1 始まり
閲覧ありがとうございます!
フィオレの作戦開始です。
青い綺麗なドレスに身を包んだ私は、自室でじっと考え込む。
(そういえば、このゲームはフィオレが20歳になると、許嫁と結婚するって設定だったはず。・・・で、その許嫁との結婚を阻止する4人の攻略キャラなんだよね)
「ん?じゃあ・・・20歳になるまで乗り切れば安泰ってコト・・・!?」
許嫁の描写はあまりなかったけれど、結婚しちゃえばこっちのもんだ。
どうせゲームに出てこない許嫁は平凡な普通の男性だろうし。
あまりにも年上だったら、ちょっと困惑するけど、まぁ、いいだろう。
悪女フィオレを受け入れてくれる男性ならば誰でもいい。
とりあえず当面の目標は、
「4人の好感度戻しつつ(青の数値を下げつつ)、20歳まで何とかやり過ごす」
これに決定っ!
意気揚々と部屋を出ると、
「あ、フィーちゃん!」
この声は!童顔でフワフワした金髪が特徴的な・・・っ!
「ノーマン!待っててくれたの?」
幼馴染。わんこ系のノーマンだ。
フォン
彼と言葉を交わした瞬間、目の前にサッと数字が出てきた。
【赤30 青60】
(嫌い度は60。好き度が30ってことは、足して100になるわけじゃないみたい)
ノーマンからの好感度はまずまずだ。
どちらかと言えばちょっと嫌い、くらいか。
私はわんこ系に弱い。
だから、自分の事を気に掛けてくれる幼馴染を邪険にし続けるのは罪悪感があった。
好感度を下げるために泣く泣く頑張ったのは、記憶に新しい。
ノーマンにしつこく他の女の子の話をしたり、王子様との大恋愛を夢見るそぶりを見せたり。
でも、一度だけ悪になれなかったことがある。
年下のノーマンに「お子様には興味無いから」と言い放ち、彼の手を勢いよく振りほどく選択肢があったのだが・・・、流石に選べなかった。一緒に育ってきたノーマンが可哀そうだったし。年下好きだし。
でもまぁ、フィオレに好意を寄せるノーマンに、「お前はアウトオブ眼中」という態度を取り続けた。それが精一杯だった。
申し訳ない、ノーマン。
「わぁ、可愛いよフィーちゃん」
「ありがとう。ノーマンも似合ってる」
ピョロン
(ん?赤+5・・・?)
しまった。ノーマンを気軽に褒めてしまったばっかりに、簡単に好感度が上昇した。
これだからイージーモードは嫌なんだって!
迂闊な発言をすると、赤が100になって強制入籍ルートになりかねない。
バッドエンドよりはマシだけれど・・・。
正直、正直に言うと、もっとこの美少女の姿でチヤホヤされたいという欲望があるのだ。
まだ誰かのものになりたくはない。
だってイケメンがフィオレを取り合うシーンなんて、ゲームでも見たことない!
「ラ、ライト王子に会うのだから最高の自分を見せたいじゃない?」
「あ、そう・・・、だよね。ぼくの為じゃ、ないんだよね・・・」
「えぇ。だからノーマンからの賛辞は要らないわ」
「・・・うん、ごめん」
デデン
今度は「嫌い度」が上昇した音だ。
(青+5・・・。赤は減らないの・・?まぁいっか)
今の選択で赤が減らなかったのは想定外だ。
ノーマンからの嫌い度が65になってしまった。
が、こうやって好感度を調節していれば、希望の未来に辿り着けるだろう。
・・・ノーマンのしょげた姿に、ちょっとばかり胸が痛んだ。
「フィーちゃん、ぼくの手を握って」
「平気、ありがとう」
「気を付けて降りてね」
馬車から自力で降り、ヒールを地面につける。
ノーマンの手をこの華奢な両手でがっしり握ってやりたいのだが、好感度の爆上昇が怖かった。
かといって邪険に扱い過ぎると、「嫌い度」が上がってしまう。
いい塩梅で彼をいなすのは、かなり難易度が高い。
「やっぱりエメラルド城は大きいね」
「そうね。参加者も大勢いるわ」
「フィーちゃんがライト王子に宣戦布告したって聞いたけど、本当?」
「え?・・・えぇまぁ。私より素敵な女性がいないことを証明してあげるって言ったの」
「それはどうして?」
ノーマンがつぶらな瞳で問いかける。色素の薄い瞳は私の好みドンピシャ。
(あぁやっぱりノーマンはいい!・・・じゃなくて、)
(好感度下げまくったらどうなるのか試してたんだ、なんて言える訳ないしな・・・)
ブンブンと頭を振る私に、ノーマンがぼそっと言った。
「ライト王子が好きなの?」
「え?」
「フィーちゃん、ライト王子の前だと素っていうか・・・。よく話すっていうか・・・」
「・・・そう?」
「そう見えるよ」
「よく分からないけど、ノーマンを嫌ってるわけじゃないよ。ノーマンも良いところあると思うし・・・」
答えになっていない、適当な返答。しかし、
ピョロン
デデン
(お。赤+10、青−5!)
数値に良い変化があった。
嬉しいことに、青が減ることが証明された。
青が60に戻り、赤が45。
「想いのネックレス」は私の胸元にあるから、赤が40を超えても強制的にノーマンルートになることはないだろう。
(うん。両方の数値を50に保つのが理想かな。赤上昇でいきなりラブラブエンドは避けたいし)
「じゃあ、またね」
「えっ、フィーちゃん・・・!あ・・・」
これ以上ノーマンと会話をしてはいけない。
今の状態が彼と私にとってのベストだ。
驚くノーマンを置き去りにして、私は適当にスタスタ歩いた。
(あれ、思ったより見られる・・・)
華美な服装に身を包んだフィオレは目立つ。
良い意味か悪い意味か。
この美しい姿は非常に人目を惹くのだ。
ヒソヒソと聞こえる声が煩わしくて、思わず下を向いてしまった。
ドンッ
「あたっ」
「・・・・・・・・・・・」
頭に固いものがあたり、鈍い痛みが走る。
頭部を擦りながら上を見上げると・・・、
フォン
(赤10 青・・・80!?数値が可視化されたという事は、攻略キャラ・・・)
その前に、青80は危険数値なのではないだろうか?相っ当嫌われている。
・・・ライト王子じゃないとしたら、私が率先して好感度を下げたキャラは絞られる。
鎧が印象的な、クールな黒髪男子。
「・・・ジーク」
「さっさと消えろ」
「うっ」
なかなかのストレートパンチ。出会いがしらの口撃に心が抉られる。
この嫌われようは、当然の報いだ。
ジークはツンデレキャラであるため、ちょっとばかりキツイ選択肢を選んでも、他に比べて罪悪感が無かったのだ。
ひたすら嫌味な女を演じてしまったのは、そう。仕方ないんだ。
そもそもジークがキツイ言葉を投げかける場面が多かったため、私も「そのお返しだ!」程度にしか思っていなかった。
・・・まぁ、キツイ言葉は愛情の裏返しだったというオチなのだが。
「ご、ごめんなさい」
「それは何の謝罪だ?相変わらず、上辺だけ取り繕うのが上手だな」
(決まってるでしょ!「貴方だけに」って言って渡したお菓子を実は全員に配っていたことや、「2人っきりのデートをしましょう」って誘ったくせに、ただの荷物持ちとして、一日中扱き使ったこと全てへの謝罪!!)
胸のうちで懺悔する。が、彼に伝わる訳もなく。
「無様だな。その繰り返しだと、誰からも見向きされなくなるぞ」
「・・・その通り、ね」
「分かったら、その性悪を直す努力をしろ。まぁ、今更無理だろうけどな。どけ邪魔だ」
と冷たく言い、ジークは去ってしまった。
おまけに私の肩にちょっとぶつかってくるし。周囲の目が痛いし。体も心も痛む。
そして依然、数値に変化なし。
嫌い度が上がらなかっただけ儲けものかもしれない、と自分を慰める。
「はぁ~・・・」
溜め息を吐いてうずくまった。
(そりゃそうだ。私が嫌な女になるようにしたんだから、ジークは当然の反応をしただけ。いちいち傷ついていたらキリがない)
分かってはいても、人から嫌われるのは辛いものがある。
出会いがしらの「消えろ」パンチ。
去り際の鎧の肩ドン。
もう彼と関わらない方がいいんじゃないか。
交流しなければ、こうやって傷つくことも無いし、彼から嫌われることも無い。
(いや、でも、)
(私のフィオレが嫌われたままでいいの?フィオレの信頼を下げたのが私なら、上げるのも私の役目じゃないの?)
「うん!決めた!フィオレを皆から好かれる、完璧美女にして見せる!!」
復活。
立ち上がった私は、人々の群れに足を踏み出した。
閲覧ありがとうございました。
次話は残りの攻略キャラが登場します!
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