第33話 アイザックの知りたいこと
読んでくださりありがとうございます。どうやらアイザックが案内してくれるようです。
そう言いながらアイザックは手紙を取り出した。少し中身が気になるところではあるがマシューはさすがにその中身を尋ねるのは止めた。手紙は時にプライベートのことを書いてある場合がある。今のところ大して親しい訳では無いマシューはそこまで踏み込む必要があまり無いのだ。
「さて、お主たちの目的は既に聞いておる。覚悟を決めたお主たちをわしがその場所まで案内してやろう。ついて来るがいい」
アイザックは真面目な表情でそう言うと振り返ってどこかへ歩き始めた。どうやらアイザックがマシューたちの目的が果たせる場所まで連れて行ってくれるようだ。マシューたちの目的と言えばエレナの父マルクを探すこととこの国にあるとされている象徴を手に入れることである。
アイザックはそれのどちらのことを言っているのか4人には判断出来なかった。4人はひとまずアイザックについて行くしか無い。前方のやや険しそうな道を進むアイザックの後ろを4人は歩き始めたのだ。
「……歩きながらで申し訳無いが、わしはお主たちに色々とたずねておきたいことがあるのじゃ。……聞いても良いかの?」
そんな声が前を進むアイザックの方から聞こえて来た。険しい道のためアイザックは前を向いたまま振り返りはしない。そのためどんな表情をしているかは分からない。それ故にアイザックの真意は掴めなかった。
だが真意は掴めなかったとしてもその申し出を断ることは出来ない。少しの迷いの後に息を整えてマシューは承諾の返事を返したのである。
「……どうぞ」
「ふむ。……ではまず探している父親について聞こうかの。父親の名前は何と言うんじゃ?」
「マルクです」
マシューが答えるよりも早くエレナがアイザックのその質問に答えた。アイザックにもその答えが聞こえているはずだがなぜか彼は少し首を傾げる素振りを見せ突然後ろを振り返った。驚いた4人はその場に立ち止まっている。アイザックの目線が一番前にいるマシューから一番後ろにいるエレナまで動きアイザックは何かを思い出したような表情を見せた。
「あぁ、そうか。探しているのはお主の父では無かったな。そこにいる、……ええとエレナだったかの?」
「そうです」
「それで父の名前はマルクだと」
「……そうです」
エレナのその返答を聞いたアイザックは満足そうに微笑み頷いた。そしてまた前を向いて歩き始めたのだ。彼はいったい何に満足したのだろうか。
「それじゃあ次の質問じゃ。象徴を手に入れたいと言ったな? 象徴がどんなものであるか知っておるのか?」
「どんなもの? ……つまりええと、初代勇者が装備していたもの?」
「うむ、それで概ね正しい。……それで他には?」
「……他?」
「他じゃ。まさかそれだけしか知らずに集めている訳ではあるまい」
アイザックは振り返ることなく前に進んでいる。そんなアイザックの語気はやや強い。マシューは象徴及び七つの秘宝についてはそれくらいしか知らない。何か他の意味があるのだろうか。……そう言えばもう随分と長く歩いているはずだが目的地に着く気配が無い。いつまで歩き続ければ良いのだろうか。
「……分かりません」
アイザックは足を止めて振り返った。その表情は真顔であり、何を思っているのか全く掴めなかった。アイザックは象徴がどんなものであるか詳しく知っているのだろうか。
「……お主。何故象徴を集める? 冷やかしで集めるようなものでは無いぞ?」
アイザックはマシューをまっすぐ見てそう問うたのだ。表情から感情は読み取れない。だが決してふざけている訳ではないことは感じ取っていた。ならばアイザックのその問いにマシューは真剣に答えなければならないだろう。
「……父が集めていたからです」
「父が集めていたからだと? それは理由にならない。お主が集める理由を聞いているのだ。父が集めていたと言うのは理由にはならん」
アイザックの語気が少し強くなった。マシューもそれが答えにならないことは分かっている。だが言葉にするなら自分が象徴を集める理由は父ケヴィンが集めていたからで間違い無いのだ。それを伝えるためマシューはさらに詳しく説明することにしたのだ。
「……父は3年前何者かによって殺された。その理由はまだ分かっていない。……ただ一つ分かったことは父が生前《七つの秘宝》を集めていたことだけだった」
「だから自分も手に入れようと?」
「父が集めていたのは何だったのか、なぜ父は殺されたのか。……《七つの秘宝》にその秘密が隠されている。俺はそう思えてならないんです」
「……なるほどな。それならばお主が集める理由になるだろう。……お主の父親の名前は何と言う?」
「……ケヴィンだ」
「ケヴィン……か。お主の出身はどこじゃ?」
「……テーベ。帝都の森の奥にある田舎町だよ」
「……そうか」
それを聞いたアイザックは満足そうに微笑んだ。これで質問は終わりなのだろうか。アイザックは歩くことなくずっと立ち止まったままである。早く目的地に着くためマシューはアイザックを急かそうと口を開きかけた。その時アイザックが何かを取り出したのだ。それは手鏡のように見えた。
「お主たちに謝らねばならないことがある。……実はこの先にお主たちの目的地は無いのだ」