3 完璧なプラン
閲覧ありがとうございます。
ライト王子の攻略開始です。
穏やかな朝。
いつもと違うフィオレの姿を見かけたノーマンが、驚きの声を上げた。
「えっ!フィーちゃん、今からライト王子と出かけるの!?」
「うん。前に酷いことをしたから、その埋め合わせに行くの」
メイドのサーシャと、夜通し作戦を練ったのだ。失敗は許されない。
テーマは、「王子に合わせた豪華絢爛デート」だ。
今の私は、飛びきり豪華で高価な衣装を着ている。
まず向かうのは、貸し切った美術館。そこには絵画や陶芸に造詣の深い専門家を用意し、ライト王子の疑問には全て答えてもらう。
次に、オペラ鑑賞。これは観客がいた方が一体感が生まれるから貸し切りにはしない。その代わり、常に傍に使用人がいるVIP席を予約。
オペラ鑑賞した街では、町一番のジュエリーショップに行って、王子の望むものをプレゼント。私じゃ王子のセンスは分からないから、彼自身に選んでもらうのが安全だろう。
最後に、自然豊かな庭園で素敵なディナー。川のせせらぎをBGMに、美味しい料理に舌鼓を打つ。
(ライト王子は現段階で、赤0の青85。ライト王子に対して下手に回ってご機嫌を伺いつつ、彼を誉めまくる。ふふん。我ながら、なんてかんっぺきな作戦・・・!)
予約や貸し切りの手配はサーシャがやってくれた。
ゲーム内でサーシャに対しては酷い言葉を投げかけたりすることは無いせいか、彼女だけはフィオレの味方でいてくれる。
いや「悪女フィオレ」を演じている間でも、サーシャはフィオレの味方でいてくれた。
・・・うぅサーシャ、優しすぎる。
1人脳内でサーシャに感謝をしていると、少し不満そうなノーマンの顔が見えた。
「ぼくに相談してくれても良かったのに」
「これは私の問題だから、ノーマンを巻き込みたくは無かったの」
「サーシャは巻き込んでもいいの?」
(う。サーシャは好感度を気にせず素で話せる貴重な相手だから・・・。言えないけど)
「知ってる?ライト王子は・・・、フィーちゃんの悪い噂を流してるんだよ?許嫁がいるのに他の男性に現を抜かす、アバズレだって」
「お、おぉ・・・。随分な嫌われよう。でもそう思われても当然のことをしてきたから・・・。いや、王子がそんな汚い言葉使わないから、ただの噂かも・・・?本当だったら怖いなぁ」
(あの王子がそんな下品な言葉使う訳ない・・・よね?)
色んな意味で焦る私に、ノーマンが上目遣いで訴える。
「行かないでよ」
「ぅぐ」
「お願い」
自分の魅力を分かっている仕草に、胸が大きく鼓動する。
立ち絵ばかりのゲームでは摂取出来ない姿が、今目の前にある。ときめかない方が無理だろう。
―が、ここで絆されてはいけない。
【赤45 青60】
最も嫌われていないノーマンとは、今の距離感でいたい。
これ以上彼の好感度を左右したくないのが本音。
「これは私の罪滅ぼしだから。じゃ、ノーマン後でね」
「・・・うん」
デデンという音が聞こえるような、聞こえないような。
ノーマンの肩を優しく叩き、「じゃあね」と逃げるように家を出た。
腕時計をトントン叩いたライト王子が、にっこり笑って待ち構えていた。
(あれ。私よりいい服着てない?)
(嫌いな人とのデートだから、服装から格の差を見せつけてやるぜって魂胆?)
(「僕の衣装に見合った場所に連れて行ってくれるんでしょうね?」って王子様マウント??)
立ち止まる私に、ライト王子はちょっと圧をかけてきた。
「3分24秒の遅刻です。自分から時間を指定しておいて、随分なご到着ですね」
「相変わらず嫌味がお上手で・・・」
「まずはどこに?君のプランが気になるな」
「・・・えっと、美術館に・・・」
「なぜ?」
(おっと、この手の質問は想定外。王子なら綺麗なものを眺めるの好きでしょっていう、浅い考えがバレたかな)
「お、王子と美しい品を見て、共に分かち合いたかったのです。敬愛するライト王子と共に」
「そうですか・・・」
しどろもどろになりながら、何とか王子をよいしょする。本心からの言葉だけれど。
すると、私の頑張りが天に届いたのか。
ピョロン
(わ!これは赤上昇か減少の音!元々0だったからこれはいい傾向!)
と、喜んだのもつかの間。
(え・・・)
愕然として王子(の前に出てきた数値)を凝視する。
(ど、どうして、どうして数値に変化がないの・・・?)
赤は0のままだった。
流れからして今のは赤上昇のはず。であれば、今のは減少?褒めるのは悪手だった?
焦る。が、マイナスにはならなかったのだ。それが分かったことで良しとしよう。
「・・・・どこを見ているんですか?目の前に僕がいるのに無礼ですよ。それとも、気が乗らないのであれば、今日は中止にしますか?僕は構いませんが」
「い、いえ。ちょっと考え事をしていただけなので」
多分、怒ってるんだよね?分かりづらいって・・・。
私はライト王子の笑顔がひたすらに怖かった。
―美術館のライト王子は、あまり楽しんでいない様子だった。
かくいう私は大大大満足。見たことも無い造形の品に、奇妙な絵画。初めて触れる文化に大興奮で、私が専門家を独占してしまったくらい。
(・・・うわ、それが原因だ。きっと私が専門家を独り占めしたから、彼は不機嫌になった)
「まっずい」
今回は、ライト王子接待デートだ。私の独りよがりでは、彼からの好感度が上げられない。
もっと、もっと彼のことを考える必要がある。そうだ。今の私は、「貴族女性」ではなく「お付きのメイド」くらいの心構えでいるべきなのでは?
(ライト王子に不快感を与えない。あわよくば、好意を伝えていくぞ)
次のオペラで挽回だ。
劇場では一番いい席にいた。私達の左右には姿勢の良い劇場の使用人。ちょっと手を挙げるだけで「いかがいたしますか」と言って傍にひかえてくれる。
私は一般人の感覚なので、そんなお姫様扱いは酷くこそばゆい。
が、王子の使用人の精神を意識すると、幾分か気が楽になる。
「あの、フィオレ・・・」
「すみません、ちょっといいですか」
私は隣の使用人に小さく手を振る。
ライト王子が何かを訴えているのだ。ここは、私が使用人を呼べということなのだろう。
騒々しい居酒屋で、困っている小声の友人を手助けする感覚だ。
「どうしました」
パリッとした背広の使用人が私に問いかける。
「ライト王子が何かを―・・・」
「いえ、平気です」
「えっ、でもいま」
「すみません、お騒がせしました」
ライト王子は私に一切視線を寄こさないで、前を向く。
その横顔は滅茶苦茶に綺麗で。笑顔ばかりの彼の真顔を、見たことは無かったかもしれない。
(フィオレを嫌ってなければ、このシチュエーションは最高なんだけどな・・・)
―その後、ライト王子は劇場で一切口を開くことは無かった。
閲覧ありがとうございました!
もう少し読んでいただきたいので、今日はもう一話投稿させて頂きます。
お時間のある時に楽しんでいただけると嬉しいです!