第6話 騎士団長
読んでくださりありがとうございます。ニコラが最初に言ったことをマシューはすっかり忘れてしまっています。
「そう、最初だよ」
どうやらとても大事なことらしい。ニコラは真剣な表情でマシューを見ていた。だがマシューはすぐには思い出せなかった。しっかり考え込み、思い返すとようやく1つ心当たりがあることがあったのだ。
「……ええと、敬語……ですか?」
「そう、それだ。僕は君たちにしっかり言ったはずだよ。ナメられちゃうから敬語は使わない方が良いってね。僕が君たちの上官なら話は変わってくるけど、君たちは違うだろ? マシュー、君はかなり真面目なようだがそれでは損をしてしまう。これは僕からの忠告だよ。……分かってくれたかい?」
「……なるほど、よく分かった」
「うん、それで良し。それじゃあそろそろ休憩を終わろうか。もう大分回復して来ただろ? さすがにそろそろ帝都に向かい始めないと夜になっちゃうからね」
そう言うとニコラは立ち上がった。それに従って2人も立ち上がったのだが出発の前にマシューにはニコラに聞きたいことがあったのだ。それはニコラを見た時からマシューがずっと考えていたあることである。
「あの、……ニコラさん」
「さんも要らない、ニコラで良いよ。どうしたの?」
「ええと、……ニコラは結構立派な鎧をしているけど、騎士か何かなのかい?」
そんなことを聞かれると思っていなかったのだろうか。ニコラは少し驚いた表情で自分の装備を見た後で再びマシューの顔を見つめた。その表情には戸惑いが浮かんでいた。
「そうだけど、……何か重要なことでもあるのかい?」
「いや、ちょっとだけ気になってね。……騎士なら全員その装備なのか? それとも日によって別の装備を着けるなんてことはあるのか?」
「……妙なことを気にするんだね。まあ、良いや。僕の騎士団の一員なら全員常にこの装備だよ。深緑の騎士団グリフォーン。それが僕の騎士団の名前さ」
そう言うとニコラは得意気に胸を張り自身の鎧を見せつけた。緑と銀を基調としたその鎧は格好良くとてもニコラに似合っている。
「僕の騎士団……?」
「あぁ、そう言えば言ってなかったね。それじゃあ改めて自己紹介しよう。僕の名前はニコラ。帝都で深緑の騎士団グリフォーンの騎士団長をしているんだ」
ニコラはさらっとそう言い放った。とてもじゃないが信じられず2人はまじまじとニコラの顔を見た。もちろん今までのニコラを見てただものでは無いとは感じていたが、帝都で騎士団長をしているなんて思わなかったのだ。
「なんだい。そんな信じられないような顔してさ。君たちちょっと失礼じゃないかい?」
「いや、ニコラが騎士団長なのが信じられないんじゃないよ。……ただ勝手なイメージなんだけど、騎士団長ってもっとオジサンがやるものかと……。」
「あぁ、なるほどね。確かに僕はまだ24だから騎士団長にしては若くないかって話か。帝都にはグリフォーンの他にも色々騎士団があってね。君たちの言うように他の騎士団長と比べれば僕が一番若いかな」
言いながらニコラは何度か頷いていた。ちょっと失礼じゃないかと言われて少し焦ったがなんとか誤解は解けたようだ。マシューがほっと胸を撫で下ろしているといきなりニコラが振り返って来たのである。その顔には少しばかりの……いや、かなりの興味が顔に現れていた。
「それで、君は騎士に興味があるんだろう? そして装備、もっと言えば鎧になるのかな。既に特定のものを思い浮かべている。個人的に興味があってね。良ければ教えてくれないかい?」
マシューは少したじろいだ。そんなに正面から聞かれると思っていなかったのだ。軽く探るような感じにするはずが上手くいかなかったらしい。マシューは思わず隣を歩くレイモンドの顔を見た。レイモンドは我関せずとばかりに前を向いていた。
だが視線は感じたのだろうか、レイモンドが少し頷いたような気がした。多分気のせいでは無い。レイモンドは恐らくマシューが何を知ろうとしているのか分かった上で同意してくれているのだ。
それにここまで正面から聞かれているのにはぐらかすのは最早不自然である。少し息を吐くとマシューはニコラから詳しく聞くことに決めた。
「……実は昔に出会った騎士が少し気になっていて、帝都に着いたらそれについて調べようと思ってたんだ。少し昔の記憶だからそれほど自信が無いんだけどその騎士たちは白と銀の鎧を着ていたと思うんだ」
記憶に自信が無いのは嘘である。まぶたを閉じればあの日見た騎士の姿はありありと思い出せる。だがそれほど自信があると言ってしまうとなぜそこまで正確に覚えているのだと突っ込まれてしまう可能性もある。
ニコラは信用出来そうな人間とは言え、あの日のことまで詳しく説明出来る程の信用はまだ出来ていないのだ。
「……白と銀の鎧か。それなら多分聖騎士だな」
「……聖騎士?」
「そう、聖騎士。もっと正確に言うと、神聖の騎士団ユニコーンに所属する騎士だね。彼らは確か白と銀の鎧だったはずだよ」
「神聖の騎士団……ユニコーン」
繰り返すようにマシューは呟いた。もちろんユニコーンの騎士の鎧自体はまだ見ていないためマシューたちが記憶している騎士とは限らない。が、有益な情報であることは間違いない。
帝都に到着した後で出来るだけ目立たないようにしながら聖騎士を見ておかないと。マシューとレイモンドは口にこそ出さなかったが2人とも同じ考えに至っていたのだった。