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管理機関プロメテウス広報室の事件簿  作者: 石動なつめ


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16/20

改良されたイカロス

 大きな揺れの後に、小さな振動も何度か続く。

 まるで何かが暴れているかのようだ。

 何が、と考えていると、スメラギの眼鏡からツバキの焦った声が響く。

 

『室長、室長! 報告します! メノウさん達が、狂鬼の集団と遭遇しました!』

「詳しく」


 短く、スメラギはそう返す。

 メノウとイツキは確か、人質の救出に向かっていたはずだ。

 ツバキは『先に見取り図を送ります』と言った後、ピピ、と音がしたかと思うと、スメラギの眼鏡の片方のレンズに、地図らしきものが映し出された。

 スメラギの眼鏡は特注で、通信機などいくつかの機能が仕込んであるのだ。武器やタブレット等、持ち物の類は取り上げられてしまったが、さすがに眼鏡に何か仕込んであるとは思わなかったのだろう。今まで敵対した相手で、これ(、、)に気づいた相手は、シラハが知る限りではいない。


「おや、このホテル、地下四階まであるのか。来る前に確認した館内マップには載っていなかったね」

『ええ、そこは表に出ていない情報なんです。プロメテウスへの申請書類にも入っていませんでしたよ。室長のタブレットの反応がロストした後に、匿名で広報室に送られて来たんです』

「ああ、それは」


 エイカだろうな、とシラハは思った。

 匿名で、という部分から浮かぶ人物は、今のところ一人しかいない。


「場所は地下四階、人質が捕まっている場所です。そこに狂鬼が出現しました。数は四』


 これにはシラハも「四人?」と驚いた。狂鬼は単体で現れる事がほとんどない。血が足りないという状況があっても、四人も吸血鬼がいれば、大体は何とかできるからだ。

 イカロスを同時に服用したならともかく、自然発生ではあり得ない。


 恐らくは前者だろうが、同じ場所に何故、四人も吸血鬼が集まっているのだろうか。

 彼の部下――とは一瞬考えたが、どうも腑に落ちない。

 先ほどの言葉からすれば、カナタ・ウノハナはプロメテウスはもとより、吸血鬼自体を憎んでいる。

 知り合いだったらしいエイカは別として、吸血鬼を憎む彼が、吸血鬼を仲間に引き入れるとは考えにくかった。


 では、何故か。

 その理由と発生場所を考えて、シラハは一つの可能性に思い至る。


「カナタ・ウノハナさん。あなた、人質にイカロスを飲ませましたね」


 そう、パーティー会場で眠らされた人質だ。あの中には吸血鬼も数人混ざっていたはずだ。

 カナタを見下ろしながらシラハが問うと、先に反応をしたのはエイカだ。


「イカロス? 馬鹿な。あの程度なら、私の血の芸術(ブラッドアート)で抑えられるはず……」


 訝しんだ様子のエイカに、カナタは口の端を上げた。


「改良済みのイカロスだ。一粒で、効果は倍。本来のイカロスで多少残っていた理性も、綺麗に吹っ飛んでいるよ。あんたの血の芸術(ブラッドアート)を振り切れるくらいに」

「カナタ君、あなた」

「僕の目的に、あんたはずっと反対していた。保険ってのは、こういう時のためにかけておくものだろう? 動画サイトを見たらといいよ。只今絶賛、ライブ配信中だから。視聴者数面白い事になっているよ」

「…………」


 くつくつ笑うカナタに、スメラギが目を細くする。


「なるほど。それはそれは、実に良い()が撮れるだろうねぇ! ――――ツバキ君」

『はい!』

「警備部を数人こちらへ残して、他はユキ君と一緒に地下へ向かわせてくれ。ボク達も直ぐに行く」

『分かりました! あと、ライブ配信の方、ボクが何とかします!』

「良い感じで頼むよ! 急に切ると不安感が増すから、その辺りはよろしく!」

『合点承知です!』


 ツバキに指示を飛ばすと、スメラギは「さて」とカナタを見下ろした。

 普段の、笑顔を貼り付けたような表情は鳴りを潜め。その一言で『無』になった。

 ただ、目だけには感情の色がある。射るような冷たい眼差しだ。


「カナタ・ウノハナ君。キミは確かに、かわいそう(、、、、、)な過去を持っているのだろう。だけどね、プロメテウスの法はそれを許さない」

「許さない? ――――僕だって、許さないさ。法を守らないのはお前たちの方だ! クズを守って、人を守らない法に意味なんてあるものか!」


 カナタは怒鳴る。その声に、シラハがピクリと反応をした。

 シラハは大体の言葉は聞き流せる。もちろん感情が揺れる事はあるけれど、それを外に強く表現する事は滅多にない。

 そうやって、プロメテウスに入って二年――いや、家族がいなくなって十年生きて来た。


 だけど唯一、聞き流せない言葉がある。


「法を守らない者に、そもそもの意味なんて与えられませんよ」


 気が付いたら言葉が出ていた。スメラギが珍しく目を丸くしているのが横目に映る。


 シラハの家族はプロメテウスから『反乱分子』として処分された。

 七歳のシラハが、いつも通り学校から帰ってくると、家にはプロメテウスの制服を着た者達が大勢いた。ほとんどが吸血鬼だった。

 そして、その向こうに血まみれで倒れた家族の姿があった。

 まだ幼いシラハは何故そんな事になっているのか分からなかった。

 動揺して、叫んで、縋りついて、泣いて。そんなシラハに、プロメテウスの者達は何故か銃口を向けなかった。

 幼いシラハが反乱分子に加担しているとは思わなかったのだろうし、恐らくそういうデータも出てこなかったからだろう。

 そして自分達でシラハの両親を処分しておいて「かわいそうに」なんて憐れんだのだ。


 シラハも最初は憎んだし、恨みもした。今も思う所はある。

 けれどプロメテウスの者達は、不気味なくらいシラハに優しく接した。

 そして彼女を、プロメテウスが経営する養護施設へ預け、定期的に様子を見に来てくれたのだ。


 気持ちが悪い。吐き気がする。どの面を下げて。幼いシラハだってそう思った。

 吸血鬼にとって人間の子供なんて、愛玩動物でも見るような感覚なのかもしれない。

 憐れまれ、形式的に大事にされ、シラハは育った。その過程で、聖人体質という事が判明してからは、よりそう(、、)だった。まるで腫れ物のように、他人はシラハに接する。


 そうやって生きる中で、シラハは学んだ。学ばされたという方が正しいかもしれない。

 プロメテウスの法は絶対で、その枠組みから外れようとしたとたんに、異端だと、反乱分子だと言われ、罪人として扱われる。


 しかし法を守っていれば別だ。法の中では人間も吸血鬼も平等で公平。

 それが目に見える場所だけのポーズだけだったとしても、法を守っている間は法に守られる。


 シラハは管理機関プロメテウスが嫌いだ。吸血鬼だって好きじゃない。

 だけど、ここでなら。ここにいれば、関わっていれば。両親のように『反乱分子』だと、強権で処分される人間を少しでも助けられる。

 幼い頃に何も出来ず、何も知らずに終わった後悔を、誰かが繰り返さないように。

 

 だからシラハはプロメテウスに入った。狗と蔑まれても、そう生きようと決めたのだ。

 そして、だからこそ。

 カナタのその言葉だけは聞き流せなかった。 


「悪法を守れというのか!」

「プロメテウスの定めた法に、どのような場面でもプロメテウスの吸血鬼を優先しろというものはありません。逆もね。それをしろと言い、それを受け入れたのならば。――――そいつらはただのクズです」


 けれど、とシラハは続ける。


「それはあなたもです、カナタ・ウノハナさん。ご自覚が、ありませんか」

「――――」


 諭すように、淡々と。

 カナタは言葉を失い、目を伏せた。


 その時だ。

 部屋のドアが、蹴破るような勢いで開けられた。

 反射的にそちらに視線をやれば、プロメテウス警備部の者達が飛び込んでくるのが見えた。

 彼らは状況を確認すると、シラハ達に駆け寄って来る。


「お二人とも、ご無事ですか!?」

「ああ、無事だよ。早かったね、さすがプロメテウスの警備部だ!」


 スメラギは軽く手を挙げてそれに応える。

 そして「ここ、後はよろしくね」と頼んだ。それなら、とシラハはエイカを見る。

 

「スメラギ様。エイカさんはどうします?」

「ま、事情を聞く必要があるからね。悪いんだけど、一度拘束させてもらうよ」

「ええ、構いませんよ。そのくらいは覚悟していましたから」


 エイカはにこりと笑ってそう言った。大人しくしていてくれるようだ。

 先ほどの様子からして、嘘ではないだろう。


「それでは、メノウ君達の所へ加勢に行くよ、シラハ君!」

「承知しました」


 そしてスメラギが走り出すと、シラハも後に続いた。


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