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管理機関プロメテウス広報室の事件簿  作者: 石動なつめ


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11/20

ケチャップとマスタードたっぷりのホットドッグ

 シラハの家族は十年前、彼女が七歳の時に亡くなった。

 正確に言えば、反乱分子として、管理機関プロメテウスの職員に処分された。

 気の弱い医者の父と大らかな学者の母、そして八つ年上の穏やかな兄。

 そんな三人が、プロメテウスから人間を解放しようと活動していたとは、シラハは知らなかった。





 サザナミが起こした騒動の諸々の処理を終えた頃には、夜中の一時を越えていた。

 さすがに動き通しで疲れた広報室一同は、アイゼンゴッドの西区にある、洒落たカフェを訪れていた。

 店の名前は『アイス&ホット』。コーヒーみたいな名前だなとシラハは思ったが、その通り。この店はコーヒーに力を入れているらしい。

 だが、四人はコーヒーよりまず腹ごしらえだった。


 シラハとイツキはホットドッグにコーヒー。スメラギとメノウはナポリタンにブドウジュースだ。

 料理が到着すると吸血鬼の二人はまず、鞄から赤い液体の入った小瓶を取り出した。彼らの主食である血液だ。

 二人はそれをぐい、と口に含むと、何とも苦い顔をしながら、直ぐにブドウジュースで流し込んでいた。


 血液が主食の吸血鬼にしては珍しく、スメラギとメノウはそれが苦手なのだ。

 特にスメラギは人間の血液は絶対に口にしないと決めているらしく、今飲んでいるのは動物のそれ。

 人間の血と比べるとエグみ等が強いので、吸血鬼からすると相当不味いらしい。メノウは人間のそれを飲んでいるが「いくら苦手でも動物のものは飲める気がしないよ」と前に言っていた。

 ちなみにここにはいないが、広報室に在籍する残り一人の吸血鬼は普通に血液を摂取しているので、やはり二人が変わっているのだろう。


 そんな事を考えながら、シラハはホットドッグにケチャップとマスタードを大量にかけた。


「……いつも思うけどさ、シラハ君。キミのホットドッグ、本当にそれで良いの?」

「何がです?」

「ケチャップとマスタードの量だよ量。それ、明らかに味を殺していると思うんだよ」

「これ如きでパンとレタスとソーセージの味が死ぬとでも?」

「普通は死ぬんだよ」


 真顔で返すシラハに、スメラギはツッコミを入れた。

 そうだろうかとシラハは首をわずかに傾げる。今まで同じ食べ方をしてきたが、個々の味はしっかり感じているからだ。

 ……まぁ、本人の思い込みの可能性も否めないが。

 するとメノウとイツキも苦笑して、


「あはは。でもシラハちゃん、少し味音痴なところはあるよね」

「ああ……確か以前、ハンバーガーにも似た事していましたよね」

「あれ如きでバンズとパティとトマトとレタスの味が死ぬとでも?」

「普通は死ぬんだよ」


 同じツッコミを受けてしまった。解せぬ、という顔になるシラハ。

 だがお構いなしに大量にトッピングを施したホットドッグを頬張る。美味しい。

 スメラギ達は「うわぁ」という顔をしながら、それぞれ自分の食事を開始した。


「あ、美味しい。ここの店、初めて入ったんだけど、美味しいね!」

「だろうだろう? 僕オススメのお店だよ!」


 フフン、とスメラギが自慢げに笑う。

 アイゼンゴッドの西区と言えば、スメラギが住んでいる場所だ。それなりに良く来るのだろう。


「そう言えば、さっき報告が来たけどさ。ユキ君達の方にも出た(、、)ってさ。狂鬼」


 ユキと言うのは、広報室に在籍する職員の名前だ。

 確か彼らは東区の方へ出かけていたはずである。

 

「それは『イカロス』関係ですか?」

「そうそう。まったく迷惑な話だよねぇ」

「プロメテウスの諜報部で製造元の特定はできないのかい?」

「潰せども潰せども湧いてくるんだってさ」


 まるで害虫みたいだよね、とスメラギは言ってナポリタンを食べる。

 話を聞いて、シラハは「ふむ」と呟く。


「製造方法が売られている、とか?」

「そのセンが強いね。ま、どっちかと言うとロイヤリティの方かもしれないけど」

「違法な事をしているのに、使用料はちゃんと払うのかい?」


 メノウの言葉にスメラギは「そこなんだよ」と頷く。


「どうもそこに呪術がね、絡んでいるみたいで」

「呪術ですか」

「そうそう。製造方法を売るだろう? で、その時交わした契約を反故しないように呪術で縛る。そういうのが行われている様だ。さっき拘束したサザナミも、何度か関わった事があるそうだよ」


 なるほど、そういう仕組みかとシラハは納得する。

 悪党同士の契約なんて、いつ破られてもおかしくはない。

 だからこそ呪術という形で縛り、反故すればそれ相応の報いを受ける、という形にしておけば、相手は契約を守ろうとするだろう。

 ロイヤリティはともかくとして、製造法の黙秘等を組み込めば、プロメテウスに拘束される事があったとしても問題ない。

 上手い事を考えたなとシラハは思った。


「つまりサザナミに依頼した相手を探せば、また一つ潰せると」

「そういう事。ま、一応はね、記憶を消す系の呪術をかけられたらしいけど、解いたってさ。さっきはアレだったけど、呪術勝負には負けない程度に技術があったみたいだねぇ」

「へぇ……。でも腕が良いなら、普通にプロメテウスで登録しておけば、真っ当な仕事が出来たんじゃないんですか?」

「あ、それはそうだね、イツキ君。私もそう思うよ」


 イツキの言葉にメノウが同意する。

 呪術師という職業は特殊だ。吸血鬼の血の芸術(ブラッド・アート)とも違う、個人の努力と才能で会得した複雑な技術である。

 だからこそプロメテウスも職業として認めており、登録さえすればそれなりに良い仕事も斡旋されるだろう。

 けれどサザナミはしなかった。


「彼はプロメテウスが大嫌いだそうだからね。したくなかったんでしょ、普通に」

「ああ、それは仕方がないですね。気持ちは一割程度分かります」

「分かっちゃうんだねぇ……って言おうと思ったんだけど、割合少なくない?」

「嫌いでも法に背いた時点でアウトです」


 シラハも管理機関プロメテウスが好きかと言えば、そうではない。

 けれどここにいるのは都合が良くて、給料も良くて――――ついでに聖人体質という事で、シラハ自身がプロメテウスの監視対象になっているからという理由もある。

 だからプロメテウスが嫌いだというサザナミの気持ちは分かるが、所属している以上、法に背く彼の思考の理解は出来ない。


「フフ、シラハ君らしいね。さすが僕の補佐官だ!」

「それはどうも。……ああ、すみません。ホットドッグをもう一つ」

「うーん、さらっと流された! ところでまだ食べるのかい?」

「ちょっと小腹が」

「使い方がおかしいのでは?」


 スメラギからのツッコミを聞き流しつつ。シラハはコーヒーを一口飲んだ

 そして珍しく素直に「あ、美味しい」と呟いた。コーヒーに力を入れている店にらしく、今までに飲んだ中で一番上品な味だった。

 普段飲んでいるのがインスタントコーヒーや缶コーヒーなだけに、コーヒーが美味しいとはこういう事かとシラハはしみじみ思う。

 そんなシラハを見てスメラギは「そうかい、それは何よりだ」と小さく笑った。


「あ、そうそう。シラハ君。明後日なんだけどさ。エイカさんからパーティーの招待状を貰ったから一緒に来てね」

「急ですね」

「本当にね! 新作ジュエリーのお披露目会だってさ」

「はあ。生憎と着ていく服がありませんよ。つい先ほど破れました」

「キミの場合は破れたというか、ある意味破ったと言うんだけどね? 気をつけようね?」

「経費で落ちなくなったら考えます。それよりもスメラギ様。エイカさんの新作ジュエリーのお披露目パーティーでしたら、それなりな立場の方がいらっしゃるのでは? 私よりメノウ様の方が良い気がしますが」

「エイカさんから、どうしてもシラハ君と僕にって言われてさ。服はプロメテウスで用意するから」


 どうやらエイカからの指名らしい。二人揃ってずいぶん気に入られたようだ。

 それならば仕方ない。シラハは「承知しました」と頷く。


「服の露出は極力下げて下さい。むしろスーツで結構です。下手に接触があれば吸血鬼を焼きますから」

「オーケー、まかせて! パーティーだけどそんなに堅苦しくない感じらしいから、イブニングドレスというよりは、カクテルドレスかなと思うんだけどさ。どう思うメノウ君?」

「ああ、良いね! シラハ君なら瞳の色に合わせて、淡い紫色が良いんじゃないかい?」

「お二人とも、人の話を聞いていますか」


 何やら楽しそうに話し出した二人にシラハは半眼になる。


「ハハ。まぁ、ほどほどの所で落ち着くんじゃない」

「そうでしょうかね」


 苦笑するイツキにそう返した時に、シラハが追加したホットドッグが届く。

 パーティー衣装でわいわい話すスメラギとメノウをしり目に、シラハはケチャップとマスタードを手に取った。そして、前の分と同じようにホットドッグかけ出した。


「……美味しい?」

「美味しいですよ」

「そっか」


 イツキから訝しんだ様子で聞かれたが、シラハは大きく頷いたのだった。

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