第5話 少し休憩しよう
読んでくださりありがとうございます。弓矢によって2体目のエイプウォリアーが討伐されました。弓矢でマシューたちを助けた彼は何者なんでしょうか。
「誰だ!」
2人が驚いて後ろを振り向くと小綺麗な鎧を身につけ弓矢を持った優男が木の上から飛び降りて来たのだ。どうやらエイプウォリアーを倒した弓矢を放ったのはこの優男のようである。
「初めまして、僕の名前はニコラ。君たちは帝都に行きたいのかな?」
「……そうです。どうして分かったんですか?」
「おっと、敬語はいらないよ。むしろ敬語を使ってるとナメられちゃうからもっとフランクに接すると良いよ。帝都には結構冒険者もいるからね」
「……なるほど、それじゃあこんな感じで良いか?」
「うん、それでOK。これで帝都でもナメられずに済みそうだね。……それじゃさっきの質問に答えようか。帝都の人間ならこの闘猿の森がどれくらい危険な場所かは知っているはず。そんな場所に盾と剣だけ立派で後は軽装な2人組がいたら帝都から来た訳じゃないと普通は思うさ。なら帝都に行きたい人かなって思っただけだよ」
「そこまでよく分かるものなんだな。確かに俺たちは、その……冒険者志望なのさ」
「やっぱりね、そんな気がしていたよ。それで帝都に行こうとしているのかい?」
「……はい、俺たちは帝都に行きたいんですよ。帝都への道はどっちですか?」
レイモンドは敬語を使わないことにすぐに慣れたようだがマシューはそうはいかなかった。まだ敬語が抜けていないマシューにニコラはやや苦笑いを浮かべながらも右側に指を向けた。
「案内しよう。丁度僕もそろそろ帝都に帰ろうと思っていてね。付いてきなよ。……あ、そうだ。ちょっとそこで待っててよ」
ニコラは何かを思い出したかのように腰に下げた革袋に手を突っ込むと何かを取り出し辺りに転がっているエイプウォリアーに近づいて行った。
「本当は自分でやった方が良いんだけど、こんな森の中で長時間いる訳にもいかないからね。……これで良しと。君たち収納袋は持ってるかい?」
「……収納袋?」
「あぁ、そうか知らないんだな。それじゃ仕方ない。この森を抜けるついでに帝都の中も案内するよ。それじゃあ帝都に向かおうか」
そう言ってニコラは笑って森の中を歩き始めた。慌てて2人は二コラの後を追いかけた。程なくして2人の目に外の明かりが飛び込んで来た。もうすぐ森の出口である。
「……何とか、出口に辿り着いたな。」
レイモンドはやや疲れたような声でそう呟いた。外は日が落ちかけており、間もなく暗くなりそうな気配である。
結局エイプウォリアー以外のモンスターとは戦闘とならず、闘猿の森の中にいたのは約20分程である。装備もろくに揃っていない状況と言うことを考えると上々と言えるだろう。
「ふふ、結構疲れてそうだね。この辺りで野宿でも僕は全然構わないけど、どうせなら帝都でゆっくり休んだ方が良いと思うな。ここから帝都までは大して距離が無い。だからもうひと踏ん張りだよ」
「レイモンドなら大丈夫です。疲れてても体は動かせる奴なので」
マシューは真面目な顔でニコラにそう答えた。レイモンドの心配は必要ないとニコラに伝える意図はもちろん、レイモンドを鼓舞する意味合いもあった。だがそれを聞いたニコラは少し考え込むと口を開いた。
「いや、少し休憩しよう」
「俺のことなら心配いらない。休憩無しですぐに出発出来る」
出来ることなら早いうちに帝都に着いておきたいレイモンドは半分意地を張っているような表情でニコラにそう訴えた。だがニコラは休憩する判断を変えるつもりは無いらしい。近くの切り株にしゃがみ込むと2人にも座るよう促した。
「心配いらないって言っても動けるだけで戦闘は難しいだろう? ここから帝都までの道のりは闘猿の森よりは安全だけどモンスターが出ない訳じゃ無い。ましてや君は今武器と言う武器を持っていない。せめて戦闘が出来るくらいまでは休憩した方が良い。それに君たちに言っておくべきこともあるからね。僕の言葉が理解出来るならどこでも良いから座りな」
そこまで言われれば意地を張る必要も無い。レイモンドはその場にどっかりと座り込んだ。レイモンドが座るのを見てマシューもその場に座り込んだ。レイモンドの心配をしていたがマシューもまた相応に疲れていたらしい。姿勢よく座ろうとしたが一度切れた緊張は中々取り戻せない。結局マシューは諦めて足を投げ出すようにして座ったのである。
「……どうやら君もそこそこに疲れていたようだね」
「……そうみたいですね。綺麗に座ってようかと思ってたんですが無理でした」
「まあ、意地を張るのも良いことだけどね。今は必要無いかな。存分に体を休めると良いよ」
レイモンドよりだらけた座り方をしているマシューにニコラは苦笑いを浮かべていた。疲れていたのがバレたのは少し恥ずかしいが既にバレてしまっている以上開き直ってマシューは回復に努めていた。そんなマシューを見ながらニコラがまた口を開いた。
「さて、さっき僕は君たちに言っておくべきことがあるって言ったね。休憩しながらその話をしようか。ええと、まず……そうだな。君、名前は何て言うんだ?」
ニコラはまっすぐマシューを見つめていた。そう言えばニコラは自己紹介をしたため2人とも名前を知っているが2人は自己紹介をしていない。先に名乗ってもらったのに自分たちは名乗らないなんて何て失礼なことをしたとマシューは恥ずかしさを感じ思わず目をそらした。
が、面と向かって聞かれていることに答えないのは恥の上塗りである。ニコラの顔に向き直るとマシューは改めて自己紹介を始めた。
「俺の名前はマシューです。そしてこっちはレイモンドです。名乗るのが遅くなってすみませんでした」
「いや、そこは別に気にして無いよ。自分から名乗りたくないって人は別に珍しくないからね。……さて、マシュー。僕が君たちに会って名乗ってから最初に言ったことを覚えているかい?」
「名乗ってから……、最初に……ですか?」