアンカの祖母で間違い無さそうである。まだ気になる点はあるが警戒は解いても良さそうである。


「……さて、ばあちゃん。この人は勇者候補のマシューと言うんだが、私の家にはお昼ご飯を食べに来たのさ。ばあちゃんなら何か作れるかなと思ったんだけどどう?」


「……なるほど、ビアンカが人間を連れて来たから何故かと思っていたが、そういうことじゃったか。……ふふ、確かにこの里には人間が食うような料理は無い。そもそも作れる人が少ないからの」


 シャーロットは納得したような表情で何度も頷いた。そしてひとつ伸びをしてから椅子から飛び降りたのである。見た目こそ老猫だがさすがに猫だけあって動きは俊敏である。突然のシャーロットのその行動に少し慌てたマシューの方を見てシャーロットはまたにっこりと笑って口を開いた。


「……マシューと言ったな? そなた肉は好きか?」


「……はい!」


「それは良かった。それじゃあ出来上がるまでちょっとばかし待っていてくれ」


 そう言うとシャーロットは家の奥へ歩いていった。どうやら奥に厨房があるようである。しばらく待っていると何かを揚げるような心地の良い音が聞こえて来た。同時に香ばしい匂いと肉の香りがゆっくりと漂って来た。その音と匂いはマシューの食欲を的確に刺激したのだ。腹が鳴らないことが不思議なほどマシューの腹は空腹を訴えている。


 そしてシャーロットが戻って来た。尻尾に器用に乗せてシャーロットが運んで来たのはどうやらトンカツのようである。


「さ、熱いうちに食べな。……お口に合うと良いがね」


 目の前に置かれたトンカツは綺麗な黄金色をしており見た目、匂い共に完璧な仕上がりである。これで味が美味しくなければそれはもう詐欺である。美味であることを確信しマシューは目の前のトンカツを頬張った。


 カラッと揚げられたサクサクの衣に包まれた豚肉はジューシーな肉汁と共にマシューの舌にこれでもかと言うほどに旨味をぶつけて来た。想像通り、いや想像以上の味に思わずマシューは目を細めた。料理に期待出来ないと分かってからであるためマシューは感動で涙が出るのではと思ったほどである。


「……久しぶりに作るからどうだろうかと思ったが、こんなに喜んで食べてくれるなら嬉しい限りだねぇ」


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