第3話 行き先を変更しよう
読んでくださりありがとうございます。動物とモンスターは違うものです。
「……ええと、これ夜凪海岸にいたあの小さな鳥か?」
「そうだ。まあ、こいつは微弱だが魔力を持ってるから動物と言うよりモンスターに近いんだがな」
「なるほどね」
「まあ、とにかく僕はここに描かれているような動物を探せばアイザックさんの言う場所にたどり着けるんじゃないかと考えてるのさ。……マシューたちは夜凪海岸でこのブラウンスパローを見たんだよね?」
「そうだな」
「それならまずは夜凪海岸から探し始めれば良いんじゃないかな。……ま、これはアイザックさんの言っていた場所を探す場合で、マシューが帝都に帰りたいのなら僕らも一緒に帝都へ帰るよ」
「……ちなみに聞くんだけど、エルヴィスたちは俺らがアイザックの言っていた場所をこれから目指すって言ったらどうするんだ?」
「もちろんついていくよ。……なんて言ったって君たちは僕にとって大切な存在だからね。僕に出来ることがあれば何でもするよ」
そう言うエルヴィスはにっこりと笑っていた。その言葉に嘘は感じられない。少しの気恥ずかしさと頼もしさを感じながらマシューはエルヴィスの言葉に黙って数回頷いていた。
「……よし、それじゃあ目指す行き先を帝都からアイザックの言っていた場所へ変更しよう。……正直手がかりの無いまま探すのはと思っていたけど、全く無い訳じゃなかったしね」
「と言うことはまずこの可愛らしい動物たちを探せば良いんだよね? 任せといて!」
エレナは自信満々の表情である。いくら自信があっても探すことの出来るものでは無いとマシューは思いはしたがせっかく自信を持っているエレナの気分を落とさせる必要も無い。マシューは何も言わずにただ笑って頷いた。
「そうと決まれば早くここから出ないとね。君たちは支度がまだだろう?」
「あれ? エルヴィスはいつの間に着替えたんだ? 私その時起きてた?」
「ちゃんと君はその時寝ていたよ。さ、出発の支度を早くしよう」
エルヴィスは澄ました表情でそう言った。確かにエルヴィスの身支度は終わっており、他の3人は寝巻き姿のままである。エレナは急いでエレナ用に作った簡易的な衝立の後ろに引っ込んだ。マシューたちもすぐにいつもの装備に着替え始めた。
数分後エレナがようやく準備を終え衝立から顔をのぞかせたその時、部屋の扉がノックされた。部屋の中に入って来たのはアンドリューである。
「おや、君たちはもう起きていたんだね。朝食の準備が出来たから食べに来なさい」
それだけ言ってアンドリューは去って行った。アンドリューは昨日修羅の国へとやって来たマシューたちをあまり歓迎していなかった。それは4人の中に神聖の騎士団の元関係者であるエルヴィスがいたからである。
どうやら両騎士団との間には不侵攻の取り決めがあったらしく元関係者とは言えエルヴィスがやって来たのをかなり気にしていたのだ。だが先程現れたアンドリューはその時とは違い穏やかであった。気まずい空気はどうやら避けられそうだと安心して4人は用意された朝食を食べに部屋を出たのである。
リビングの扉を開けるとアイザックが既に長テーブルの一番奥に座って朝食を食べていた。入って来た4人に気が付いたアイザックはにっこりと微笑んで口を開いた。
「やあ、おはよう。ゆっくり眠れたかい?」
「おかげさまでゆっくり眠れました」
「それは何よりだ。さ、お主たちも朝食を食べるんだろう? テーブルの好きな場所に座るといい」
好きな場所と言われてもそれは本当に好きな場所に座って良いと言う意味では無い。マシューたちは昨夜の夕食でも座った扉近くの場所に固まって座り朝食が来るのを待った。アイザックはどこか面白くないような表情をしていた。
「……ふむぅ、本当に好きな場所で良いんだがの。もっと近くに座ってくれても良いんじゃよ?」
「そう言う訳にもいきませんよ。座る場所はある程度決まっていますから」
そう言ってマシューたちの近くにやって来たのはアンドリューである。そして彼の手には朝食を乗せたトレーがあったのだ。どうやらアンドリューが朝食を運んできてくれたようである。
「だが、それだとかなり距離があるだろう? お前さんは全員の食事が終わってからじゃないと食べないんだから別にお前さんの場所に誰かが座ろうが問題無いじゃろうに……」
アイザックはそうぶつぶつと言っていたがアンドリューは4人の前に朝食を置くとさっさと去って行った。マシューはちらりとアイザックの様子を伺ったがアイザックは特に気にせずに朝食を口へ運んでいた。どうやらよくある風景のようだ。
目の前に置かれた朝食は白ご飯に卵焼きに味噌汁である。昨夜も思っていたがアイザックの家で出てくる料理は素朴な味わいで安心できる美味しさなのだ。この朝食も同じである。4人は目の前に置かれたその朝食をすぐに食べ終わったのである。4人のその姿を見てアイザックは優しく微笑んでいた。
「……昨日も思ったが、お主たちは本当に美味しそうに食事をするんじゃな」