異世界転移もの
「悪いね田中さん。あんたは悪くないんだけど、世間体ってやつがね。本当は違うとこ紹介したいんだけど、すまないね」
なんとか就職できたと思ったら、一ヶ月で首になった。
これで5社目だ。
首になる理由はいつも同じだ。
原因は最初に首になった警備会社に勤務していたときの事だ。
私は田中太郎30歳。
大学を卒業しても大きな目標が有るわけでもないため。
警備会社に就職し、いわゆる高級マンションの警備員をして、なんとなく生活をしている状態だった。
高級マンション警備というのは、居住者の意向に左右されることが多いのだが、私は特にミスをすることもなく、穏便に勤務していたと思う。
だがそれは起こった。
いつものように外の巡回をしている時に、マンションの住民の女子高生が、身長の高い痩せた男に絡まれているのを見つけた。
別に正義感があったわけではないが、放置して後で問題になっても困る、私は武道の経験はないが体格だけは良かったので、こういった場合声をかけるだけで終わるはずだった。その慣れがいけなかったのかも知れない。
突然ナイフを出してこちらに襲いかかってきたのだ。
慌てて対応しもみ合いになった後、もつれて倒れてしまった。
男はナイフをもう一本隠し持っていた。
一本は私の腹に刺さっていたが、もう一本は男の胸に刺さっていた。
腹にナイフが刺さったまま、警察・救急・マンション・会社と連絡できたのは、私の腹が太かったからだと思う。
女子高生は青い顔をして立っていたが、このままここに居てもらっても仕方ないので、一度部屋に帰ってもらい、後でまた連絡が行くと思うと伝えた。
それからは私もはっきり覚えていないが、あっという間に時間が過ぎていった。
ナイフは男の持ち物だったし、外の防犯カメラには一部始終が映っていた。女子高生も証言してくれたようで、私は正当防衛でなんの問題も無かったはずだった。
詳しくは知らないが、男の家族はかなりやばかったみたいだ。
最初の報道では女子高生を守った警備員だったが、何故か武道の経験者が男を殺したという話になり、最後には私は殺人者として報道されていた。
別に逮捕されたわけでもないのだが、入院中に会社からは首にされた。
それから4社に入社は出来たのだが、どこで調べるのか、直ぐに執拗なクレームが入り首になった。
毎日ハローワークに通う日々。会社都合のため待機なしに失業手当は貰えたが、5社で首になるともうどこも雇ってはくれない。期限を過ぎ延長を申請したが、なぜか通らなかった。
理由の説明もなかったが、全く受け付けては貰えなかった。
たぶんそういうことなんだろう。
そうして失業してから1年が過ぎ、もう生きる気力も無くなった頃、ハローワークから封筒が届いた。
中に入っていたのは『新世界貿易調査機構』という、よくわからない会社の求人だった。
なぜ自分にこんな求人がと思いネットで調べてみたが、ホームページどころかなんの検索にもかからない。
怪しい。怪しすぎる。
とは言え、ハローワークが送ってきたということは、まともな会社に違いないと思い込むことにし、応募してみることにした。
何故か書類審査が通り、面接まで行くことが出来た。
場所は池袋の東側。込み入っていて雑多な辺りだった。
郵便受けを見ると、薄汚れたビルがまるまるその会社のもののようだ。
面接自体は特に何もない普通の面接。
気になるのは、身辺の話が多かったことくらいで、たしかに私は両親も他界していたし、あの事件の後知り合いからの連絡は完全に無くなっていたが、そんなことを聞いてくるのはまさか犯罪が絡むのか?と思ったくらいだ。
最後に質問はありますか?と聞かれたので、落ちて元々だし素直に聞いた。
「大変失礼なことかと思いますが、いろいろ調べたのですが貴社の仕事内容を存じ上げておりません。先程待遇や給与については伺いましたが、全く知らないのです。
おかしなことと思いますが、自分はこの一年求職活動を続けており、働けるならどんなところでもと思っていますが、どうしたら良いのかと思いまして」
そうしたら真面目な顔で教えてくれた。
「仕事内容は機密事項が多いためお教えすることが出来ません。もちろん犯罪関係ではありませんし、いわゆるブラックなことも有りません。そこは信じていただくしか無いのですが」
え?それだけ?話は終わったと言わんばかりの態度に呆然としていると
「他に質問はありますか?無ければこれで面接を終了させていただきます。受付で交通費の精算をしてお帰りください。結果は後日連絡させていただきます」
わかっている。これは最初から落ちているのだなと。
なにかの理由で面接まではしたっていう形にしたかっただけなのだろう。
そう思い家に帰ってお酒を飲んで忘れることにした。
一週間後届いた封筒を開けて中を見るまで、すっかり忘れていたことだった。
中に書いてあったのは今後の日程と、辞退する場合の手続きが書いた一枚の紙だった。
意味がわからなすぎる。
とは言え採用してもらえれば、最悪また首になっても、もう一度失業手当がもらえると思い、就職を決めた。
一ヶ月後初勤務
動きやすい格好での出社とあったので、ジーパンに白いシャツ姿で出社した。
担当の男に続き地下に進む。
男はしっかりと折り目のついた、センスの良いスーツ姿。
霞ヶ関の官僚といった感じ。
地下二階の奥の部屋は塾の教室のようだった。
「本日の予定を説明します。まず二時間ほどビデオを見ていただき、その後一時間の休憩をはさみ。午後からは現地に行って、今後の仕事内容の説明をいたします。一七時にはこちらに戻り本日は解散となります」
そう言ってビデオが始まったのだが
漫画か小説の設定が永遠と流れる
内容は
もともと一つの世界が有り、そこには魔素があった
人類は魔素を使い魔法や魔道具を作り、人類以外と戦いなんとか生活圏を得た
やがて生活圏が安定し、人類以外と揉め事も減って平和になった
だが人類の中に、魔法を使える者と使えないものが居た
魔法を使える者は魔法を使えない者のために、魔道具を作り生活を支えていた
だが、魔法を使えない者はその状況に苛立ち、そして反乱を起こした
魔道具を使っての反乱だったので勝ち目はなかった
魔法を使える者の中で特に優秀な者たちが、神様と相談して問題の解決をすることにした
それは、魔素のない世界を作り、そこに魔法を使えない者を移住させること
そうしてできたのが、今いる裏の世界
魔素のない世界
だが、神様は元々一つの世界を二つにしたため、管理の手間が増えた
特に裏の世界は魔素がない分、表の世界とバランスをとった時に、凄まじく広くなってしまった
おまけに魔素がない世界なため、直接手入れをすることが出来なくなってしまった
長い年月が経ち神様は、裏の世界の人類も落ち着いてきたため、もう一度元の世界に戻すことを考えた
とは言えいきなり二つを一つには出来ないし、どんな不具合が有るかわからないから、ちょっとずつ調査のために、人を送ることにした
細かい設定が沢山あったため、ざっと理解できたのはこれだけだ。
いやこれを見せられてどうしろと?私にこれで小説を書けということだろうか?
わからない。わからなすぎる。
取り敢えず食事をし、再び地下の教室で待っていると。
「もう大丈夫ですか?大丈夫なら少し早いですが現地に向かいます」
現地?そう言えば最初も言っていたが、現地ってなんだ?
連れて行かれた先は地下三階だった。
地下三階は大きな一つの部屋になっていて、壁はコンクリ打ちっぱなしで、床には巨大な魔法陣が書いてある
え?なにこれ?
気付いたら壁がコンクリから木目のものに変わっている
「着きましたよ。後はそちらの方の指示に従ってください」
言われて男を見ると、もう居ない
頭の中で身内が居ないことを調べたのはこれかとか、いやいやそんな事有るはずがないとか、もう何を言って良いのか全くわからない
そんな混乱状態の私にスーツ姿の女性が近づいてきて言った
「はじめまして、ようこそ表の世界へ」
私はとんでもないことに巻き込まれたらしい