第4話 手がかりは目の前に
読んでくださりありがとうございます。アイザックの言う場所に果たしてたどり着けるんでしょうか。
「……?」
「あぁ、気にしないでくれ。見ていて懐かしいと思っただけじゃ……ところでお主たちはこれからどうするんじゃ?」
「……たどり着けないだろうとは思いますが、アイザックの言う帝都よりも古い文献が数多く見ることが出来る場所を探してみようかと」
「ほう、……あの場所を目指すか。……ちなみに聞くが何か手がかりはあったかの?」
「……一応」
マシューたちはこの場所を動物たちが棲んでいる場所と仮定して探そうとしている。仮定が正しければ手がかりはあるが、仮定が間違っていれば手がかりは無いのだ。故にマシューの返答は曖昧なものである。だがその返答に満足したのかアイザックは大いに笑い声を上げたのだ。
「……素晴らしい。一応と言うことは手がかりと呼べそうなもののしっぽを掴んでおると言うことじゃな? 私の話を聞いてからそう時間は経っておらん。その短時間でそこまで近づけるとはの。……ふふ、お主たちであればたどり着ける。私はそんな気がしておるよ」
そう言うアイザックは優しい笑みを浮かべていた。アイザックのその予感が正しいことを祈りながら朝食を食べ終えた4人はその地を目指すためアイザックの家を出発し修羅の国の門を目指したのである。
この鏡に触れれば修羅の国を出ることになる。鏡に触れる前にエレナは後ろを振り返っていた。その様子を見たマシューはどうしたのだろうと考えていたがすぐに答えに至った。エレナはこの国で父マルクが何をしているのか知るためにこの国に来たのである。だが思い返す限りエレナとマルクが話していた記憶が無いのだ。
「……そう言えばエレナとマルクが話していた記憶か無いんだが」
「それはそうだよ。だって話してないからね。でも大丈夫。私はここでパパが何をしているのかを知りたかっただけ。無事に過ごしているのも分かったし、ここに来ればいつだって会うことが出来るのも分かったんだからね」
「……なるほど」
「今振り返っていたのも景色を目に焼き付けるためだよ。もう一度来たくなった時にスムーズにたどり着くためにね! さ、早く出発しようね」
どうやらエレナはマルクと話せなかったのを後悔しているのではなく、次にスムーズに来れるよう景色を覚えていただけのようだ。景色を目に焼き付け終わったエレナも鏡の近くへやって来た。これで鏡に触れれば夜霧の森の泉の祠に転移することが出来る。4人はタイミングを合わせて鏡に触れた。もう慣れた感覚が4人を襲う。マシューは目を瞑り転移が完了するのを待ったのである。
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夜霧の森
――
再び目を開けるとそこは祠の近くであった。全員無事に転移が完了したようである。あとは夜霧の森を抜けて嵐馬平原からまた転移するという流れである。しかしマシューは少し険しい表情を浮かべていたのだ。
「……しまったな。泉に着いてからはアイザックが案内してくれたんだったか。どこを進めば嵐馬平原に抜けられるのか見当もつかない」
「それなら心配無い。あそこを見てよ」
心配そうなマシューをよそにエルヴィスは微笑んでいた。エルヴィスが示す指先を見るとその場所の大きな木の幹に傷のようなものがついていた。それは自然のものと言うよりは人為的につけられたもののように見えた。
「あの傷は僕がこの泉にたどり着いた時につけたものだよ。僕らは夜霧の森をまっすぐ進んでいたはずだからあの傷を頼りにまっすぐ進めば夜霧の森は抜けられるはずだよ」
「……いつのまにそんなことを?」
「気付かなかっただろう? ふふ、これでもマシューたちより冒険者の歴が長いんだ。ま、経験って奴だよ」
エルヴィスは得意げな表情である。心なしかいつもより鼻が高く見えた。確かにエルヴィスの方が冒険者の歴は長い。様々な場所へ行ったことで感覚が麻痺しているがマシューとレイモンドは冒険者になりたての新米であるのだ。それ故にこうした細かなテクニックは持っていない。エルヴィスが一緒にいることを改めてマシューは感謝したのである。
「さ、早く進もう。こう言う森は進むよりも出る方が難易度が高い。朝早いとはいえ日暮れまでに抜けられるとは限らないんだ」
「ちょっと待って。今景色を覚えてるから」
エルヴィスはそう言って全員に早く進むよう促したがエレナは立ち止まって周囲を観察していた。早く進むべきとはいえこうした景色を覚える時間さえ無い訳では無い。マシューはエレナが祠の風景を注意深く見ている間何となく同じように景色を見ていた。
森の中にあるこの泉の光景は真上から注がれる太陽の光と相まって幻想的に映っていた。そしてその光景のある一点を見たマシューとエレナが、短く声を出したのはほぼ同時のことである。
「……あれは?」
「ん? ……何の話だ?」
「あそこに何かいるんじゃないか?」
マシューは自分が見たものに向かって指差した。レイモンドとエルヴィスもマシューの指先を見つめる。そこには森の茂みでやや見えにくくなっているがわずかに白い毛皮のようなものが見える。エルヴィスは目の上に手を当てがって注意深く観察した後に断定するようにこう呟いた。
「……あれはラグドールだな」
「ラグドール? それは何?」
「ラグドールは分かりやすく言えば白い猫だ。……もっと分かりやすく言えば動物だよ。あのラグドールを追えば棲んでいる場所が分かるかもしれない。近づいてみよう」