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マシューと《七つの秘宝》  作者: ブラック・ペッパー
第3章 その兜は勇気をもたらす
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第23話 パウロは焦る

 読んでくださりありがとうございます。結論は必ずしも出さなくてはいけない訳ではありません。


「……それもそうだな。とりあえず今は修羅の国について考えることに集中しよう。エルヴィス、霊亀についての情報の共有を始めてくれ」


マシューもまた結論を出すことを諦めたようだ。いずれは出さなくてはいけない結論なのかもしれないが先延ばしにすることは可能だろう。今は修羅の国に集中したい。マシューとレイモンドのそんな考えを汲み取ってかエルヴィスは無言で何度か頷いていた。


「……君たちがそう言うなら僕も今は考えないことにするよ。それじゃあまず『霊亀伝説』に書かれている霊亀の情報を共有するから全員きちんと聞いておいてくれ。……」


 4人がエレナの部屋で霊亀ホムラの情報を共有していたその頃、帝都内にあるとあるカフェにパウロは訪れていた。もちろんコーヒーを飲むためでは無い。ある人物に呼び出されたからである。


「……副団長、お呼びですか?」


「ポールか。……いや、今はパウロだったな。……悪いなこんなところまで来てもらって」


 言葉こそ丁寧だがアンガスの表情は無表情であり、そこから何の感情も読み取れなかった。パウロは少し焦っていた。まさかこのタイミングで呼び出されるとは思っていなかったからである。


 パウロが追っている冒険者は2人。マシューとレイモンドである。だがその2人に新たに2人仲間が出来たようなのである。そこでパウロはマシューとレイモンドが2人でいる時を狙ったのである。そしてわざと長話をしたのだ。そうすれば自然な流れで増えた2人が誰なのかを知ることが出来る。


 だが、そこにひとつ誤算があったのだ。2人のうちの1人、……確か名前はエルヴィスだったか。神聖の騎士団の騎士団長の実の息子であり、追放された人間である。そして目が合った時明らかに自分を知っているという反応を示していたのだ。


 つまりこの時点でパウロが追っている冒険者2人に対して自分の素性がバレた可能性が高い。そこでパウロはこの状況をどう挽回しようか知恵を絞っていたのである。そんなタイミングでアンガスに呼び出されたのだ。背中に冷たい汗が伝って落ちた。


「いえいえ、滅相もありません。副団長のお呼びであればいつでもどこでも参る所存です」


「……それは頼もしい限りだ。それでは本題に入る前に報告を聞こう。今君が追っている冒険者の動向を聞かせて欲しい」


 アンガスはわずかに微笑んだ。どうやら機嫌は良いようだ。本題とは何か、パウロにはそれを知りたい気持ちもあるが調査対象に素性がバレたことを報告しない訳にはいかない。意を決してパウロはアンガスに向けて頭を下げた。


「……申し訳ありません! 冒険者に自分が騎士であることがバレた可能性が高いです」


 頭を下げている故にアンガスの表情がパウロには分からない。数秒沈黙が流れた後、アンガスはゆっくりと口を開いた。


「頭を上げたまえ」


 パウロは恐る恐る頭を上げた。アンガスはいまだわずかに微笑んでいた。


「素性はいずれバレるものだ。それほど気にすることでは無い」


「……しかし」


「気にするなと言っているだろう。……それでは報告を聞こう」


「……マシュー、レイモンド両名は嵐馬平原を攻略した後、知恵の樹上も攻略したようです。そして知恵の樹上を攻略するに辺り仲間を2人増やしたようです。1人は分からなかったのですが、1人は騎士団長の息子のエルヴィスなる魔法使いかと思われます」


「……ふむ、エルヴィスが仲間になったか。それで君は素性がバレたと思ったのだな?」


「……はい」


「それなら仕方ないだろう。どうせ素性はいずれバレるものだ。多少前後しても特に問題は無い。……さて、彼らはこの後どこへ行くと?」


「……これから修羅の国へ向かうと言っていました」


「……ふむ、獅子頭の兜を狙ったか。概ね予想の範囲内だな。報告は以上か?」


「……以上であります」


「よし、それでは本題に入ろう。……どんな手段を使っても良い。……彼らをあの場所に誘き寄せるんだ」




――

緋熊亭

――


 マシューとレイモンドはエレナの家から緋熊亭に戻り自分たちが泊まっている部屋で静かに過ごしていた。


 たった数日だが帝都に来てずっと泊まっていた部屋である。そろそろ慣れて来たこの部屋にずっと泊まっていたい気持ちもあるが、帝都を発つ以上この部屋にも別れを告げなければならない。2人は明日、修羅の国を目指すため帝都を発つのだ。


「……何日いたんだっけ?」


「……八日間かな」


「……八日か。長くいた気がするけど、案外短かったんだな」


「そうだね。……さ、もうそろそろ夕食の時間だよ。食堂へ行こうか」


 2人は階段を降り、ポーラに夕食の準備を頼むと食堂へと入った。まだだれも来ていない食堂は静かに2人を迎え入れた。その静けさは心地の良いものであった。


「……誰もいないな」


「夕食にするにはちょっと早かったか?」


「全く誰もいないと思って酒でも飲もうと思っていたんだかな」


 いつの間にか2人の後ろにバーナードが立っていたのである。既にその片手にはビールの瓶が握られていた。それを見てマシューは少し微笑んだ。この光景を見るのももう最後になるかもしれない。


「……なんだ? あんたらにしちゃ元気が無いな。何かあったか?」


「実は……俺たち明日帝都から出発しようと思っているんだ」


「……それで?」


 バーナードは首を傾げている。どうやら上手く伝わっていないようだ。帝都を発つと言うことはすなわちこの宿屋から出なければならないのだ。帝都に帰って来たとしても緋熊亭に宿泊出来るとは限らない。それ故に2人は最後かもしれないと思うと寂しく思っているのだ。それを言葉にして伝えてみたのだが変わらずバーナードは首を傾げていた。


「……よく分からんが、俺の考えはポーラと一緒だよ。夕食を持って来る時にポーラに言ってみたらどうだ?」


「私がどうしたって?」


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