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厄災龍になりました。  作者: 鰹会
厄災竜の一人旅
9/9

1、 始まりの足跡



 翼を軽く一つ打ち、体を旋回させて地に降りる───。


村の気配がする。·····具体的には無数の人間の気配だが。


····。自分で考えても異常な感覚だ。気配がハッキリと実体を持ってつかめる。


それも数キロ先の───、



 クルンと一回転し、人間フォームで着地する。···それと同時に、さっきまでうるさい程存在を主張していた無数の気配が静まる。


 どうやら人間の姿は、竜の姿ほど高性能ではないようだ。

まぁ、それでも普通の人間とはスペックが明らかに違うが····。


 「ホップ!ステップ!···ジャーンプ!」


軽く三度飛び跳ね、助走をつけるだけで、30メートルはありそうな大きな木を軽々と飛び越えられる。


「セイ!」


 土を少し跳ね飛ばしながらも、静かに着地する。試しに、目の前にあった木に正拳突きをしてみると、ズドーン──、と重い音がして木に穴が空いた。



「あ、やべ···」


 村って近かったっけ·····?結構遠かった筈だけど·····人間姿だと確認できない。

 音、聞こえてないよね?


 そんなことを考えていると、メキメキという音が聞こえる·····、


見ると、木が倒れかけていた。


「うぉぉ!?」


 素早く木の反対側に回り込み、倒れ込んできた木の幹を両手でホールドする。少なくとも1トンはある樹木の重みを胸で受け止め、全身で抑え込む。


──おぉ!いけてるいけてる、いい感じだぞ!?


 やじろべえ状態だった倒木の揺れを止め、ゆっくりと左腕を伝わせて地面に落とす。


 「ふぅー····」


しかしこの木·····どうしよう。

 ·····そうだ!木刀でも作ろう!


 竜の姿になって、禍々しい灰色の爪で木を引っ掻く──。



「うん·····ムリっすね」


 十数分は粘り、なんとかそれらしい形に切り出せたが、木刀というか木の棒だ。


 刀の要素がどこにもない·····。


 「ほっ、ほっ!」


 剣道をやっていたので、それなりに様になる素振りはできる·····が、これじゃない。


 「こうか?」


 片手に持ち替えて、体ごと回転させながら真横に振るう───、·····いや、違う。

やはり両手に持ち直す·····木刀の真上から包むように掴み─────、めちゃくちゃに振り回す····。



 「これだ」


 多少は不格好かもしれないが、前世では絶対にできない動きだ。生木なので、当然だが普通の木刀より幾許かずっしりとしている(あとなんかちょっと湿ってる)···。


 縦横斜めと高速で宙を斬りまくっているので、手の内にかかる遠心力は馬鹿にならない。だが、この強靱な体はその滅茶苦茶な重みに引っ張られることもない。


 今のところ、腕も引きちぎれそうな気配はない。


「前世の体なら千切れてたな、うん。」


 とりあえず木刀を地面に突き刺して、体を改めて調べる。


 服は丈の長いローブ····と言うのだろうか。竜形態の時の肌と同じで、くすんだ灰色だ。フードも着いていて、なんとも厨二心がくすぐられる。

 この服は、人間姿になった時に勝手に出てくる。個人的には、竜から人間に変わる時にそれらしい器官に変わる事が出来なかった鱗がこの衣服に変化しているんじゃないかと思っているが····もしそうなら、俺はこの服を失くすと大変な事になる訳だ。


 あれ、風呂は?

·····。


 気を取り直して視線を落とす。


腹筋は、割れてる·····良かったぁ。

あとずっと気になっていたが、髪も灰色らしい。


 厄災竜だからってなんでも灰色にしていい訳じゃねぇんだぞ!ちくしょうめぇ!ふー、ふー·····。


 デザインに対する謎の憤りを顕にしながら、村があるであろう方角に向かって進む。



 しっかし、ローブに木刀は合わないな·····。

やっぱ捨てよっかな·····。


あ、そうだ!こうしよう·····




◇◇◇





 昼下がりの辺境の村───、農作業中の村人達から物珍しい視線を受けながら、白い騎士服を纏った二人の騎士が進む·····。


「しかし隊長····。なんだってまたこんな所に·····?」


中央の市場では、あまり目にする機会のない農作物がずらりと植えられた畑を横目に、赤髪の背の低い騎士が問いかける。



 「知らん····。だが、〝星灯り〟の言う事は基本的に外れん」


 低く唸るような声で、最低限の返事をして、〝鬼岩剛火きがんごうか〟は、肩に大斧を担ぎ直した。


 「そりゃ、訳もなく第二番隊の主戦力を割くとは思えないけどさー」


 子供特有の甲高い声で納得いかない感じを出しながら、首をコキリとならした、第二番隊、副隊長〝炎尽えんじん〟の リネエル・キャトロニス が、可愛らしい顔に猛獣のような瞳を燃え上がらせる·····。


 「わざわざ団員を連れずに、僕らだけで行けって事はさ、やっぱ強敵かな?」


 腰に下げられた、赤い宝石の埋め込まれた騎士剣を撫でながら、リネエルは好戦的な笑みを浮かべる。その、全てを燃やし尽くす爆炎の様な覇気を隣に感じながら、〝鬼岩剛火〟はその茶色い顎鬚を撫でる。


 「誰ぞに宿を借りて、明日に備えるとしよう····」






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