第17話 エルヴィスは物知り
読んでくださりありがとうございます。修羅の国に関する情報がどんどん手に入ります。
「……封印⁈ だがそうすると本人もそこから出られないんじゃ? ……いや、そうでも無いか」
言いながらエルヴィスは結論にたどり着いた。そもそも【転移】を使わずとも谷を飛び越えることで修羅の国へたどり着いた人物である。帰りももちろん飛び越えたのだろう。まだ文字でしか見ていないのだが初代勇者はどうやら相当ぶっ飛んだ人物のようである。
「だが有用な情報もあるな。【転移】が何度も発動出来る杖の存在とそれが修羅の国にあることが分かっただけでも収穫だろう」
「そう言うことにしておいてくれ。この本から得られた情報はそれだけだ」
「それじゃあ次は俺の番かな。俺が読んでいたのはこの本だよ」
そう言ってマシューは自分が先程まで読んでいた本を全員に見せた。その表紙には『上級補助魔法について』と記されていた。今マシューが情報として共有出来るのはこの本の情報だけである。
「この本には上級補助魔法についての詳細が載っている。もちろん【転移】も掲載されているよ」
マシューのその言葉に全員が反応を示した。【転移】はいまだ謎の多い魔法であり詳しい情報は出来るだけ欲しいのだ。身を乗り出してこそいなかったが全員がマシューに耳を傾けていることがマシューに伝わって来る。ひとつ息を吐いて落ち着いた後にマシューは説明を始めたのだ。
「…………という訳だ」
「なるほどねぇ。それじゃあ嵐馬平原に転移したあの緑色の球体はかなりの魔力が込められたことで裏世界への移動を可能にしたってことか」
「そう言うことになるね。……それからさっきのレイモンドの情報とこの情報を組み合わせると、その封印されたと言う杖は魔力が濃い方の【転移】が発動出来ると言う訳だよ。しかもそれが何度もね」
それを聞いたエルヴィスは思わず唸り声を上げた。エルヴィスは魔法使いでありそうした杖にはかなり興味があるのだろう。よく見ると先程からずっと自分の杖を握ったり離したりを繰り返しているようだ。
「……最早実在しているかも怪しいくらい凄い杖だな。本来杖は魔法を発動させるための媒介に過ぎなくて、それ自体で魔法を発動させるような魔道具的使い方はあまりしないんだ」
「……そうなのか?」
「あぁ、杖だけで特定の魔法を発動させようとするなら特化させないと不可能だよ。多分その杖は【転移】以外の魔法は一切使えないんじゃないかな。ま、それでも凄まじい杖であることには変わりないけどね」
なるほど、つまり【転移】が何度も発動出来る杖は【転移】の発動だけに特化した杖だということである。言い換えればそれほど特化しなければ実現出来ないということであり、それだけ【転移】が高位の魔法であると言う訳だ。
「他にはどんな魔法が書いてあるんだい?」
「他だったら【暗号魔法】について読んだよ」
「【暗号魔法】と言うと、情報を隠したい時に使う魔法だな。現代ではあまり使われない魔法だよ」
エルヴィスは【暗号魔法】を知っているようで、どこか懐かしそうな表情で何度か頷いていた。エルヴィスがこの魔法を知っていることも驚きだがそれ以上にマシューには気になる言葉があった。それはこの読んだ本には一切書かれていない内容である。
「現代ではあまり使われないとはどういう意味だ?」
「使う必要があまり無いからだよ。【暗号魔法】の下位互換的な魔法として中級補助魔法に【遮音】があってね。【遮音】は効果が及ぶ範囲で起こった音がその外で全く聞こえなくなる魔法だよ。……ちなみに実は今発動させているんだ」
そう言うとエルヴィスは袖の中に手を入れて忍ばせてあった魔水晶を取り出してみせた。その魔水晶は淡い光を放っており確かに魔法が発動しているようである。
「なるほど。エルヴィスは下位互換と言ったけど、使い方によっては上位互換にもなりそうだな」
「その通り。別に誰にも聞かれないように誰かに何かを伝えるだけならこの魔法で充分なのさ。自分と相手との距離が離れているなら【暗号魔法】が必要ではあるけど、そんな場面そうそう無いだろう? だから現代では使われないんだ」
「……そうか、残念だな。面白そうな魔法だから一度見てみたかったんだけど、どうやら無理そうだね」
マシューは残念そうにそう言った。それを聞いたエルヴィスはなぜか身を乗り出していた。何かあったのだろうか。何も言えず瞬きばかりのマシューに笑顔を浮かべながらエルヴィスは口を開いたのだ。
「あぁ……、その気持ち! よく分かるよ!」
「……ん?」
「僕も一度は見てみたいんだよ!」
どうやらエルヴィスは今、今日一番のテンションであるようだ。マシューは面白そうだから一度見てみたいというだけの軽い気持ちなのだがエルヴィスはかなり熱い思いがあるようである。マシューの瞬きの数がさらに増える。マシューとレイモンドはその熱い思いを知らない故に戸惑いを隠せないでいるのだ。逆に既に知っているエレナは戸惑いではなく微笑みを浮かべていた。