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一
僕はいつも不思議に思うのである、と頭の中で呟きつつ吉村夏彦はコーヒーを飲んだ。
夏彦の座るテラス席と目隠しに植えられただろうローズマリーで隔てられた車寄せには、美女と超高級車と、その両方の所有者であろう男性がドアマンに車を預けていた。
本日、二杯目のコーヒーを飲み干しながら、何故にすすんで余計な苦労を背負い込むのだろうと、男性を眺めた。
美女と超高級車の維持費を稼ぐ苦役と得られる利益とを比べたら、人生の精神的決算は赤字ではないか。漢籍では昔から名馬と美女に乗るのは阿保と言われているくらいである。
だからこそ、自身が座る丸いテーブルへと女性が近づいてくるのを視認して舌打ちした。何故なら、この人物もまた、維持費が天井知らずな人品の持ち主だったからだ。
この女性は自身に稼ぎのある人で邪険にされる覚えはなかったが、夏彦は僕の安息はここまでであると軽い笑顔を作った。