7 言ってやる
閲覧ありがとうございます。
フィオレとライト王子の掛け合いを考えるのは結構楽しいです。
過去の選択肢を思い返し、顔面蒼白になる私。
そんな私を面白そうに眺め、ライト王子はちょっと圧のある声で言葉を紡ぐ。
「思い出しましたか?・・・その日以来、僕は君の言いつけを守ってきた。人当たりの良い笑顔を浮かべて、ニコニコニコニコ。楽しくもないのに笑っていれば、自然と人が集まる。生きやすい環境になりましたよ。僕の外見と権力に集まる人を、思いのままに操るのは楽しいですね。・・・でも君は遠ざかっていった。何故?」
「本当に、申し訳な―」
「謝罪は要りません。君は、フィオレは今の僕の姿を見てどう思いますか?」
じっと見てくる真剣な眼差し。からかいの気配は無く、私の言葉を待っている。
「その前に、ハッキリさせておきたいことがあるんですけど・・・」
「何ですか?」
「その、あの・・・、私がアバズレって噂を、ライト王子から聞いたって人がね・・・、いるんですけど、まさかとは思うんですけど・・・。本当ですか?嘘だったらそうとー」
「はい。僕です」
「っはい!?ぼ、僕です!?」
「それが何か?」
かっちーん
悪びれもしないその顔に、決意を固める私。
(あぁ、そうか。分かった。えぇ、分かりました。私のせいで歪んだ王子が可哀そうだから、「王子は今のままで素敵です」とかさ。王子を肯定する言葉を言ってあげようと思ったよ。でも、言いたいことを言わせてもらおう)
チラリと王子の前に掲げられた数値を見る。
(赤0 青80。今まで+15くらいが最大だから、一回くらい言っても平気。その後にまた青を下げればいい訳だしね・・・)
よし、言ってやる。
すぅっと息を吸い込み、
「ライト王子って、かなーり性格悪いですよねっ!」
「・・・っ」
王子がはっとする声が聞こえる。と同時に。
デデン
青数値の変動を示す音が。
(これは・・・青上昇。まさかいきなり100は無いはずだけど、怖くて数値見たくないなぁ・・・。90か95かなぁ)
そろそろと数値を確認。
―赤0。青は・・・、
「青99!?そ、そんな馬鹿な!」
カンスト寸前の数値に目を見開く。
いっそのこと100まで行ってくれたらよかったのに。いや、駄目に決まってる。
待って欲しい。今ので青+19。これは想定していなかった。
(王子を悪く言う反応に、青上昇。・・・ってことは、やはり青=「嫌い」?でもそれだと赤の説明が・・・)
グルグル考える私は、ライト王子の鋭い視線に気付けなかった。
数値に目を奪われたまま頭を抱える私の肩に、彼の両手が置かれ、
「フィオレ。何か、隠していますね?」
「・・・ひっ」
にっこり。
(うわー、怖!怖い!王子の性格を知っちゃったから、その笑顔は何かを隠す顔だって分かってるよー!何か言わないと。でも、下手に数値を動かしたくない・・・)
チラ
反射で数値を確認した私に、わざとらしくため息を吐いた王子が言葉を零す。
「・・・またか。君はどこを見つめている?目の前で会話をする僕を見ていない。この前の逢瀬だってそうだ。フィオレは時折、僕じゃないどこかを見つめることがある。一体、君は何を見ている?」
「えっと・・・」
(ううーん。視線で不信感を与えているのは考えてなかった。攻略キャラの胸元辺りに出るから、誤魔化せていると思ってたのに。えーいいままよ!バッドエンドになるくらいなら言ってしまえ!)
「好感度が・・・」
「ん?何?」
「あの・・・、好感度、みたいなのが分かるんですよね・・・。数字がパって出てきて、それを見て、皆の反応を確認してました」
「どうして好感度を気にする必要があるんですか?」
「私が色んな人から嫌われてるから、です」
「嫌い?僕もフィオレを嫌いなの?」
(あなたが一番危険人物ですけど!今も若干怖い。99とか見たことない数字だよぉ・・・。赤はあるけど、青は初めてだよ)
しどろもどろになりながら、必死に言葉を紡ぐ。
ライト王子は私の肩から手を離し、近くのベンチに優しく誘った。緊張した私はぎゅっとドレスを握り、ぽつぽつ話す。
「・・・はい。だから、仲良くなりたくて、必死で・・・」
「ふぅん・・・。僕がフィオレを嫌い、か。有り得ないね。その数値について詳しく教えてもらってもいい?力になりたいんだ」
「赤と青の数字があって、それぞれ0から100まであります。・・・で、皆にキツイことを言ったり、そっけない態度を取ると青が上昇します。褒めたりすると、赤が上がって・・・」
「数は減らないの?」
「減ります。それが問題なんです。『好き度』を示す赤が増減するなら、青は何を表す?って疑問が出てきて・・・。ちなみにライト王子は青数値がエラいことになってます」
当事者に話すことで、何か手がかりが掴めるかもしれない。残念だがライト王子はもう手遅れだ。
次の攻略キャラに活かすために、有能な情報を手に入れられたらいい。
ライト王子は顎に手を当て、ううんと考えている。
(あ、そういえば)
「さっき、私がライト王子に性格悪いって言ったじゃないですか。その時、どう感じました?」
「イラついた」
「ぐ・・・ぅ。そ、即答ですか・・・」
「イラっとしたけど、同時に嬉しかった。僕の性根に気付いてもフィオレは離れなかったから。まぁ、僕に本心を隠す生き方を示しておいて、今更逃げられたらイラつくどころじゃ済まなかったですよ。フィオレが単純で正直な生き物で良かったです」
「ひぃ・・・」
・・・でも、なるほど。本性に気付けば青が上昇するのか。
その人の本当の姿を見てあげること。それが青の謎。
ん?待てよ。そうすると、結構本性暴いていた気がする。特にジークは青が80だ。
そんなに私、ジークの解像度が高いかな?ジークは開口一番、「消えろ」を言い放つ人間だ。理解者の私にそんな言葉吐く?ツンデレも突き詰めると「嫌い」になるのかもしれない。難儀な性格。
(ジーク攻略に移りたいけど、ライト王子を放っておけない。あ、そうだ。これ以上数値が変わらないか試してみよう。えぇと、その人の本性に気付いてない発言・・・。優しい王子を信じてるような発言・・・)
「ライト王子」
隣に座る王子を見つめ、笑顔で言ってみる。いつもの王子を真似た、あの笑顔で。
「王子って本当に親切で優しいお方ですね。穏やかな日差しのようです。ちょうど今みたいな気候で・・・。―はっ!」
周囲の気温がガクンと下がった気がする。あれ、暖かい気候のはずなのにおかしいなぁ。
隣の彼を見て、私は血の気が引いた。
ライト王子が初めて見る表情で、私を見ていたのだ。端正な眉を歪め、鼻に思いっきり皺を寄せている。苦虫を嚙み潰したどころではない。これは・・・地雷を踏んだ。
「フィオレ、言うようになりましたね。以前ならばその言葉に失望したはずですが、今はもう違います。・・・何ですか?まさか、僕の好感度を下げようとしましたか?今更?」
「あれ、音がしない・・・」
「好感度だか何だか知りませんが、僕はもう君への印象は何があっても変わりませんよ。諦めてください」
(デデンもピョロンも何も聞こえない。っていうかあれ、数字が消えてる!?)
―ここにきてまさかの事態。ライト王子の数値が見えなくなってしまった。
閲覧ありがとうございました!
少しずつ数値の謎を明かしていけたらな、と思っています。
宜しければ、ブックマークや評価をしていただけると嬉しいです。