第25話 出発は日の出とともに
読んでくださりありがとうございます。レイモンドは何に気が付いたんでしょうか。
「……ポーラは今どこに?」
「あぁ、ポーラなら今二度寝だ。朝早くから張り切って作っていたみたいでな」
「……それは非常に申し訳ない」
「良いってことよ。俺たちはそれが仕事なんだからな。……あんたらは朝食を食べ終わったらすぐ出発するのか?」
「あぁ、夜が明けて日が昇るまでには帝都を出たいんだ」
「そうか。なら見送ってやるよ」
バーナードの突然の申し出に2人は驚いた。ただでさえ自分たちの予定のために朝食を早くから準備してもらったのだ。見送りまでしてもらう訳にはいかない。だがバーナードにとってそれは当然のことらしい。聞けば緋熊亭を出発した人は全て見送っているんだそうだ。
「これは俺が勝手にやっていることだ。あんたらが嫌がっても俺はやるぜ」
「嫌がっては無いさ。……それじゃあお願いしようかな」
そう言うと2人は残りのおにぎりを全て口に頬張って席を立った。そろそろ出発の時間である。空いた皿を片付けて2人は出発するため緋熊亭の入り口へと向かった。扉を開けて後ろを振り返るとバーナードが2人を見送るために入り口へと歩いて来るのが見えた。そしてその後ろにはポーラの姿があったのである。
「おはようございます。恥ずかしながら二度寝をしてまして……」
「寝てても良かったのに……」
「そう言う訳にもいきません。バーナードと同じように私も見送らせていただきますわ」
どうやらポーラは2人を見送るためにわざわざ起きて来たようだ。そのことが2人にはとてもありがたく思えた。目が少し潤っているのは眠いからでは無い。もうじき日が昇るやや薄暗い時間にポーラとバーナードに見送られて2人は出発したのである。きっと帰って来ると言う決意を胸に抱きながら。
「……なぁ、レイモンド」
「ん?」
「昨日俺はずっと、帝都を発てば緋熊亭やバーナードたちとはずっとお別れになると思っていたのさ。……でもそれは違った。緋熊亭はいつでも帰って来て良い場所だったんだ」
「そうだな。……帰る場所があるっていうのは心強いもんだよ。せっかく待っててくれるんだ。きっちり帰ってこないとな」
レイモンドのその言葉にマシューは力強く頷いた。この場所へ帰って来るためにも修羅の国へ無事にたどり着き目的を果たさねばならない。
2人が門を潜って帝都の外へ出た時と日の出の時間がちょうど重なった。嵐馬荒原の方を向くとゆっくりと太陽が昇ってくるのが見えた。その光景はこれから4人を迎え入れる光にも待ち構える光にも見える。
「……僕らはこれからあの光に向かって進むのさ」
声のした方を向くとこちらに向かって歩いて来る人影が見えた。エルヴィスである。いつも早い到着の彼は今日も早めに待ち合わせ場所に着いていたようだ。
「あぁ、……そうだね。遅くなってすまない」
「いや、僕もさっき着いたところさ。……今日一番早かったのはエレナだよ」
そう言ってエルヴィスは指で後ろを示した。見ると木にもたれながらりんごをかじるエレナの姿があったのである。いつもエレナはエルヴィスの後に来ることが多いが今回は先に来ていたようだ。それはすなわち彼女の覚悟の強さを表していた。合流した3人はゆっくりとエレナに近づいた。
「……全員揃ったね。ちょっと待ってこれ全部食べちゃうからさ」
手の中には4分の1程りんごが残っていたがその全てをエレナは一気に頬張った。そして残った芯を収納袋に仕舞うとエレナは立ち上がったのだ。
「焦らない焦らない。せっかく早く来たんだからゆっくり食べても問題無いよ」
エレナはまだりんごを飲み込めておらず口をもごもごと動かしている。口にした量を考えると喉に詰めてしまうのではと少し心配してしまうがエレナは無事に飲み込めたようだ。満足そうに笑うと口を開いた。
「……ふぅ、お腹いっぱい。早く来たって言ってももう日の出は過ぎてるからね。早く修羅の国を目指そう。……まずは嵐馬平原を目指すんだっけ?」
「そうだね。そのためには嵐馬荒原のユニコーン像に向かわないと。……割と近いからすぐに向かおうか」
こうして4人はまずユニコーン像目指して歩き始めたのだ。ユニコーン像は嵐馬荒原の入り口近くにあり迷う要素は無い。歩き始めて数分で4人はユニコーン像の前にたどり着いた。久しぶりに目にするユニコーン像は変わらぬ存在感を放っていた。
「これが噂のユニコーン像か。……ええと、ここから嵐馬平原へ行くんだよね?」
「そうだよ。【転移】を使って裏の世界へ行くのさ」
そう言ってマシューは鍵の蹄を取り出した。このU字型の金属をユニコーン像の脚にはめ込めば嵐馬平原へと繋がる【転移】が発動するのである。
「転移が上手くいくためにもちょっと固まっておこうか」
「分かった。……これだけ近づいたら大丈夫かい?」
「……多分大丈夫。それじゃあはめ込むよ!」
マシューは鍵の蹄の出っ張りをユニコーン像の溝にはめ込み反時計回りに捻った。カチッと言う確かな手ごたえを感じた瞬間ユニコーン像の瞳に光が宿った。これで嵐馬平原へと転移出来る。ユニコーン像を中心に現れた光の柱は4人を包み込み消えた。
像があった場所には風属性の魔法を思わせる緑色の球体が漂っていた。これこそが表の世界から裏の世界へも転移させる高位の【転移】である。つまり4人は無事に嵐馬平原へと転移したのである。
そしてそれを物陰からじっと見ている男がいた。男は相変わらず新品に近いような真新しい鎧を身に包んでいた。4人が転移して数分後、ゆっくりと物陰から現れたその男は緑色の球体へ近づきそして触れた。……こうして僅か数分の間に5人もの人物が【転移】を使い嵐馬平原へと転移したのである。




