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管理機関プロメテウス広報室の事件簿  作者: 石動なつめ


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14/20

柚子の浮かんだフルーツティー 前編

 その後、シラハとスメラギの二人は、倒れた招待客とは別の部屋に連れて行かれた。

 パーティーが行われていた高級ホテルの最上階、いわゆるスイートルームという奴だ。

 もちろんシラハは、今までの人生で一度も足を踏み入れた事はない。

 部屋を囲む広い窓の向こうには、キラキラと輝くアイゼンゴッドの夜景が広がっていた。


 シラハ達は背中に銃口を突きつけられながら、リビングのソファーに腰を下ろす。

 向かい側には先ほどの会場にもいた、ウノハナ・インダストリーズ社長のカナタ・ウノハナが座った。


 ウノハナ・インダストリーズは、ピアノやヴァイオリンなどの楽器の製造・販売を行っている会社だ。音楽に携わる者ならば、このメーカーの名前を知らない者はいないというくらいに名が知られている。

 現社長はカナタ・ウノハナ。歳はシラハとそう変わらない。前社長夫妻が事故により亡くなった事で後を継いだと新聞で読んだ。

 容姿は薄茶のショートヘアに、紫色の瞳をした痩せ型の少年だ。長めの前髪でやや隠れた目に、白い肌という事もあって、気弱そうな印象を受ける。

 しかしシラハは覚えている。パーティー会場で彼はブローチを身に着けず、倒れた人達を涼しい顔で見ていたのを。


 注意深く観察していると、シラハ達の前にスッとティーカップが置かれた。柑橘系の果物が浮かんだフルーツティーだった。

 この香りは柚子だろうか。スメラギが一瞬、ティーカップに視線を向けたのが横目に見えた。

 置いた相手に顔を向ければ、そこにはエイカ・アサクラがいた。どうやら彼が出してくれたらしい。

 シラハと目が合ったエイカはにこりと微笑むと、カナタの隣に腰を下ろした。


(フルーツティー……柚子の花言葉は……) 


 そんな事を考えていると、向かいの席でカナタが口を開いた。


「先ほどは……その、失礼しました。僕はウノハナ・インダストリーズの、カナタ・ウノハナと言います」

「ええ、存じておりますよ。かの有名な楽器メーカーの社長殿! まさか、こんな形でお会いするなんて思いませんでした。いやぁ、世の中色々ありますねぇ」


 カナタの挨拶に、スメラギは営業スマイルを貼り付けてそう答えた。

 笑顔で嫌味を込める辺り、あまり良い感情は持っていないようだ。

 まぁ、第一印象が最悪だったので、その辺りはシラハも同感である。


「――――で、その社長さんとエイカさんが、僕達だけ呼んで何の御用でしょう?」


 若干、挑発するような声色でスメラギが問う。


「まぁまぁ、そう焦らないで。まずはフルーツティーをどうぞ?」

「いやはや御冗談を! この状況で、キミ達みたいなわるーい奴らが淹れたお茶を飲めと?」

「フフ。悪い奴らだなんて、そんな」


 エイカは心外だと言わんばかりの様子でくすくす微笑む。

 どう考えても悪い奴らである事に変わりはないが、相変わらずの調子である。


「エイカ」

「ああ、カナタ君までそんな怖い顔しないで。ちょっと緊張を解そうとしただけじゃないですか」


 カナタから咎めるような目を向けら、エイカは肩をすくめる。そして「じゃあ、黙っていますね」と口を閉じた。

 それを見てからカナタは再びシラハ達に顔を向ける。


「あなた達に来て頂いたのは、協力を頼みたかったからです」

「協力?」

「そうです。僕達はプロメテウスの変革を考えております。そのために、プロメテウス内部に影響力のある方の力を借りたいのです」

「変革ですか」

「ええ。……今のプロメテウスは、人間と共存を掲げていても、その実態は吸血鬼至上主義だ。いつだって人間は下で、どう扱っても構わない存在」


 カナタは一度言葉を区切り、テーブルの上で手を組み、そして、


「僕はそのせいで、両親を失いました」


 と言った。

 伏せられた目を見て、シラハは少し首を傾げる。


「失礼ですが、あなたのご両親は事故でお亡くなりになったのでは?」

「そうです。自動車同士の衝突事故で。過失は相手側、飲酒運転でした。大怪我を負った両親は病院に運ばれ――――同時に運び込まれた吸血鬼の治療を優先された結果、助からなかった」

「…………」

「あいつらは……怪我は、確かに負っていた。だけど、命に係わるような怪我ではなかった。なのに病院が先に治療をと選んだのは吸血鬼だった! そいつがプロメテウスの役職持ちだったから!」


 だんだんとカナタの語彙が荒くなる。音が聞こえそうなくらい、強く歯を噛みしめている。

 あれ、とシラハは思った。どこかで聞いたような気がしたからだ。

 どこだったか記憶を探りながら、シラハはカナタに聞く。


「なるほど。失礼を承知で言いますが、私怨という奴にあたりますか」

「……ええ、そうです。僕は吸血鬼が、プロメテウスが、憎くて憎くて仕方がない。こんな事が罷り通るような、ふざけた組織は変えばければならない。お二人だってそう思うでしょう? あなた達も、プロメテウスに家族を奪われているのだから」

「――――」


 そう言われて、シラハはほんの少しだけ目を開いた。

 どこまで調べられているのか。特別隠していたものではなかったが、面と向かって言われたのは初めてだった。

 それに、とシラハはスメラギを見る。スメラギは相変わらず、本心の読めない表情をしている。

 今、カナタは「あなた達二人も」と言った。それはつまり、スメラギもプロメテウスに、何らかの因縁があるという事だ。


「初耳ですね」

「初出の情報だからねぇ。そういうの、自分で言う事じゃないだろう?」

「そうですね、その通りです。――――そして他人から聞かされるものでもない」


 短くそう言うと、シラハはカナタを見る。

 カナタは少し驚いた様子で目を丸くしていた。


「驚かない……のですね」

「それなりに驚いてはおりますが」

「ま、シラハ君の反応が薄いのはいつもの事だからね! これがクーデレという奴だよ!」

「私にデレの要素など欠片もないでしょう。生粋のクーデレに失礼です。ところでツンデレはどこへ行ったのですか?」

「旅に出たよ! 今はクーデレとバトンタッチさ! だけど相変わらずツレないねぇシラハ君は。そこが良い!」


 あっはっは、と笑うスメラギ。相変わらずな調子だ。

 けれど、逆にカナタは困惑していた。動揺なんて欠片も見せない二人が、想定していたものと違っていたからだろう。


「何故……」

「何故、と言われてもね。僕には逆に疑問だよ。キミは何故(、、)その話で、共感が得られると思ったんです?」


 僅かに首を傾けて、スメラギは聞き返す。


「同情心? 猜疑心? トラウマ? ああ、それとも。その事で僕やシラハ君が、プロメテウスに、弱みでも握られていると思ったんです? だとしたら」


 そしてスメラギはシラハを見る。何を言わんとしているのか、シラハも分かった。


「「論外」」


 そして二人同時にそう答えた。

 スメラギは「そう!」と殊更楽しそうに笑う。


「生憎と、僕は自分でプロメテウスで生きる道を選んだ」

「私も自分で選択してここにいます。他人の過去を引っ張り出す事でしか協力を得られないとお考えならば、お止めになる事をおすすめします」


 そして、揃ってそう言い切ると、今まで黙っていたエイカが噴き出すように笑い出した。


「ふ、はは! あははは! やっぱり、面白いなあ!」

「ッ何を笑っているんだ、エイカ!」

「だっておかしくて。カナタ君、私は最初に言ったでしょう? 彼らを仲間にするのは無理だって。あなた、知り合いだった私ですら(、、、、)、脅さなければ協力させられないんですから。二人にだって、結局はそうでしょう?  だから大勢を人質に取った」


 エイカは、最後は棘のある声でそう言った。

 脅さなければ、と彼は言った。そして先ほども彼は自分の事を「関係者」と告げた。

 つまり味方ではない、と訴えているのだろう。


(嘘か本当かは判断しかねるけれど――――先ほどのフルーツティー)


 シラハはちらり、と目の前に置かれたティーカップを見下ろす。鮮やかな赤色の紅茶に浮いているのは、薄くスライスされた柚子だ。

 柚子の花言葉は、穢れなき人や、健康美だったはずだ。吸血鬼の古い風習で考えて解釈すると、恐らくエイカは『自分は敵ではない、危害を加える気はない』と伝えたいのではないだろうか。

 シラハがそう考えながら視線を上げると、カナタと目が合った。

 彼はギッとシラハ達を睨むと「……なら」と呟く。


「プロメテウスが、吸血鬼がいかに邪悪で嘘っぱちか。あなた達お得意のプロモーションビデオとやらで、この世に示してやるさ!」


 彼の怒鳴り声を合図に、周囲に控えていた彼の部下たちが一斉に、シラハ達に銃口を向ける。

 

――――その時、部屋を照らしていた照明が、突然消えた。



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