第7話 帝都到着
読んでくださりありがとうございます。帝都に到着しました。
「さて、到着だね。闘猿の森から何回か戦闘があるかと思ってたけど一度も無かったね。うんうん、非常に運が良い」
「……これが帝都。……すっげぇ……」
目の前に広がる光景に2人とも圧倒されていた。マシューに至っては声すら出せていない。目の前の光景と言っても見えているのは帝都へ入るための関所と関所をくぐるために並んで待っている人たちだけである。そのため帝都がどんな場所であるかはちっとも分からないのだ。
だが、並んで待つ人の数はかなり多く、雑に数えてもマシューたちが住んでいた田舎町の人口を超えそうな勢いである。これほどの人が一カ所に密集しているのを2人とも見たことが無いのだ。
「帝都の中まで見えるかい? 順番待ちの人が多くて中々見えないと思うけど」
「……帝都の中は正直全然見えてない。けど、……こんなにたくさんの人が集まってるのを見るのは初めてだ。帝都ってすごいんだな!」
「あぁ、なるほどね。関所の右側が空いているのが見えるかい?」
そう言ってニコラは関所の方を指で示した。確かに言われてみれば右側にはそれほど人がいないようだ。左側は人で溢れそうになっているだけに不思議な光景である。
「……確かにそうだな。何か理由でも?」
「もちろん。口で説明するより実際に見たほうが早い。ついて来なよ」
そう言うとニコラは空いている関所の右側部分目掛けてまっすぐ歩いて行ったのである。慌てて2人もニコラの後を追いかけた。どうやらニコラについて行けば順番待ちをしなくても関所が通れそうである。
順番待ちをしている人たちからすれば不満が出そうだが不思議とニコラには誰も反応を示さない。マシューたちを見て少しだけざわついた気がしたが、ニコラに追いつくとそれもすぐに消えたのだ。不思議な現象に2人揃って首を傾げていた。
「おや、ニコラ騎士団長お疲れ様です。そちらの2人はお知り合いですか?」
「あぁ、帝都に来るのは初めてらしくてね。素性は僕が保証するよ。通っていいかい?」
「かしこまりました。では通られるお2人ともお名前をお願いします」
「マシュー……です」
「レイモンドだ」
「マシューさんとレイモンドさんですね。次回以降通行の際は、通行証または身元を証明するものを私どもに見せていただく必要がありますのでご了承くださいませ。それでは、ようこそ帝都へ!」
門衛は大きく後ろに手を広げた。その先には当然帝都が広がっている。なぜか少しばかり緊張している2人は顔を見合わせた後、ゆっくりと帝都の中に足を踏み入れたのであった。
――
帝都
――
「……すげぇ。……人でいっぱいだよ。これ何人いるんだ?」
レイモンドは帝都に溢れる人の多さに圧倒され尽くしていた。門の近くでさえ見たこと無いほどいっぱいの人だったのだ。帝都の中に入れば当然その人数は更新される。自分が当たり前だと思っていた世界はなんてちっぽけだったのだと改めてレイモンドは実感したのである。
「人数は数えたことが無いな。とにかくいっぱいの人だよ。そんな帝都で騎士をやってると自分がこのいっぱいの人たちを守っているんだって実感して心が奮えるんだよ。もちろん帝都に来る人には冒険者になる人が多いんだけどね、騎士もやりがいがかなりあるんだ。一応もう一度聞くけど、君たち騎士になる気は無いかい?」
ニコラは真剣な表情である。今までそんな経験が無いためはっきりとは分からないが帝都の騎士団長に勧誘されるのは相当誇れることなのだろう。目的が無いならこのまま騎士になってしまった方が良い。その方がきっと良い人生になるだろう。
……だが、マシューとレイモンドには明確な目的があるのだ。それを捨てて騎士になるのは絶対に有り得ない。2人とも表情にはそうした覚悟が溢れていたのだ。
「騎士にはならない。……俺たちやるべきことがあるんで」
「……そのやるべきことはきっと大事なことなんだろうな。そう言う目的にまっすぐな目をしている人が騎士には向いているんだが、目的が噛み合わないと騎士になってくれないんだよなぁ。その目的が果たせたらその後騎士になるってのはどうだい?」
「……それはもちろんって言いたいけど、……多分大分後になると思う」
「そんなことは大した問題じゃ無いな。いつでも帝都で待ってるよ。それじゃあ帝都を案内しよう。……と言っても夜になって行くから施設はどんどん閉まっちゃうんだよな。明日も案内してあげたいけどあいにく騎士団の仕事があるからね。一カ所くらいなら今からでも案内出来るんだけど、どこの場所が知りたいんだ?」
言われて見ればもう辺りは暗くなって来ていた。門に着いた頃ちょうど日が落ちようとしていたのだ。それならもう夜は近い。やわらかな明かりがところどころで灯り始めていた。
「……マシュー、ニコラにどこを案内してもらう?」
「帝都は知らないところだらけだからなぁ。どこも案内して欲しいところだけど、それは時間的に無理だと。一カ所に絞るってのは難しいな。……そうだな、俺は冒険者登録が出来る場所かな。登録を済ませておかないと帝都の外に出にくくなるからね」
「なるほど、それは確かにそうだな」
「決まりかな。それじゃあ冒険者ギルドへ案内しよう。登録はそこで出来る。もちろん身分証もそこで手に入るよ」
そう言ってニコリと微笑むとニコラは帝都の大通りを歩き始めた。ニコラの案内は今日限りである。となると冒険者ギルドまでの道のりを記憶しておく必要があるのだ。2人とも辺りを見渡して風景を頭に入れながらニコラについて歩いた。
結果としてその必要は無かった。大通りを歩いて行くとやがて噴水のある大きな広場へ到着したのである。そしてその広場で一際目立つ最も大きな建物こそが目指す冒険者ギルドなのである。




