6 見ちゃった
閲覧ありがとうございます!
少しでも楽しんで読んでいただけると幸いです。
ズンズンと歩いていると、目的の人物の姿を捉えた。背が高いから遠くからでも分かる。
分かるのだが、あの中に突っ込んでいく勇気が無い。
(どうしていつも囲まれてるかなぁ・・・。2,4,6,8・・・。わぁ、20人はいる)
「ライト王子!こちらをお召し上がりください!」「王子、明日はお暇ですか?」「いえ、今夜は・・・!?」「良い天気ですね!」
柔和な笑みを絶やさない王子に、キャイキャイと群がる女性。と数人の男性の姿も。
老若男女問わずの人気は健在だ。
「ありがとう。嬉しいお誘いだけれど、今日は予定があって、あ、明日も。申し訳ありません。今度またパーティーを開くから、その時に会ってくれると嬉しいです」
「でも、以前のパーティーってフィオレ嬢のために開かれたものだったのでしょう?」
「あんな女性のどこがいいのかしら・・・。この前もコイオス様と夜に――って噂を聞きましたわ」
「・・・フィオレが?」
私の悪評を嬉々として報告する彼女らの姿に、私は思わず勇み足を踏む。
(「ちがーう!!」と叫んであの輪に突っ込んでいきたい!)
が、勇気が・・・。
今までの選択肢を鑑みると、この程度の噂は百も承知。慣れよう。
これからの行動でフィオレの印象を覆すしか、名誉挽回する方法はないのだから。
「フィオレ嬢より、私達の方が王子を楽しませてあげられますわ」
とある女性がそう言った。
ライト王子をじっと観察していた私は―、
(あ、マズい)
と思った。
―気付いてしまった。
ライト王子は優しくもなんともない。
(・・・多分、こ、こいつは腹黒だ!)
光を宿さない胡乱な目を外に向けて。明らかに気だるげな、彼の裏の顔を見てしまった。
まるで人間に飽きた悪魔みたいな雰囲気。
一瞬でいつもの柔和な笑みに戻ったけれど、私は確信を持った。
あわあわと恐怖する私とは裏腹に、取り巻きの声がだんだん大きくなる。
「コイオス様とフィオレ嬢はお似合いですわ。互いに浮ついてる方同士、合うんじゃないかしら」
「僕は、そうは思わないけど」
「いえいえ!もうお2人の噂は有名ですわ。夜な夜なフィオレ嬢が、コイオス様に会いに城下町に赴いているとか」
「そうそう!あとは、フィオレ嬢の持つ別荘で逢瀬を重ねているとか!」
「へぇ・・・」
(うぐぐ・・・。そんな事実一切ないから。いや、城下町はあるかもしれないけど!その時の私は、コイオスに嫌われに行ってたんだからね!!そう考えると、別荘の件も事実だ!!おぉ・・・。残念ながら、この人たち噓は言ってないんだよね)
これ以上事実を嫌な形で広めて欲しくない。
足を一歩踏み出そうとした・・・が。
「ごめんね、公務があるから」
ライト王子が突然、会話を切り上げてしまった。
(あれ・・・)
(い、いや、なんかこっち向かってない!?)
取り巻く人々を相手にせず、ライト王子がこちらにやってくる。
柱の影で覗きをしていた私に向かって。
(噓噓噓!なんか微妙に怒ってるようにも見える!ここで柱から逃げたら、盗み聞きしていたのがバレるし・・・。どうか、どうか、あっちの通路に行ってくれますように!)
目を瞑って念を送る。
(来るな、来るなー!!)
足音が目の前で止まる。
(あぁ、逃げられない)
ガシッ
痛みを感じる右手には、無骨な手ががっちりと。
怯えた顔で上を見上げる。
「隠れているつもりですか?」
「あ、はは・・・。ご歓談中にすみません」
「行きますよ」
私の腕を掴んだまま、ぐんぐんと城内に入っていくライト王子。
泥棒のバレた盗人ってこんな気持ちかな。
(お、私とお揃いの指輪してる)
現実逃避をしながら、痛む右腕を引かれるがまま歩いた。
ライト王子は人気のない通路で立ち止まる。
「これはどういうことですか?」
私の腕を顔の前に持ち上げて、ライト王子が怪訝な顔をした。
視線の先には、ちょっと傷ついた私の薬指。
「指輪、外そうとしたんですか?僕と別れてすぐに」
ちょっと笑顔が消えた王子に、私は怯えて弁明する。
「ち、違います。違わないけど」
「どっちですか」
「・・・外そうとしました。けど、嫌だったからとかじゃなくて、私のせいで外出を台無しにしてしまったので。ライト王子に申し訳なくて・・・」
「そうですか」
(あれ、意外と普通・・・)
ライト王子の冷静な反応に調子をこいた私は、場を和ませようと笑って話し掛けた。
「さっき見ちゃったんですけど、笑わない王子の顔も素敵ですよ。いっつも笑顔だから騙されちゃってました。人付き合いは大切なのはわかります。でも、それってストレス溜まりますよね・・・。ちゃんと、誰かに素直な感情吐きだしていますか?」
「・・・みが言ったんでしょう」
「・・・?なんてー」
「君が、僕にそうあるべきだと言ったんでしょう?覚えていませんか?いや、覚えていないんでしょうね。いつもそうだ!」
突然、声を荒げたライト王子に思わず私は後ずさる。
(なんの、話・・・)
後ずさる私に、笑顔が張り付いたライト王子がゆっくり近づく。
「10年前、初めて出会った時。君が僕に言った言葉です。『人当たり良くしてれば人が集まるもんです。王子なら、最低限、それくらいの社交性を身に付けるべきですよ』・・・って」
「・・・ぁ」
その言葉。
え、招待面の人に吐く言葉?性格悪くない?って思うその言葉。
(あー!!覚えています!多分、会って一番初めに出てくる選択肢だ!)
①王子の微笑みは、見る者を幸せにする力を持っていますね
②素敵な笑顔に、私も虜になってしまいました
③人当たり良くしてれば人が集まるもんです。王子なら、最低限、それくらいの社交性を身に付けるべきですよ~
笑顔で挨拶をしてくるライト王子に投げかける言葉だ。
①と②は王子を褒めるからって、滅茶苦茶イヤな感じの③を選んだことは記憶している。
多分、青数値が大幅上昇したはず。だから、青=「嫌い」って思ってたんだけど・・・。
(まさか、それが王子の闇に繋がるなんて思いもしないって!)
王子を歪ませたのは私?そう考えると本当に申し訳なくなってくる。
私の好奇心が王子の心の闇を増大させていたのだ。
純粋な王子は消え、表と裏の差が激しい人物になってしまった。
―多分、私のせいだ。
閲覧ありがとうございました!
腕を引っ張って歩くシーンを書きがちなことに気が付きました。
次話を楽しみにして頂けると嬉しいです。