第34話 それは機密事項
読んでくださりありがとうございます。アイザックは何のためにこんなことをしたんでしょうか。
「……え?」
「この場所は表の世界と裏の世界を連続させることで生まれた歪みで作られた場所。分かりやすく言えば永遠に続く道じゃ。故にこのままいくら進んでもどこにも着かん。……目的地に案内する前に知っておかねばならないことがあった故じゃ。いつまでも歩き続けさせて済まなんだ」
アイザックはそう言うと4人に頭を下げた。アイザックのその言葉にマシューは納得したように頷いていた。道理で中々着かないわけである。4人とも場所を知らない故にいつかはたどり着くだろうと思い込んでいたのだ。
……だがそれはそれとして目的地に着かないのは困る。
「それじゃ目的地にはどうやって……」
「これを使う。この手鏡はどこにいてもとある場所に転移するように魔法が組み込まれているのだよ。お主たちはこれに触れて転移をするのじゃ」
なるほどこの手鏡は目的地まで転移するためのもののようだ。今いる場所がアイザックの言う通り表の世界と裏の世界が混在して出来た歪みで出来た場所であれば、元の場所に戻るのも困難と言えるだろう。そうならないよう戻る手段は持っておくべきである。それがこの手鏡だと言われれば納得出来る。
そして4人は修羅の国へ行く時も同じように鏡に触れることで転移したのだ。そのため4人とも転移するために鏡に手を触れることに何の抵抗も無い。
だかそれ故に素直に触れるのは躊躇われるのだ。なにせ自分たちの目的地に連れて行くと言われながらこんな場所に連れて来られたのである。そんなアイザックを信用して素直に手鏡に触れて転移するのは危険である。転移先が目的地である根拠は何も無いのだ。
「……転移先は本当に俺たちの目的地なのか?」
「……あぁ、それは約束しよう」
少し言いづらそうにしながらアイザックはそう言った。申し訳無さそうにしている老人を問い詰めるのは少し気が引かれるがだからと言って素直に信じるほどマシューたちは楽天家ではない。
「……ほんのついさっき、俺たちはあなたに騙されてこんな場所に来たんだ。少なくともなぜここへ連れて来たのかとあなたの言う俺たちの目的地とはどういう場所かを教えてもらわなければあなたを信用することは難しいよ」
「ふむ、確かに一度騙した手前、信用しろと言うのは難しいじゃろうな。だが、わしを信用しないのならどうやってこの場所から戻るつもりだ?」
アイザックは真顔でそう言った。それを聞いた4人は一様に渋い表情を浮かべたのである。それを言われれば4人は何も言い返せない。結局この状況ではアイザックを信用して手鏡に触れる以外取れる選択肢は無いのだ。だが頭でそう分かっていても抵抗は感じるのである。そんな頭の中が分かったのだろう。アイザックは少し微笑んで口を開いた。
「……このままお主たちに信用してもらえなければ孫に怒られてしまうじゃろう。お主のその質問に答えればお主たちはまたわしを信用してくれるのかの?」
「……まあ、そうだな」
「ならばその質問に答えよう。まずはなぜこんな場所へ連れて来たのか、だの。この質問に答えるのは簡単なことじゃよ。ここで話す内容は外に漏れることが無い故じゃよ」
「……漏れる?」
アイザックは当然のことのようにそう言った。ここでの会話の内容はエレナの父マルクとマシューの父ケヴィンの話、そしてマシューがなぜ象徴を集めるかである。それらの話は声を大にして言えることでは無いが、秘密にするようなことでは無い。それ故にアイザックにも話したのである。
だがアイザックはこの話を外に漏れないようにとわざわざこの場所へ4人を連れて来たのだ。何かアイザックしか知らない秘密でもあるのだろうか。4人はアイザックの次の言葉を待っていた。
「……そうじゃ。時の勇者様と共に戦った戦士マルクの娘がこの国を尋ねて来たこと。まずそれを隠さねばならない」
「……なぜ?」
「勇者様に関わる情報は基本的に機密事項なのじゃよ。そしてそれは共に戦った仲間も同じじゃ。それ故にマルクがこの国におることはあまり知られてはならないことになるのじゃよ」
「……基本的に機密事項? エルヴィスは勇者について結構知っていたよね? それはどうしてなんだい?」
勇者に関わる情報は基本的に機密事項である。それは初めて聞いた話である。マシューとレイモンドはエルヴィスから勇者について詳しく教えてもらった覚えがあり、機密事項である印象は全く無い。首を傾げながら2人はエルヴィスの方を向いた。
「アイザックの言う通り勇者様に関する情報は基本的に機密事項だよ。僕はあくまで伝承で残っている情報を知っているだけで後はありきたりなことを知っているだけさ」
「ありきたりなことと言うと……、時の勇者と呼ばれていることとか5年前に消息を絶ったこととかかい?」
「あぁ、そうだよ。それくらいの情報だったら誰でも知っている情報なんだ。それ以上となるとかなり近しい人しか知らないんじゃないかな?」