序 端書き 母と子と
温かな幸福感が体を包み込む
目を開けると自分は、一頭の大きな白竜の腕に抱かれていた。
····母親·····
白竜の目から涙が零れ落ちる
傷だらけの俺の体に涙が触れる
傷が塞がっていく
鈍い灰色に輝く鱗、灰色の翼·····
気が付けば、俺は生まれて初めて完全な肉体で地面に立っていた。
「あァ····まさか何故····こんな事に····」
俺を地面にそっと下ろした竜が呟く
「間違いだった·····間違いだった·····」
白竜が俺の体を爪でサッと撫でると、俺の体は一瞬で子竜から人間の赤子に変わった
え?あれ?
人間·····?
赤子に姿を変えた俺を見て、白竜が嘆く
「先祖の過ち·····正すべくは子孫·····」
頭に白竜の手が軽く乗る
「血脈の力と、罪業を····《インへリア》」
白竜の呪文が終わると、突如体が燃える様に熱くなった。
あちぃ!何が起きてる?
内側から発する様な灼熱と共に俺の体が急成長していく。
赤子から少年に、少年から青年に·····。
やがて体の燃える様な痛みは消えて、後には高校生程の青年に成長した俺と、大量の鱗が剥がれ、やつれ果てた白竜がいた。
「遥か昔····人に恋をした竜がいた。それが私の先祖だ。」
やがて竜は人でも竜でもない存在を産んだ····更にその存在と人間との間に産まれたのが今の竜人なのだそうだ。
·····と言われても竜人を見た事が無い俺にはどうもよく分からない。
「疑問はあるだろうが聞いてくれ····私にはもう時間が残されていない····」
!?
死ぬのか?
「死ぬ····いや、限りなく死に近い存在となる。」
なんで!
もしかして俺を回復させる為に····
「違う···誓約だ。ここに来た時点で死は確定していた。」
母は父と何かしらの誓約をしていたのだろう。
最も、頭では分かっても飲み込む事は出来ないが。
「これはせめてもの足掻き····私からのささやかな復讐·····。」
母親は俺に力を与えた····感覚で分かる。
体に力が漲っているからだ。
五感もさっきまでとは比べ物にならない位に研ぎ澄まされている。
「ともかく、私の祖先は人の血を汲んだ·····」
そしてその血がたまたま強く出てしまったのが俺だ。
国の守護竜である父竜は、人間と竜のどっちでもない不気味な俺をこの切株の中に捨てた。
俺の体は灰色だ。
この世界には古くから、体色が灰色の竜は厄災竜として忌み嫌われてきた。
国を守る竜が厄災の竜を育てていては、少し大袈裟に言うと、国家の転覆を企んでいると取らねかねない。
だから父は俺を殺そうとしたのだ。
それだけの事を語り終えた母は、地面にそっと頭を下ろした
「あなたは人間になれる·····その姿で一生を過ごしなさい。」
「はい····お母さん····」
俺の返事を聞いて安心したのか、白竜は瞼を閉じて、眠りについた。
転生から約1週間、俺の母親は死んだ。