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2 親の仇

閲覧ありがとうございます。

青と赤の数値はややこしいですが、『青が高くなると主人公が焦る』くらいの認識で大丈夫です。


ネガティブ思考から復活した私は、立ち上がり、足を踏み出す。


と、視界の端で人影が見えた。木陰に隠れて、座って、いや、寝てる・・・?


そーっと人影を覗き込むと、男性の寝顔が見えた。

恐ろしく端正で、泣きぼくろが魅力的だ。


フォン


(赤20 青70。ジークよりは安全)


「・・・あれ?フィオレ?」

「おはよう、コイオス。こんなところで昼寝?」

「あぁ。呼ばれたのはいいけど、酷くつまらないからね。ここで暇を潰してたって所さ」


コイオスは紫の髪をサラサラと揺らしながら起き上がり、ニコッと笑う。


「フィオレも一緒に寝る?」

「遠慮するわ」


相変わらずキザな男だ。

ちょっと垂れ目でカッコよくて、人当たりが良くてカッコいいからって。


「そう。君みたいな女は簡単にオーケーすると思ったんだけど」

「くっ・・・」

「誰かいい人を見つけられた?誰かれ構わずその顔と体で誘っておいて、誰も愛さない。君は罪深くて、同時に目障りな女だ。君を愛せる人なんか、この世界中に一人いるかいないかじゃない?あははっ!オレはいない方に賭けるね」

「っ・・・」


ジークとは違う嫌われ方。ま、仕方ない。これも私の自業自得。


だって、私はコイオスから嫌われるために有象無象の女性と同じ反応をしてきたから。

彼の美貌に目が眩み、彼の甘い言葉を本気にする馬鹿な女。

コイオスは自分の容姿にしか興味が無い人を嫌悪する。

何となくそう思ったから、私はひたすらフィオレを「その辺の女性」みたいに行動させたのだ。

その罪が全部私に返ってくるなんて・・・。


ただ、コイオスが愛に飢えた生い立ちであることを知っているので、彼の愛を弄ぶ選択はあまり気が進まなかった。

そのせいか今のところ、ジークよりは嫌われていない、という位置にいるようだ。


「ま、まぁ。私だっていつまでも孤独なままじゃないからね」

「へぇ?」


デデン


(う、わ。思わず言い返したら青+5!嫌い度75になっちゃった!!)


「誰?言ってみなよ。いつもべったりな幼馴染?啖呵を切ったライト王子?あぁ、もしかして娼館で会ったって噂の人?」

「私は娼館なんか行かないし、誰とも体の関係は無い。根も葉もないことを広めるのはやめて」

「そうだね。君は・・・オレの誘いに本気では乗ってこなかった」


(全年齢のゲームだからね!)


「私にだって理性はある。コイオスは・・・、話が面白いって理由で構ってあげてただけだから」

「話、ねぇ」


ピョロン


(赤+10 青に変化なし・・・。数値上昇の基準が分からない)


「じゃ、私忙しいから。コイオスも他の人に目を向けてみなよ。あなたにも運命の相手、見つかるかもね」

「ふん。君にだけは言われたくない」


ピョロン


(あ、赤−15!?何で!?)


困惑する私を他所に、コイオスは立ち上がって消えてしまった。


ゲームであれば選択肢は3つだから絞りやすかったが、今は私の頭で考えた言葉で会話をしている。

だからか、予測できない数値の変化が起こってしまっているのだ。

迂闊に発言をすると、最悪なルートに突入しかねない。一言一言に気を付けなければ。





長い列の間で握りこぶしをつくる。ぎゅっと握った両手を引き寄せ、気合を入れた。


「ついに、ついに行くぞ・・・」


そう。パーティーの主催者、ライト王子への挨拶だ。

私が彼を焚きつけたのだから、挨拶に行くのが筋ってもんだろう。


(どうか、嫌い度60くらいで・・・!)


優しいライト王子のことだから、人を嫌う心は持ち合わせていないと信じたい。

フィオレの突拍子もない選択肢に顔を引きつらせて困る表情が見たかったからって、「自己中高飛車高慢ちき女」を演じていたことは棚に上げる。


遠くから見えるライト王子は、見ているだけでストレスが軽減されていく。

淡い白髪に柔和な笑み。誰にでも人当たりが良く、気遣いのできる完璧王子。

ライト王子との恋愛ルートでは、人付き合いに疲れた彼をフィオレがそっと抱きしめていた。


「ありがとう」と笑顔で対応する王子に、参列者が甘い溜息を漏らす。

遠くから王子を見つめる真剣な眼差しがいくつも。男女構わず彼に魅了されている。


(こんな素敵王子が人を嫌いになるとか、有り得る?)


謎の自信がついた私は、ライト王子の前で膝を曲げて挨拶する。

前の人のを必死に真似た。

王子の前の作法なんか一般人の私が分かる訳ない。


膝を戻しつつ、ライト王子と視線を合わせる。


フォン


(きたきた。数値はいくつかな。この王子が人を嫌うなんてね、ナイナイ。ジークから一番嫌われてるってことで、まず攻略はあの騎士様からかー、なん、て・・・。なんてー・・・)


「え?」


目を疑う。お、おかしいな・・・。


(赤0 青90!?うっそーん!親の仇レベルじゃん!!!)


「フィオレ、来てくれたんですね」

「は、はい。私が啖呵を切ってしまいましたから・・・」

「えぇ。貴方よりいい女性を見つけようと思ったんですが、なかなかお目に掛かれませんね・・・」


(どっちの意味!?褒められ・・・、いや、嫌われてるから、高度な嫌味にしか思えないのだけれど!)


「あ、ありがとうございます。・・・王子も平素とお変わりなく、す、素敵でいらっしゃいますね。王子の輝きの前では、他の男性も霞むというものですね・・・はは」

「フィオレにそう言って貰えて嬉しいよ」


シーン


あれ、数値に変化がない。今はわかりやすく褒めたつもりだ。

こうやって褒めていれば赤上昇か、青減少のどちらかだと思っていた。


「・・・で。君は満足した?フィオレが希望したから、この会をわざわざ開いたのだけれど。君からは何も見返りが無いのかな?」

「ぅ、えーと。そのですね、えーと」


おかしいぞ。全然優しくない。むしろ敵意マシマシ。

最悪な対応をしてきたからか、かくの優しい王子様も怒りを隠せないご様子。


私は視線をうろつかせながらもごもご言った。


「あの・・・。以前、すっぽかし・・・、じゃなくて反故にしてしまった、約束を・・・ですね。果たしたいと・・・」

「あぁ、君が欲しがったから、わざわざ用意した服や馬車。君が行きたいと強請ったレストラン、劇場の貸し切り。それらを全て台無しにして、フィオレが他の男性と夜会に行っていた日のことですか?」

「え、えぇ。それです。その件は本当に申し訳ございませんと思っておりまして・・・」


(あの時の私!馬鹿!!「ライト王子ならすぐ私以外の女性見つかるでしょ~」って思って、大切な約束すっぽかしたんだった・・・。後日談が特にないから、そこまで怒ってないと思ってたのに。多分、いや絶対。ブチ切れてるよね・・・。そりゃ嫌い度90にもなるって!)


「次は君から僕を誘ってくださいね。安心してください。僕はフィオレと違って、約束は守るから」


(耳に痛い!それで、何でこの人ずっと笑顔なの!!)


「あ、はい!お優しくて高貴なライト王子が満足できる、高尚で綿密な計画を練っておきます!必ずや、ご満足いただけるよう努めさせていただく所存です・・・」

「期待はしないでおくよ」


何だか権力を前に、ゴマをする三下みたいな台詞になった。

これはいい機会だ。フィオレの名誉挽回のためにライト王子からの好感度を手に入れよう。


―と、あの音が聞こえる。


デデン


(青−5!!今ので!?)


どういうこと?今ので「嫌い度」が減った?

・・・権力に屈した三下ムーブが功を奏すとは思わなかった。

ライト王子からの青数値を下げるには、彼に一貫してゴマすりムーブをすればよいという事だ。


(あらら。優しき王子の裏の顔を見ちゃった気分・・・)


これがギャップってやつなのだろうか。少し残念なような。ライト王子にも王子としてのプライドがあったと安心するような。


青減少は嬉しいが、他にも問題は残っている。

好き度を示す赤が0なのだ。

ライト王子はフィオレに一切好感を抱いていないのは、由々しき事態。


(まず最優先はライト王子。幸運にも、私には約束を破った罰を名誉挽回する機会が与えられた。そこで、赤青両方の数値50を目指す!)


エイエイオーと影で一人、握りこぶしを突き上げる。

―その姿を、ライトは冷ややかな目で見ていた。


閲覧ありがとうございました!

次話を楽しみにしていただけると幸いです。


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