いつもは普通の女の子だけど有事には正義の味方として戦う私の話
私は魔法少女である。
私は、スワイト王国にあるルーハイネス初等学校6年A組にしょぞくする、普通の女の子。国語と体育が得意で、音楽はちょっと苦手。
そんな私はなんと、「宝石探偵団」の一員なのである。
今から二年前のある日、学校帰りだった私は知らない女の人に声を掛けられた。いつもパパから、「知らない人についていったらだめだよ! パパ泣いちゃうからね!」と言われていたから当然けいかいしたけど、女の人は王国政府の職員のめいしを出してきた。
ハワード女史、というその人は、政府の人間だった。ハワード女史が担当するのは、「宝石探偵団」と呼ばれる団体で、私には探偵団員になるそしつがあるということだった。
この世には、ふしぎな力を持った宝石が存在する。それはとても強い力を持っていて、使い方を間違えると危険な存在になってしまう。これまでにも悪い人たちが宝石を使ってはんざいをおかそうとしたことが、何度もあるそうだ。
宝石のことをみんなに知らせると、しゅーちてってーできるけれど、逆に宝石に興味を持って悪だくみをする人が出てくるかもしれない。だからこのそしきは政府の中でも秘密にされていて、ほとんどの人はその存在を知らないそうだ。
「宝石探偵団」の団員になって宝石回収をしたり悪い人と戦ったりできるのは、魔法少女に変身して探偵団員として戦う才能のある十さいから十五さいくらいまでの女の子だけらしい。
ほとんどの探偵団員は中等学校を卒業する前には力を失ってしまうので、ハワード女史は才能のある女の子を見つけては政府に連れて行っているそうだ。
探偵団員になるというのは、パパやママに教えることもできない。でも政府は私たちのことをしっかりサポートすると宣言しているし、学校の時間とかも考えてくれている。
かなり悩んだけれど……悪い人がいるのは許せないから、私はハワード女史の説明を聞いて探偵団員になることにした。
今日は、学校が昼過ぎで終わった。
私は一旦家に帰って荷物を置いて、仲間との待ち合わせ場所である空き地に向かった。
「あ、やっと来た、ハート!」
急いで走る私の姿を見て、仲間たちが言った。
ハートとは、私のコードネームのことだ。探偵団員は本名で呼ばずに、コードネームで呼び合う。本当はスペード、クラブ、ダイヤ、みんなの本当の名前を知っているし中にはクラスメートもいるけど、お仕事中はちゃんとコードネームで呼んでいる。
「ごめん! パパがなかなか行かせてくれなくってさぁ」
「ハートのパパって、本当にカホゴよねぇ」
「でも、どうやってそんなカホゴなパパから逃げたの?」
「ママを差し出した」
パパは私や私の弟や妹たちのことが大好きだけど、それよりもママの方が好きだから、ママに身代わりになってもらいその間にこっそり家を出てきた。
それはいいとして。
メンバーがそろったことだし、作戦会議だ。
「今日はどうするんだっけ?」
スペードが言うと、さんぼーやくのダイヤがかばんから封筒を出した。
「これ、さっきハワード女史からもらったの。この前、北B地区の商店街で新種の宝石のもくげきじょうほうがあったそうなの」
「それを回収すればいいのね!」
行動的だけどちょっとせっかちなクラブが言ったから、しんちょうはのダイヤは呆れた顔になった。
「そんなかんたんな話じゃないのよ。どうやら、商店街の中では『願いの叶うお守り』として人気になっているそうなの」
「まだだれにも触れられていないよね?」
「うん、ガラスケースに入って展示されているっぽい」
「ははぁ。それはちょっと回収するのが難しそうね」
スペードが言ったのでダイヤはうなずいて、かばんから小さな箱を出した。
「時間になったら、政府の人たちがよーどーさくせんに出てくれるそうなの。だから私たちは一般人がカクランされている間に宝石を回収して、この偽物とすり替えておくのよ」
「なるほどね!」
「よし、それじゃあ北B地区に行こう!」
私たちはさっそく、本日のお仕事場所に向かったのだった。
仕事を終えたら、もうすっかり夕方になっていた。
「いやー、つかれたつかれた!」
「でも、無事に宝石を回収できてよかったね!」
回収した宝石をハワード女史に渡した私たちは、家に帰っていた。
ハワード女史からは、「今回もありがとうございました」ととってもきれいな笑顔で言ってもらった。回収した宝石は政府がきちんと管理して、悪い人の手に渡らないようにしてくれる。
「それにしても、まさか今日もあの人が出てくるとはね」
「ミスター・ジョーカーね。本当にあの人、シンシュツキボツよねぇ」
ダイヤとクラブが話題にしているのは、私たちのライバル……のような敵……のような存在の男の人のことだ。
ミスター・ジョーカーというのは、宝石泥棒の名前だ。
私たちが回収する任務を受けている宝石を、彼もねらっているらしい。時々私たちの前に現れて一足先に宝石を手にしているけれど、なんだかんだ言って最後には宝石を譲ってくれる。「僕のやりたかったことは、もう終わったんだよ」とか言って。
「ナゾだよねぇ、あの人」
「ハワード女史が言うに、あの人は昔からいるらしいよ」
「昔から? でも、それにしては若くない?」
「うんうん、二十さいくらいに見える」
「もしかしたら、ミスター・ジョーカーは年を取らないのかもしれないよ?」
「ええー、それはないでしょ!」
「あたしたちと同じように、代替わりしてるんじゃないの?」
「どうなんだろうねぇ。でも、聞いても教えてくれそうにないし」
きらきらの衣装を着てさっそうと現れるミスター・ジョーカーは、一応私たちのライバルではあるけれどたまに助けられたりするし……嫌いにはなれない。
そんな話をしながらぶらぶら歩いていると、うで時計を見たスペードが「あっ」と声を上げた。
「……あ、もうこんな時間じゃん!」
「え、やば!」
「ハートのところとか、パパが泣きさけんでいるんじゃないの?」
「うわー、それは近所メーワクだから早く帰らないと!」
ひとまずハワード女史への報告も終わっていることだし、私はみんなにバイバイを言って急いで家に帰った。
家に帰るとダイヤの予想通り、パパがさめざめと泣いていた。
「あ、あああ! マイエンジェル、よく帰ってきてくれた! 気がついたらおまえがいなくなっていて、パパはどうしようかと困っていたんだよ……!」
ソファに顔を突っ込んで泣いていたパパは、私の顔を見るとぱっと立ち上がって抱きしめてきた。
「ごめんなさい、パパ。でも、大事な用事があったから……」
「そうか……マイエンジェルにも、事情があるんだな。だがっ! 頼むから出かける前にはちゃんとパパに一言言ってくれ!」
「言ったんだけど、パパが離してくれなかったんじゃないの」
だからパパの大好きなママを身代わりにしたのに……覚えていないのかなぁ?
「あ、お帰り、アイナ」
「ママ、ただいま!」
「あれからパパの相手をするの、大変だったのよ」
「ごめんごめん」
えへ、と舌を出すと、ママはちょっと呆れた顔になったけれど「手を洗ってきなさい」とだけ言った。向こうの部屋から、弟と妹たちが「おねえちゃんがかえってきた!」と喜ぶ声が聞こえてきた。
ああ、今日も我が家は平和だ。
この平和を守れて、本当によかった。
私の名前は、アイナ・クーパー。
明日も明後日も私は魔法少女として、この世界の平和のために戦う。
☆登場人物紹介☆
アイナ
ルーハイネス初等学校 6年生の 女の子。
じつは 『宝石探偵団』の メンバーで 悪い人から ふしぎな宝石を 守るために 戦っている。
家族は、 パパとママと 弟2人と 妹。
ミスター・ジョーカー
アリエルたちの 前に あらわれる ナゾの男性。 宝石を ねらっている。
辛口の カレーライスが 大好きで、 ひまがあれば カレーライスの ことばかり 考えている。
パパ
アイナの お父さん。34さい。
とても かっこよくて おしゃれ。アイナたちのことが 大好きだけど ママのことが いちばん好き。
政府の 教育庁で はたらいている。
ママ
アイナの お母さん。36さい。
おっとりしていて やさしい。アイナが うまれる 前までは 学校の 先生を していて、 そこで パパと 出会ったらしい。
ハワード女史
政府の 職員。アイナたちの 担当。27さい。
しっかり者で ちょっとおちゃめな ところもある。
中等学校卒業まで 『宝石探偵団』の 一員だったらしい。
初等学校の ころの クラスメートと 結婚する 前の 名字は、 マクナルティ。