序 端書き 暗い森の奥で
ソルロア王国から遥か北、二つの山脈と1つの湖を挟んだ所にある大陸の果て、〈魔窟の森〉。
多くの魔物が潜むその森には当然民家などあるはずもなく、ただジメジメとした空気と高い樹木だけがその存在を誇示していた。
そんな森の奥の奥には、かつては大樹であっただろう大きな切株が立っている。
直径50メートルはありそうな切株は、中が空洞になっており半分が水に浸かって沼地の様になっている。
勿論衛生状態は悪く、中には誤って切株内に落ちてしまった動物の骨や死体を食べる虫や蝿などの生き物から一種の生態系が出来ており、深い水たまりの中には未だ人間に発見されていない新種の魚が泳いでいる。
そんな環境に、人間の赤ちゃんが倒れている。
「オギャァ、ギャァ」
幼児は空に鳴き声をあげるも、それに応える筈の親は見当たらない。
すると赤ん坊が、徐々に竜の子供に姿を変える。
「グギャア····ギャァァァ」
最も、その声にも応える親はいない。
竜の大きさは40センチ程、薄汚れた鱗に煤けた爪。それは高潔な竜のイメージとはかけ離れたもので、更に言えば普通の竜は人間になる事は無い。
体を引きずる様に泥の中を進む子竜は、水たまりの澱んだ水を1口飲んで動かなくなった。
·····体の周りを蝿が飛ぶ。
久しぶりのご馳走に焦った1匹が動かなくなった子竜に近づくが、微弱ながらも強力な竜の魔力に触れて距離を取る。
離れては近づき、離れては近づき·····。
◇◇◇
ハエがうるさい·····。
·····ここはどこだ?·····ともかく起きなければ·····。
いつものように起き上がろうとするが、体が動かない。
なんだ?
体の様子が····。
ふと気付いて目を開ける。
視界に入るのは見慣れたベッド·····ではなく、見覚えのない薄暗い水たまりだった。
上には円形に切り取られた曇り空が見える。
周囲は壁に囲まれており、暗くてよく見えないがどうやら壁は木で出来ているようだ。
違和感を感じ、自分の体を見下ろす。
·····なんだよこれ?
そこにいたのは薄汚れた灰色のトカゲ····の様な生き物だった。
ドラゴン·····なのか?
ってことは異世界?
·····よっしゃぁぁぁぁぁー!!