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マシューと《七つの秘宝》  作者: ブラック・ペッパー
第3章 その兜は勇気をもたらす
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第36話 マルクの役割

 読んでくださりありがとうございます。マルクの役割とはいったいなんでしょうか。



 試練の祭壇とは反対側の方からアイザックの声が響いて来た。顔を上げると緑と銀を基調とした鎧を着たアイザックが同じく鎧に身を包んだ男2名を引き連れて近付いて来たのだ。恐らくその男たちがアイザックの言っていた祭壇の守衛を務めている者だろう。それも確かめたいのだがそれ以上にマシューたちには確かめなければならないことがあるのだ。


「あそこにいるのはエレナの父マルクさん……ですよね?」


「あぁ、そうじゃ」


「……彼の役割を教えてもらえますか?」


「マルクの役割は象徴を守る最後の関門じゃよ。象徴を守る者は強ければ強いほど良いと言うのがわしの持論じゃ」


 アイザックはそれが当然のことであるようにそう言った。黒い鎧を着たマルクはただ黙って試練の祭壇に立っている。象徴を守る最後の関門。彼はその役割を全うするためにここに立っているのだ。


「……象徴はそれを手に入れたものの運命を簡単に変えてしまうほどの強い因果を持つ。故に簡単に誰しもが手に入れられるようではいけないのじゃよ」


「……パパは望んでこの役割を?」


「もちろんじゃ。何しろ自分から志願するためにこの国へ来たんじゃからの。……時の勇者の仲間としての使命を果たしに来た。そう言ってこの国へマルクは再びやって来たのじゃ。かつて勇者と共に戦った戦士マルク。象徴を守る人材としてはうってつけの人物じゃの」


 そう言ってアイザックはマルクを見た。鎧は傷一つつかずに黒い輝きを放っている。そして鎧の袖から見える腕は鍛え上げられた筋肉で覆われ、かつて勇者の仲間であったことは最早疑いようがない。確かに象徴を守る人材としてはうってつけだろう。


「……再びということは以前もマルクは来ているということになる。その時は象徴を手に入れようとしていたんだろうか」


「あぁ、そうじゃ。……あれは5年前のことだったか。後に時の勇者と呼ばれることになる勇者候補であった男が象徴を手に入れるためにこの国へやって来たのじゃ。その時既にマルクは戦士として彼と共に行動しておったよ」


「勇者候補?」


「あぁ、勇者候補じゃ。勇者とは元来その字の通り勇気ある者のことを指す。手に入れるために相応の試練が課されるために、象徴を手に入れようと追い求める者は大きな勇気と覚悟を持ち合わせた者と言えるだろう。それ故にその勇気と覚悟を讃え勇者候補と呼ぶのじゃ。……もっともこれはわしがまだ若い騎士だった頃の話で今は廃れた概念じゃがな」


 アイザックが話している間、マシューはじっと黙り込んで自分の考えをまとめていた。思い返してみれば今までの試練の際、どちらの場合も勇気ある者と言われた記憶がある。それが勇者を指しているのならばマシューは勇者候補であると言えるだろう。


 マシューは勇者になるための勇気も覚悟も持ち合わせていない。象徴を手に入れようとしているのはケヴィンについて知るためであり勇者になるためではない。そんな自分が勇者候補であることはおかしささえあるのだ。


 そしてもう一つ。マシューの父ケヴィンもまた象徴、すなわち《七つの秘宝》を手に入れようとしていたことが分かっている。つまりケヴィンもまた勇者候補であると言えるのだ。なぜ父は象徴を手に入れようとしていたのか、そしてなぜ父は殺されたのか。その訳に近づいていっているはずなのに謎は深まるばかりである。


「そして彼は試練に打ち勝ちあそこにある獅子頭の兜を手に入れ、この国を後にしたのじゃ。それからしばらく経って彼は時の勇者と呼ばれるようになったのじゃよ」


「……ん? それじゃあなんでこの場所に象徴があるんだ?」


 レイモンドが素早くそう反応を示した。確かにアイザックの話では勇者候補であった後の時の勇者が試練に打ち勝ち獅子頭の兜を手に入れたのである。それならば獅子頭の兜は時の勇者の所有物であり、今4人の目の前にあるのはおかしいのである。


「それは簡単な話じゃ。あまり知られてはいないが象徴にはそれ自体、もしくはそれを所持している者の身に何かあれば元の場所に戻るという不思議な性質を持つ。5年前、時の勇者様が突然消息を絶ったと帝都で噂され始めたその数日前には既に戻って来ておったよ」


「つまり時の勇者に何かあったことがそれで分かったと?」


「そう言うことじゃな」


 アイザックのその返答にレイモンドは少し険しい表情で頷いた。レイモンドはもちろん、エルヴィスでさえ象徴がそのような性質を持つことは把握していない。ただアイザックは深緑の騎士団としてこの国で象徴を守ってきた過去があるためそうした性質があることを把握していてもおかしくはない。否定する意味も無い以上は信じるしか無さそうである。


「……時の勇者様がこの国へ来た時、象徴を守っていたのはマルクさんじゃないはず。それじゃあ誰が守っていたんだ?」


 そう呟いたのはエルヴィスである。レイモンドとアイザックのやり取りを聞きながらエルヴィスはそれをずっと考えていたらしい。マシューは先程からじっと考え込んでおり、レイモンドとエレナにそれが答えられる訳はない。自然と視線がアイザックへ集まった。それに気付いたのかアイザックはにこりと笑って口を開いた。


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