第18話 保護された象徴
読んでくださりありがとうございます。さらに情報が共有されるようです。
「だから騎士じゃなくて魔法使いになろうと思ったんだもんね」
「あぁ、騎士では到底習得出来ないだろうからな。……だが適性が無かったのか【暗号魔法】はもちろん【遮音】も習得出来なかった。……何か習得に条件があるとは思えないんだけどな」
そう言いながらエルヴィスは手元の魔水晶を眺めていた。自力で習得できなかったため魔水晶で代用しているが、出来ることなら魔水晶無しで発動させたかったと言いたげな顔である。マシューたちからすると魔水晶の有無は大して違いを見出せないためこのエルヴィスの感情はあまり理解出来ない。……ただ恐らくはこの感情がエルヴィスが魔法使いたり得る理由なのだろう。
「俺が共有出来る情報はこれだけだな。今度はエルヴィスたちの情報を聞かせてよ」
「分かった。それじゃあまず……この本だな」
エルヴィスは積み上げられた本の一番上にある本を手に取って全員に見せた。その表紙には『獅子の国の歴史』と記されている。獅子の国とは修羅の国の別名であり、その本には修羅の国の歴史が記されていると考えて良さそうである。
「へぇ、そんな本があるんだな。他国の歴史が詳しく記された本が帝都にあるなんて驚きだぜ」
「僕もこの本を見つけた時は不思議に思ったが、戦争の歴史なら詳しく記された本があっても良いと思って読み始めたのさ。……でも僕のその予想は全く外れていたんだ」
「……と言うと?」
「この本によれば修羅の国とアーノルド帝国間で戦争があったという記録は無い。それどころかかなり有効的な関係性があるらしいんだ。……それもアーノルド帝国が出来た時からのね」
「……それはつまり初代勇者と関係が?」
「あぁ、その通りだよ。初代勇者様が魔王を討伐された時装着していた兜の名前は獅子頭の兜と言って《勇気》の象徴なんだが、その兜は元々修羅の国にあったものなんだそうだ。そんな獅子頭の兜だが当時の修羅の国の国王の計らいで、魔王討伐を目指す初代勇者様にと贈られたとある。そして初代勇者様はそれにとても感謝して魔王討伐後その兜を返しに来たんだそうだ。その兜は今も修羅の国にあるらしい。……この話は修羅の国に関する重要な情報だが、マシューにとっても重要な情報なんだ。何しろ《勇気》の象徴である兜の話なんだからね」
《勇気》の象徴。それは紛れもなく《七つの秘宝》のことであり、マシューが求めているものである。古びた地図にあるバツ印から修羅の国にあるのでは無いかと考えていたが、これで修羅の国にあることが確定したのである。
「……そうか、やはり修羅の国に象徴があるんだな。間違いなくその情報は俺にとっても重要な情報だよ」
「君にとって重要な情報はまだあるんだ」
そう言ってエルヴィスは積み上げられた本の真ん中辺りにある本を引っ張り出して来たのだ。その表紙には『深緑の騎士団の成り立ち』と記されていた。
「……深緑の騎士団? 修羅の国と何の関係があるんだ? それにマシューにとって重要な情報って?」
「僕も深緑の騎士団と関係は無いだろうと思っていたんだが、どうやら深緑の騎士団と修羅の国はかなり関係性が強いらしいんだ。……この本によるとどうやら深緑の騎士団は修羅の国である大事な役割を担っているらしい」
「……と言うと?」
「獅子頭の兜の保護さ」
「……本当?」
信じられないと言いたげな表情でマシューはエルヴィスの顔を見ている。エルヴィスは表情を変えずにただ無言で頷くだけであった。
「……つまり《勇気》の象徴を手に入れたければ深緑の騎士団と戦う必要があるってことなのか?」
「その必要はあるかもしれないし、無いかもしれない」
エルヴィスはレイモンドの質問に曖昧な答えを返した。話の流れからすれば深緑の騎士団と戦うことは既定路線のように感じていたのだが、エルヴィスの答えが曖昧であることはそれすなわち少し希望があるということである。
「……かもと言うことは何か可能性があると?」
「あぁ。……この本に記されていることが真実ならね。この本の後ろの方に修羅の国の出来事が時系列順に記されているページがあるんだ。……そこを詳しく読んでみると獅子頭の兜を託すと言う文言が数ヶ所出てくるんだ」
「……託す」
「この文言から考えるに定期的に獅子頭の兜は誰かしらの手に渡っているのではないかと予想出来る。……ここからは単なる僕の予想だが、《知恵》の象徴である黄金の林檎を手に入れるにはソフィアからの試練を達成する必要があっただろう? もし《勇気》の象徴を手に入れるのにも同じように試練があるのなら、深緑の騎士団が保護していたとしても手に入れられるんじゃないかと思うのさ」
エルヴィスのその予想を聞きながらマシューは無言で頷いていた。恐らくかなりこの予想の精度は高いだろう。エルヴィスとエレナは知らないが、マシューとレイモンドは《幸運》の象徴である蹄鉄の鎧を手に入れる時ユニコーンからの試練を体験しているのだ。獅子頭の兜を手に入れる際に同じように試練があることは充分予想出来る。
「……かなり良さそうな予想だが、外れている可能性も同じようにありそうだな。深緑の騎士団の騎士団長はニコラだろう? 知り合いだからなるべく対抗したくは無い。エルヴィスの予想が当たっていることを祈りたいもんだよ」
「そうだな。それじゃあ話を戻そうか。次はこの本に書いてある情報だよ」