序 端書き 墓標
急激な成長に混乱すると思ったが、人間姿では大した影響はなかった。転生前もこの位の歳だったからかもしれない。
····問題は竜の姿だ。
羽こそあるものの、動かし方がイマイチ分からない。
バタバタと何度も試し、結局コツを掴むのに丸一日かかった。
初めて飛んだ空は、とても心地よかった····。
灰色の艶やかな鱗を流れていく風を、力強い両翼で押しながら、俺は自分という存在が、あるべき場所にあるという事がどれほど落ち着くものか身に染みて理解した。
飛んでいるうちに、1つの小高い山を見つけた。
「ここにするか···」
その頂上に、静かに降り立ち、穴が掘れるように念じる。
そう。念じるだけだ。
おかしな事かもしれないが、今の俺にはそれが出来るという謎の自信があった。
地面の土が、石が·····落ち葉を持ち上げて浮き上がる。
「行ってくるよ、母さん。」
〝母なる竜、ここに眠る〟
────少しくさいセリフかもしれないが、これ以上に刻む言葉は見つからなかった。
石の墓標を、埋めた地面の上にそっと置く。
ついでに、そこら辺から拾ってきた木の種に土をかぶせる。
そしてまた念じる───、
ポンっと、某ジ○リのトロールの力の如く、土に青い芽が出る····。
するとその芽は、早送りのようにぐんぐんと伸びて、やがて·····
桜になった────。
しかも満開·····。
「なんでだよっ!」
種拾ったの杉っぽい木の根元だぞ?
周りに桜っぽい木とか生えてなかったし·····。
もしかして俺が無意識のうちに桜になるように念じていたのだろうか。
ない話ではない·····確かに植える前に、この木はちょっとお墓には合わないかな、とか思ったし、多分今の俺は植物の種類を変える事もできる。
人の姿で、桜に手を合わす。
自由になった喜びと、母の死の悲しみなど、一緒くたになった感情が、落ち着いていく····。
目を開けて立ち上がる────、
今はただ、龍の本能として、未知の冒険に対する興奮だけが胸に渦を巻いていた。
「行ってきます」
もう一度····桜を見上げながら、今度は全ての物に挨拶して、俺は地面を蹴る───。
竜の脚力で、周囲の空気を置き去りにしながら、俺は冒険の旅を始めた·····
「最高だな···」